Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

遺伝子組み換えコチョウラン

世界らん展2024にて販売

カルタヘナ法(正式名称:遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物多様性の確保に関する法律)に基づく商業使用申請が承認されたため、この品種は合法的に一般販売できるようになった

・すでに通販でも売られている

・オリジンは、ツユクサ栽培種(オオボウシバナ)の色素遺伝子を組み込んだバイオ個体(沖縄でも過去に海洋博公園で展示された事がある)

・メリクロン増殖中に出現した整型個体を、さらに増殖して商品化

・品種登録出願公表中、および特許取得済みのため、商品名を変えての販売、再増殖販売などは禁止

・(開発元の企業以外は)非営利であっても交配使用は禁止。ナゴランやコエルレア系コチョウランと交配しようなどと考えてはいけない。交配するなよ? 絶対するなよ?

・国外輸出禁止。まあ花をチョン切れば普通のコチョウランと区別がつかないし、絶対に誰か(略)

・詳しくは販売元ホームページの動画を参照

 

 おまけ画像。これは別の業者が売っていた、遺伝子組み換えされていない原種カトレアの見本画像。個体名はドイツ語のごく一般的な単語だそうだが、管理人には詳しい事はよく判らない。

  Fernは見つけられなかった模様。

世界らん展2024

今年の世界らん展(東京)の特別企画展示は「南西諸島に咲く蘭」。

「今回は約1000株の『オキナワチドリ』を集め、自生地に群生する様子を再現します」

という宣伝記事を見た管理人は、取材班を現地へと派遣した。

 デジタル絵っぽいが、入り口看板の実写画像。下半分には入場者が写っているのでプライバシー保護のためトリミングした。

 

会場内の解説パネル。

 

会場内、海岸の自生地を再現した展示会場。約1000本のオキナワチドリが植栽されている。(画像クリックで拡大)

 純白、酔白、無点、濃色無点、紅大点、多点、純白紫点、細弁、大輪などなど。ここに植えられている変異個体は、野生であれば数万本に1本しか見つからない、あるいは一生探しても見つからないような、きわめてレアな個体ばかりである。

 自生地でこのようなカラフルな群生は絶対に無い。亡き師匠が半生をかけて探索収集した変異コレクションよりもバリエーションが多い。やべぇ植栽である。

 某業者がバックヤード在庫を放出して作ったものらしい。日本産野生ラン栽培家が絶滅に近づいている現在、このコレクションが引き継がれていく可能性はゼロである。散逸した時点で永久に消滅するので、まとまった品種を手に触れられる距離で実際に見られる機会は、これが最後になると思う。が、そういうものだと気がついている来場者はおそらく一人もいない。

 

・・・で、ここまでの記事だと、けっこう面白げな展示だから見に行こう! とか思ったりしませんか?

 

以下はネタバレです。現地取材班は思いっきり脱力してました。

 

展示場の全体像がこちらになります。(来場者が写っている部分は黒塗り)

 

おわかりいただけただろうか。

 

要するに写真パネルの前に、畳一枚も無い展示スペースが設置されているだけである。

 

おまけに開花調整が間に合っていなくて、全体の3分の1ぐらいしか咲いていない。

 

写真撮影すればそれなりの画像になるが、もはや特撮である。

 

 いやまあ、「1000本のオキナワチドリで自生地再現」って、嘘じゃないけどさあ・・

1m離れただけでこのビジュアルですからね?

「日本にも鮮やかで綺麗な蘭が自生している事を知るきっかけになればと考えています」とか、これを見てそうは思わねーだろ常識的に考えて。

 

 周囲に100万本のド派手なランが飾ってある場所で、誰がこんなもん見ます?

 パンダの檻の横で、地下水棲の眼の無いゲンゴロウが1匹だけ水槽に泳いでます、みたいなもんですよ? それが何なのか判らない人にとっては、ただのゴミですよ?

 

 素人が求めているのは知識ゼロでも判る、奇抜でかっこよくてでっかい草ですよ? さもなければ100万本のヒマワリとかコスモスとかラベンダーとかの物量作戦であって、絶滅危惧種であっても雑草に用は無いんですよ? 沖縄の希少種自生地をブッ潰して園芸ユリ公園にするのが民意ですよ? 

 希少な植物なら認められるなどというナイーヴな考え方は捨てろ。珍しくなくていいからウケる花だけ飾っとけ。一般社会で求められているのは「ファッション」なんだから、ハイコンテクストな話題はやめろおおおぉ!(泣)

 いや頑張っているのは判る。主観的に見れば凄い。自分でやってもこれ以上の展示はたぶんできない。それは判るんだが。判るんだけどもさあああああぁ!

