Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキイワチドリ(誤字ではない)

Amitostigma lepidum X Ami.keiskei

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 オキナワチドリ大点花♀ X イワチドリ紅一点花♂ 

 オキナワチドリとイワチドリを交配してみたらどう? などと冗談で言う方は時々いるが、花期が一致しづらいので開花調整しないと交配できない。そのため実際にやってみた方はほとんどいないと思う。画像個体は秋から冷蔵処理をかけたイワチドリ球根を冬に発芽させてオキナワチドリに花期を合わせ、その花粉を使用している。ちなみにイワチドリは1果実あたりの種子量が少ないので、種間交配(受精成功率が低い)の母体に使った場合は確率的にほとんど種子が得られない。オキナワチドリを母体にした場合でもかたっぱしから交配して親株同士の相性が良い組み合わせのみ、数えるくらいの苗ができる程度の成功率である。

 以前、イワチドリの育種をなさっておられる方がオキナワチドリとの交配に興味を示しておられたので、4倍体オキナワチドリの球根を進呈した事がある。4倍体イワチドリと交配すれば稔性のある実生(複2倍体)ができて後代の育種が可能になるはずなので試してみてほしい、とお願いしたのだが、実際に交配するとなると非常に面倒だったようで、すぐに興味を無くしてしまって進呈したオキナワチドリは処分されてしまったと聞く。管理人も自分自身でやってみたかったのだが4倍体イワチドリは当地では維持が困難で、実験用に使い捨てにできるような値段でもないため断念した。

 ちなみに交配受精が成立しにくいに留まらず、成立しても完熟する前に胚が崩壊枯死する。そのため未熟胚のうちに果実から取り出してフラスコ培養で育成しないと苗が得られない。

 実生には冬緑性の秋咲き個体と、夏緑性の春咲き個体が混在していたが、当地では夏緑性個体は夏越しできなかったため現在栽培しているのは前者のみ。

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 オキナワチドリが母体だが、葉姿はイワチドリに近い。DNA解析していないので証明はできないが、外見から見る限りでは受粉刺激による単為発生ではなく、実際に交配が成立していると思っている。

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 花型は乱れが強く、園芸的にはあまり特筆すべきものではない。花粉ができず、母体にして戻し交配しても果実が膨らむ様子はまったく無いので、育種的にはここで打ち止めである。そういう交配種であれば、苦労して作出する意義は見当たらない。

 マッドサイエンティストが生み出した悲しい生物という感じで、興味深くはあるが面白がって世に広めるような花ではあるまい。自分でやっておいて言うのも何だが、こういう発展性の無い生き物を遊びで生み出すのは趣味が良くないと思う。園芸的に寄与する可能性が無い事が確認できたので、オキナワチドリ系の種間交配はもう二度と試すつもりはない。

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