Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

あなたはナリヤランの事を知らない

Arundina hybrid 'alba'

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 ナリヤラン種群間交配個体、3.5号鉢。小型個体群純白花と、おそらく亜種として分類されるであろう矮性濃色個体群の交配個体(後述)の種子から育てた第二世代。

端的に言うと(白X 赤)Xセルフ。

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 まあ鑑賞的にはそれほど悪くないと思うが、花持ちがよろしくない(2日程度)なので鉢花として出回る可能性は無い。

別個体。撮影時の草丈は約15cm。

 

こちらはさらに別の個体。上個体よりも丸弁で草丈も大きい。

 

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 ちなみにこれらの純白花の親個体(白X赤)はこういう花である。片親が濃色花なので交配第一世代もわりと濃色。この花の種を播くと4分の1の確率で純白花が出る。濃色花の実生がどうして純白になるのか、という理屈については調べれば判ると思うので省略。

 上画像個体の姉妹株。こちらは色が淡く、片親が純白花だと言われれば素直に納得できる色調である。この交配では、このようにF1でもバラつきが出た。

  ナリヤランは産地によって花の大きさや草丈、耐寒限度などに著しい違いがある。草丈が成株で30cmの系統と2mの系統、耐寒限度が5℃の系統と15℃の系統、バンバン栄養繁殖する系統と高芽以外ではほぼ殖えない系統。ほぼ別種と言って良いほど栽培特性が異なる個体群がいくつも存在してい

 上画像は中国・雲南省産の「ナリヤラン」だが、一般的なナリヤランとは一目見れば区別がつく。この画像だけ見れば大差は無いように見えるが・・・

 実物はムチャクチャ小さい。草丈は30cm以下で、花径は35mm。エビネかな?という花サイズである。

 これは海外ではDwarf Bamboo OrchidとかMiniature(略)とかいう商品名で流通している。「Arundina sp.」として別種扱いされている事もあるが、区別せずに「Arundina graminifolia」にされている場合もある。

 あなたが知っている「ナリヤラン」は模式種ナリヤランだろうか? それとも亜種や変種に属する個体群? 原産地はどこで、そこはどういう気候? 日本国内ではどの系統もすべて「ナリヤラン」というラベルで区別されずに出回っているが、あなたの言う「ナリヤラン」はどのナリヤラン?

 どれか一鉢買い求めて育ててみても「そのサンプルはたまたまそういう性質だった」という経験が得られるにすぎない。それを普遍的なものだと思い込んでナリヤランの栽培解説をするのは、女性1人としか付き合った事の無い男が「女とはこういう生き物だ」と偉そうに語ってしまうくらい痛い行為である。

 知れば知るほど複雑怪奇なナリヤラン種群。その全体像を把握している人間は(管理人も含めて)日本国内には一人もいないと思う。

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 本土で鉢植え栽培する場合は、コンパクトな系統のほうが扱いやすいだろう。

 しかし熱帯地域で花壇植えするなら、ある程度背丈が高いほうが雑草などに負けにくく育て易い。沖縄本島でも、地元(西表産)の中型系統よりも、海外から導入されたらしき巨大輪の大型種のほうが見栄えが良いため人気が高いようだ。明らかに地元産ではない系統が露地栽培されている事例を複数確認しているが、沖縄全域で何種類ぐらいの「ナリヤラン」が栽培されているのかまったく判らない。

 そういうものが八重山諸島に持ち込まれると野生化、あるいはタイリクバラタナゴのように移入交雑問題をおこす可能性があり、区別される事なく一律に「ナリヤラン」として販売流通している現状には少々問題がある。栽培する時には系統が違うものは別種、という認識を持って管理していただきたいと思う。

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