 

 取材班の話では、どこも撮影者で押すな押すなの盛況だったけれど、このコーナーだけはガラッガラで、ほぼ全員が素通りしていたとの事。

 たまに足を止める人があっても、

「こんなの庭に生えてきたら抜いて捨てちゃうなぁ」とか、

「野草なのに、わざわざ採ってくるなんて可哀想」とか、ネガティブな会話しか聞かれなかった模様。

 

 あとは余談ですが、レッドデータ調査に「この地域には1000本ほどのオキナワチドリがあります」とか書いてあったら、絶滅する危険は無いと思ったりしませんか?

 皆さんいいですか、1000本の自生地って、この程度の面積ですからね?

100株程度の自生が確認できた」だったら、どれほど危ない状況か判ります? 書類だけ読んでる役所の人にはそれが判らないし、判ったところで何もできないしする気も無い。

 台風で崖が崩れるとか、近くにあった木が育って日陰になったとか、今年は野良ヤギが入り込んで全部食べやがりましたとか、そういうちょっとした変化だけで1000本程度ならいきなり絶滅しますからね? 沖縄本島の自生地はものすごい勢いでどーんどん消えていて、野生のオキナワチドリは、もう一般人が見るのはほぼ不可能になってますからね? 

 沖縄本島産オキナワチドリの栽培個体って、野生絶滅個体群ですからね? フィールド情報のラベル、捨てたら駄目なんですよ?

 なのに、ほとんどの人はただの雑草だと思ってて、存在を教えても保護するどころかこんなもん保護する意味があるの?と言ってくるわけで。加えてマニア連中は育てられもしないのに盗掘だけはする。うん、もう何もできる事は無いです。

 

*関連記事

書籍

沖縄県石垣島在住、橋爪雅彦氏のクラウドファンディング出版画集。300冊限定。

ハードカバー204ページ、フルカラー90種収載。

 故・前川文夫博士の「原色日本のラン」(1975)の続巻に載るはずだった(前川博士の死去で出版は取りやめになった)未発表画を、英文表記入りで続巻っぽくまとめた本。監修は琉球大学名誉教授の横田昌嗣氏。

室内LED栽培

過去画像整理。

以前、まとまった数を栽培していた時の、栽培テスト画像。

 日光がほとんど差し込まず、室内散乱光のみの場所に置いた棚にアクアリウム用のLED照明を設置して栽培してみた。覚え書きを遺していく。

最大光量で15時間点灯しつづけて栽培した場合、オキナワチドリは屋外自然光と有意な栽培差は出なかった。

・ただし画像のように、照射中央域の高光量場所ではまったく徒長せず固く締まるが、少しはずれた場所に置くと背丈が伸びてくる感じだった。外光もある程度取り入れて照射量を調節するのがベストのようである。

・ほとんどのランは日照時間で開花が決まる長日(短日)植物ではない。自然日長を超えた日照時間にしても問題は無い。

・ただし光源からの発熱の影響は大きいので、そこはまた別に考慮が必要。

・沖縄の冬は天候が不安定で、毎日のように小雨が降るかと思えば、いきなり晴れて気温が急上昇したりする。台風並みの暴風が吹き荒れることもあって、屋外栽培はトラブルが多い。設備費や光熱費を考えず、管理難度だけを問題にするなら(専用蘭舎の無い一般家庭では)室内でLED栽培したほうが手間がかからないと思う。

 

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・2023年の異常高温のような気候が常時続くようになれば、東北のアツモリソウ栽培、関東以南のウチョウラン・イワチドリやサギソウなどの栽培も自然気候下では長期維持が難しくなってくる可能性もある。温帯起源の地生種の生育域外保全は、室内での気候調整栽培が不可避になってくるかもしれない。

・オキナワチドリの場合は夏期の高温自体はそれほど問題にならないが、冬の生育適温期間の短縮は作落ちに直結する。

沖縄本島はオキナワチドリ分布域のほぼ南限で、生育適温よりもやや気温が高い。今後の気候変動でオキナワチドリが沖縄の自然気候下で栽培が難しくなってくる可能性はゼロではない。関東以北がオキナワチドリの栽培適地になったりするかもしれない。

 

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・5年前には赤と青のLEDだけを使った、演色性の悪い怪しい光色の製品しか探しても見つからなかった。ところが今では4色以上の発光素子を使った育成灯が主流になってきて、毎年のようにモデルチェンジ&低価格化&高性能化されつつある。

・その一方、LED植物栽培に関する一次情報がきわめて少ない。というより機材が発展途上、かつ日進月歩なので昨年度の主要モデルが今年は型落ち・生産中止になっていたりする。数年かけて使用結果が判ってくる頃には、まとめ情報を公開する意味が無くなっている。

・一次情報でも、コイツただの消費栽培じゃねーの? というレベルの栽培者だと情報源として信用ならない。医療情報と同じで、知識の足りない人が発信しているガセ情報が一番始末が悪い。(管理人情報がガセでないとは言っていない)

