Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

ネルビリア? それは栽培ではなく、ただの延命

單花脈葉蘭 (通称、台湾ムカゴサイシン)Nervilia taiwaniana

seedlings , 2019 deflasking.   

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 種子から育成した無菌培養実生。令和元年フラスコ出し、今年度初花。

関連記事はこちら。

 「台湾ムカゴサイシン」は数十年前に台湾から少数が輸入され、たまたま栽培上手な趣味家の棚に収まったため増殖されて100人くらいに分譲されたと言われる種類である。おそらく国内で流通しているのは、その一系統の栄養繁殖品だけだと思われる。

 しかし栽培がクソ面倒(ものすごく環境を選び、好適条件からズレると元気に見えていても新球茎ができなくなる。植え替えや施肥なども完璧にこなさないとジリ貧になって消滅するため、栽培方法を理解していてもちょっと油断すると簡単に全滅する)なので最初の栽培上手からバトンが渡された後、さらに普及が進んでいく事はなかった。

 まだ国内絶種はしていないようだが、商業増殖はゼロなので売品として出回ることは極めて希。まあ現状としては「みんな育てたがったが難しすぎて長期間育てられた人はほとんどいなかった」と総括しておくのが妥当だろう。ネットで検索しても最近の情報はほぼ途絶えている。

 コロナ以前には海外業者が来日時にハンドキャリーで持ち込んだ熱帯産ネルビリア属が普通に流通していた。しかし栽培条件などを考えると、作落ちさせることなく(どんどん小さくなって数だけは殖えている状態にならずに)10年維持できている趣味家は相当に少ないと思う。

・・いやまあ栽培不可能とは言わないが、様子がおかしい、と気づいた時には回復不能になっているので気が抜けない。「元気に見えている」段階で状況に気付ける方でないと長くは付き合えない。育てていて、とてつもなく疲れる植物である。

 そういう方が運良く自分の生活や健康が安定し、情熱も失わず愚直にひたすら世話を続け、順調に増殖できたとしよう。極端に栽培者を選ぶ植物なので、そこから先にバトンタッチする相手がたまたま「すごい人」で、再び増殖に成功するという事は確率的にものすごく低い。育てられもしない方々が手を伸ばしてきて消費され尽くす事が確定している。異論は認めない。

 「結局は救えない、最後に虚無が待っている」クソのような現実ばかりを長年見ていると「俺はネルビリアの栽培に成功した!」などとイキるのはただの中二病だとしか思えない。一個人が一時期だけ頑張ったところで、大局的に見れば人里になじめない野生植物を遊び道具にして命を奪っているだけである。管理人は反省と注意喚起のため自分がやってしまった阿呆を晒しているが、阿呆である事を自覚していないと(していても大差は無いが)ただの痛い人である。

 繰り返すが、売っているのは山盗り苗で、かつ大局的には栽培不能属なのでこういう物に手を出してはいけない。

Rhododendron tashiroi

サクラツツジ沖縄本島国頭村にて。

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 高知県、九州南部から奄美、沖縄、台湾にかけて分布するツツジ国頭村の村花。

 花は美しいが、樹形が間延びしやすく鑑賞栽培にはあまり向いていない。そのため斑入りなどの変異個体以外はほとんど苗が出回らない。

 まあ園芸用であれば育て易く鑑賞価値も高いツツジがいくらでもあるので、わざわざ本種を育てる必要は無いと思う。野外で咲いているのを見つけてほっこりするのが良い。

 余談だが、奄美在住だった日本画家、田中一村(1908-1977)の作品に「サクラツツジオオタニワタリ」という作品がある。美術館で現物を見ると背筋がぞくりと来るような迫力ある絵なのでご紹介したかったのだが、ネットで検索してもピンボケ画像や縮小画像、部分カットした絵など、本物の迫力が何一つ伝わらない画像しか引っかからなかった。

「銀の丘」再始動

 世界的に名を轟かせていた南アフリカのシードハンター、シルバーヒルシードの園主ご夫妻が盗賊(本物)の襲撃によってお亡くなりになった事件からすでに3年。

 南アフリカの固有植物(固有蘭も含む)を一手に扱っていた貴重な業者もこれで活動停止か? と心配されていたが、このほど後継者の方がホームページをリニューアルオープンした。

