Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの育種(純白花)

Amitostigma lepidum (Hemipilia lepida) , alba form.

2017 deflask seedling.

オキナワチドリ純白花、2017年フラスコ出し実生。(選別個体の分球クローン寄せ植え)

「純白花・遺伝子型1」と仮称されている系統。

 

オキナワチドリ純白花には、要因遺伝子が異なる3つの系統がある。

  ・同系統内で交配すると、実生はすべて純白花になる。

  ・異なる系統同士で交配すると、実生はすべて標準花になる。

 

(過去記事に長文の説明があるが、ブリーダー以外にはまったくの無駄知識なので読む必要はない)

 ちなみに「遺伝子型1」は古典品種「白馬(はくば)」の実生後代である。

 市場流通している実生純白花の多くは遺伝子型1だと思われる(遺伝子型2、3はあまり増殖されていない)が、外見からは見分けがつかない。まあ、普通の人は見分ける必要も無いだろう。

 昭和時代にはオキナワチドリは「馬づらチドリ」と蔑称されており、「白馬」という品種名もそれを意識したものらしい。

 縦長の花が駄目なら横に長くしてやろう! という方向性で品種改良したのが冒頭の個体。ついでに間延びしやすい草姿も改良し、背の低いコンパクトな個体にしてみた。葉質や弁質も厚く傷みにくくした。増殖率も良くなっている。

 しかし、そういう工夫は無意味だった。

 一般園芸家にとってチドリ類は消耗品である。多少丈夫になった程度では、どのみち長生きさせるのは難しい。どうせ枯れるなら、球根を植え付けてすぐ花の咲くイワチドリや、ド派手に改良の進んだウチョウランのほうが飾り捨て用として優れている。

 さらにオキナワチドリはガチで管理しないと花が縮んで貧相になる。慣れない人が育てた場合、枯れはしなくても、もともと貧相な白花と区別がつかなくなる。要するに何を育てても一緒である。

 というか一般的な「植物好き」のレベルだと、花型の違いまで理解していない。色が赤いか白いか程度まではぼんやりと認識しているが、色が同じだと改良花と野生花を並べて見せても区別がつかない。ミリタリーマニアでない人間が戦車と自走砲を並べて見せられたような感じになる。

 こちらは冒頭個体を花粉親にして、円弁個体と交配した実生。花はより大きく、草姿はさらにコンパクトにまとまった。これを交配親にして実生すれば次世代でより優れた純白花が得られる・・

・・はずなのだが、育てていく心が折れたので先月に処分した。今後はもうオキナワチドリの育種をする予定は無い。

 

 こちらも遺伝子型1だが、上記とは別血統。花径は23mm、これが純白花としては現時点で最大級の個体だが、花型に乱れが認められ改良の余地がある。

 昭和の野生ランブームの頃には一緒に育種を競うライバルもいたし、選別した個体を進呈すると鉢一杯に殖やしてくれる趣味家もいた。小型地生蘭を維持増殖できる栽培家はもともと1万人に1人のレベルではあったが、昭和の野生ランブームの頃、趣味人口が数十万人いる時代には数十人が栽培維持してくれた。

 しかしほとんどの野生ランは真面目に栽培するとコストパフォーマンスが悪すぎることが判ってきて、野生ラン栽培は情報弱者だけが手を出す趣味になった。オキナワチドリのブリーダーは全員が引退し、師匠や先輩方は鬼籍に入っていった。古典品種を野生植物コレクションの一部として管理している趣味家はまだ残っているようだが、オキナワチドリ栽培者自体がすでに絶滅危惧種である。

 まあ今でも園芸需要はある。人気が無いわけではない。しかしそれは消耗品としての需要であり、その先にあるのは虚無である。

こちらは別の育種ラインで選別した、細弁大輪系の純白花。(遺伝子型1)

これを花粉親に使って、細弁花と交配した個体が下の画像。

これを親に使って実生すれば(以下略)

先月に処分した。

 

 捨てたわけではないので、誰か育てられる方の手に渡った可能性も微粒子レベルで存在するが、期待はしていない。