・基本的には自分で実験して真偽を確かめるしかない。

・光量はスマホアプリでもある程度まで調べられるが、分光(スペクトル)分布は個人で測定するのが大変(測定機材の値段の問題なので、やること自体は簡単)なので、カタログ情報に大嘘が書いてあっても一般ユーザーには判らない。

・使用開始直後と1年後のスペックも同じではないので、1年だけの使用経験ではうかつな事が言えない。

・中国製のLED製品は安いが、初期不良が多いようだ。口コミを見ると最初から点灯しなかった、3日で壊れた、いや2年たったが普通に使えている、等々いろいろ書き込まれている。

・管理人は安いLEDを10基ほどまとめて買って1年間使ってみたが、3基は3か月前後でACアダプターが使用不能になった。(過熱停止時の復帰回路が無い? 本体には問題なかったが、部品別売りがないので丸ごと交換する事になった)

・爆発炎上したという口コミは確認されていないので、火災の危険は高くないとは思うが、海外製品を過信してはいけない。使用環境と放熱状況には十分な注意が必要と思われる。ACアダプターを送風冷却できればベストである。

・園芸雑誌などで紹介されるLEDは大型植物栽培用の、高所から大光量を広範囲に照射する機種が多い。高級機種には紫外線LED素子なども組み入れたフルスペクトル型などもあるが、強光型は離れた距離からの使用が前提なので、近距離で使うと葉焼けする。

・小型植物にはアクアリウム用LEDのほうが使い勝手が良いが、植物種とLED機種の組み合わせによっては、生長は順調に見えても地下部の肥大が極端に悪くなることがある。

・丈夫な草であれば普通の白色LED蛍光灯でも問題なく育つが、植物種によっては「植物育成LED」でも光質が合わないと枯れることがある模様。

・というか、その「植物育成用」って本当に植物育成実験してるの? 詐欺商品じゃないって証拠は? 

・複数社の機材を併用すると(複数用土を混合して使うのと同じように)全体としての性能が安定して、重大なトラブルが発生しにくくなる印象がある。しかしあくまで印象であって、確証に足るデータは無い。

・測定機材が無いと数字でデータが残せないし、数字で記録しても計測機器を持っていない栽培者には再現できない。というか太陽光と違って、同じ機材が入手できなければそもそも同一光質が得られない。同一機種を使っても照射距離や積算温度、積算照射量などの各種変数が多すぎて、個人の使用経験だけでは情報が足りない。

あと、植物育成蛍光灯は全周に散乱光を発しているのに対し、LEDは直進光を発しているので、ルーメン値は大きくても空間全体の明るさは低くなる。

・つまり、LEDは短距離で直射した場合、葉が焼けるほど光量があっても、葉裏などの影になる場所では著しく光が不足する。

・LEDと植物の間に透明プラ板を置いて光を散乱させたりすると、ルーメン的には減少しているはずなのにルクス実測ではむしろ明るくなっていたりする。懐中電灯だけでは暗い時に、それをランプシェードの中に入れると部屋全体が明るくなるのと同じ理屈である。

・水中植物の育成に使う場合、何もしなくても水で光が散乱するため、アクアリウム系では空中使用時の散乱光の重要性についてまったく知られていない。

この情報は最近になってテラリウム屋の口コミで知られはじめているが、どうすれば適切な散乱光が得られるかは試行錯誤の状態を脱していない。

・他人との情報交換も、変数が多すぎて比較するのに限界がある。現状ではメーカーですら手探り状態の模様。

・とはいえLEDというアイテムは、栽培者にとって非常に利用価値が高いと思われる。今後の集合知の醸成に期待したい。醸成される日が来るかどうかは知らん。

書籍紹介

今月発売。

同書より画像引用。

ヒスイアキザキヤツシロラン - Google 検索

 

 児童書なので小学生でも判るように書かれているが、内容的には大学院レベル。というか、このシリーズには「どうしてこんな内容の本を出そうと思ったんだ」(褒め言葉)と言いたくなるようなものが多数あって、出版社の正気度を疑う。(もっとやれ)

 樹木共生菌から栄養をもらっているキンラン(樹木から間接的に生存に必要な養分の半分をもらっている)が「光合成を半分やめた植物」として三者共生(二者共生&一者半寄生)のしくみが解説されていたり、既存書籍に出ていないタケシマヤツシロランやヌカヅキヤツシロランのカラー写真が載っていたり、ラン屋は一読してみる価値がある。

 が、SNSでは「不気味な草やキモい虫(種子散布者であるカマドウマの写真)が載っているので怖くて読めない」という感想も出ていて、人を選ぶ本ではあると思われる。