(上記がリンク切れの場合、Silverhill seedsで検索してサイトにアクセスしてもBandwidth Limit Exceeded(サイトの月毎の契約転送量が使い切られたため、来月まで表示できません)になっている場合があります)

 南アフリカ産の地生蘭は一般的に菌依存性が高く、フラスコ培養する時に普通の培地では育てられない種類が多い。どちらかと言うとアツモリソウとかオフリスとか、そういう変態ランの培養手法に近い。

 そういうランの種子を取り寄せて鉢播きで開花させてしまった恐るべき方(管理人ではありません)も日本国内に存在していることを確認できるのが、インターネットの恐しさである。

 とりあえず再始動を祝いたい。

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ちなみに現在は販売していないが、こういう珍品の種子も販売していたことがある。

*2021年、関連記事を追加

海マリモ

沖縄島固有の希少植物、クビレミドロ Pseudodichotomosiphon constrictus

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海藻の一種だが、緑藻でも紅藻でも褐藻でもないクソ珍しい植物。知人は海マリモと呼んでいるが、マリモとは縁遠い。

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絶滅が危惧されているため人工培養法が研究されているが、報告書を読んでみると個人では取り組む気にもならないほど育てるのが面倒臭い。まあこういうものは一般人は野外で観察してフーンと感心しておく以外に何もできない。

 

 強烈な日照と清浄な海水、適度な流れがあって泥が沈殿せず、それでいて波で荒れることもない綺麗な砂の浅瀬、つまり今の沖縄ではものすごい勢いで消失しつつある特殊環境に局所的に残存しているにすぎないので、いつまで観察できるか非常に怪しい。このへんはまあ、沖縄の開発と土木利権がとんでもなくアレで、しかもコロナで将来性がポシャって自然環境保全も開発計画も両者共に焼け野原、県民の得になる要素が何一つ残ってないんですが、という話になってくるのだけれども、精神的によろしくないのでやめておく。

 

 沖縄には淡水エビの筋肉に寄生するマリモの親戚とか、陸封化されたアオサ属とか、昔は食用にされていた淡水モズク(紅藻)とか、生物好きが聞いたら「え、そんなのいるの?」と食いつきそうな藻類も多いのだが園芸ブログとは無関係な連中なので省略。お暇な方はググってみると視野が広がると思う。

オキイワチドリ(誤字ではない)

Amitostigma lepidum X Ami.keiskei

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 オキナワチドリ大点花♀ X イワチドリ紅一点花♂ 

 オキナワチドリとイワチドリを交配してみたらどう? などと冗談で言う方は時々いるが、花期が一致しづらいので開花調整しないと交配できない。そのため実際にやってみた方はほとんどいないと思う。画像個体は秋から冷蔵処理をかけたイワチドリ球根を冬に発芽させてオキナワチドリに花期を合わせ、その花粉を使用している。ちなみにイワチドリは1果実あたりの種子量が少ないので、種間交配(受精成功率が低い)の母体に使った場合は確率的にほとんど種子が得られない。オキナワチドリを母体にした場合でもかたっぱしから交配して親株同士の相性が良い組み合わせのみ、数えるくらいの苗ができる程度の成功率である。

 以前、イワチドリの育種をなさっておられる方がオキナワチドリとの交配に興味を示しておられたので、4倍体オキナワチドリの球根を進呈した事がある。4倍体イワチドリと交配すれば稔性のある実生(複2倍体)ができて後代の育種が可能になるはずなので試してみてほしい、とお願いしたのだが、実際に交配するとなると非常に面倒だったようで、すぐに興味を無くしてしまって進呈したオキナワチドリは処分されてしまったと聞く。管理人も自分自身でやってみたかったのだが4倍体イワチドリは当地では維持が困難で、実験用に使い捨てにできるような値段でもないため断念した。

 ちなみに交配受精が成立しにくいに留まらず、成立しても完熟する前に胚が崩壊枯死する。そのため未熟胚のうちに果実から取り出してフラスコ培養で育成しないと苗が得られない。

 実生には冬緑性の秋咲き個体と、夏緑性の春咲き個体が混在していたが、当地では夏緑性個体は夏越しできなかったため現在栽培しているのは前者のみ。

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 オキナワチドリが母体だが、葉姿はイワチドリに近い。DNA解析していないので証明はできないが、外見から見る限りでは受粉刺激による単為発生ではなく、実際に交配が成立していると思っている。

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 花型は乱れが強く、園芸的にはあまり特筆すべきものではない。花粉ができず、母体にして戻し交配しても果実が膨らむ様子はまったく無いので、育種的にはここで打ち止めである。そういう交配種であれば、苦労して作出する意義は見当たらない。

 マッドサイエンティストが生み出した悲しい生物という感じで、興味深くはあるが面白がって世に広めるような花ではあるまい。自分でやっておいて言うのも何だが、こういう発展性の無い生き物を遊びで生み出すのは趣味が良くないと思う。園芸的に寄与する可能性が無い事が確認できたので、オキナワチドリ系の種間交配はもう二度と試すつもりはない。

関連記事はこちら

あなたはナリヤランの事を知らない

Arundina hybrid 'alba'

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 ナリヤラン種群間交配個体、3.5号鉢。小型個体群純白花と、おそらく亜種として分類されるであろう矮性濃色個体群の交配個体(後述)の種子から育てた第二世代。

端的に言うと(白X 赤)Xセルフ。

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 まあ鑑賞的にはそれほど悪くないと思うが、花持ちがよろしくない(2日程度)なので鉢花として出回る可能性は無い。

別個体。撮影時の草丈は約15cm。

 

こちらはさらに別の個体。上個体よりも丸弁で草丈も大きい。

 

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 ちなみにこれらの純白花の親個体(白X赤)はこういう花である。片親が濃色花なので交配第一世代もわりと濃色。この花の種を播くと4分の1の確率で純白花が出る。濃色花の実生がどうして純白になるのか、という理屈については調べれば判ると思うので省略。

 上画像個体の姉妹株。こちらは色が淡く、片親が純白花だと言われれば素直に納得できる色調である。この交配では、このようにF1でもバラつきが出た。

  ナリヤランは産地によって花の大きさや草丈、耐寒限度などに著しい違いがある。草丈が成株で30cmの系統と2mの系統、耐寒限度が5℃の系統と15℃の系統、バンバン栄養繁殖する系統と高芽以外ではほぼ殖えない系統。ほぼ別種と言って良いほど栽培特性が異なる個体群がいくつも存在してい

 上画像は中国・雲南省産の「ナリヤラン」だが、一般的なナリヤランとは一目見れば区別がつく。この画像だけ見れば大差は無いように見えるが・・・

 実物はムチャクチャ小さい。草丈は30cm以下で、花径は35mm。エビネかな?という花サイズである。

 これは海外ではDwarf Bamboo OrchidとかMiniature(略)とかいう商品名で流通している。「Arundina sp.」として別種扱いされている事もあるが、区別せずに「Arundina graminifolia」にされている場合もある。

 あなたが知っている「ナリヤラン」は模式種ナリヤランだろうか? それとも亜種や変種に属する個体群? 原産地はどこで、そこはどういう気候? 日本国内ではどの系統もすべて「ナリヤラン」というラベルで区別されずに出回っているが、あなたの言う「ナリヤラン」はどのナリヤラン?

 どれか一鉢買い求めて育ててみても「そのサンプルはたまたまそういう性質だった」という経験が得られるにすぎない。それを普遍的なものだと思い込んでナリヤランの栽培解説をするのは、女性1人としか付き合った事の無い男が「女とはこういう生き物だ」と偉そうに語ってしまうくらい痛い行為である。

 知れば知るほど複雑怪奇なナリヤラン種群。その全体像を把握している人間は(管理人も含めて)日本国内には一人もいないと思う。

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 本土で鉢植え栽培する場合は、コンパクトな系統のほうが扱いやすいだろう。

 しかし熱帯地域で花壇植えするなら、ある程度背丈が高いほうが雑草などに負けにくく育て易い。沖縄本島でも、地元(西表産)の中型系統よりも、海外から導入されたらしき巨大輪の大型種のほうが見栄えが良いため人気が高いようだ。明らかに地元産ではない系統が露地栽培されている事例を複数確認しているが、沖縄全域で何種類ぐらいの「ナリヤラン」が栽培されているのかまったく判らない。

 そういうものが八重山諸島に持ち込まれると野生化、あるいはタイリクバラタナゴのように移入交雑問題をおこす可能性があり、区別される事なく一律に「ナリヤラン」として販売流通している現状には少々問題がある。栽培する時には系統が違うものは別種、という認識を持って管理していただきたいと思う。

*他のナリヤラン記事は最上段のArundinaタグをクリックしてください