Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

園芸検定試験(チドリ類・交配育種)

問2:オキナワチドリの円弁花と、純白花を交配して実生を育成した。この画像の両親の間に生まれた交配実生にどのような花が咲くか、予想を述べよ。

なお、母親には純白花の遺伝因子は無い。また、父親の血族に純白花以外の特別な色彩の花は存在していない。また両親共に無点花、純白地・紫点花、淡点花などの単一遺伝子による潜性(劣性)、あるいは共優性、不完全優性の遺伝因子無い。

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回答:純白花は潜性(劣性)遺伝なので、通常色の花と交配すると実生はすべて通常色になる。また花型の遺伝は多因子性なので有る/無しの2択にはならず、いろいろ混ぜて2で割ったような、最頻値としては両親の中間型になる。よって予想される花は、通常色で花型は両親の中間型。

・・まあ、試験であればそれが模式回答だろうで、実際にやってみた結果がこちらである。

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まあ花型は両親の中間型、と言っても良いと思われる。

・・で、この覆輪は何?どこから出てきたのか理解できないんですけど?

母親にはわずかに覆輪っぽい発色があるが、交配の系譜を遡ってもこういう濃い発色をする血族はいない。父親の血族も、純白以外は標準色個体しか確認できない。

覆輪(ピコティ)咲きはさまざまな園芸植物で見られる形質だが、白覆輪と色覆輪は同一に語れないようだし、植物種によって遺伝様式が違うようで他種の報告例は参考にしづらい。

オキナワチドリの場合、覆輪色はつかみどころの無い形質である。遺伝性があることは間違いないのだが、両親の組み合わせによって出現率が大幅に変化する。ちなみに今回、覆輪になったのはこの株だけで、他の個体は通常色で中間型の花型である。

今回のケースのように、交配系譜に覆輪が出現していない血統にいきなり出現することがあるかと思えば、覆輪花同士の交配なのに実生のほとんどが普通の花になってしまって、一部の個体に薄く覆輪が出るだけのこともある。また、同じ果実から育てた実生が標準色から濃覆輪まで正規分布的に連続している事もある。多因子性の遺伝であることはほぼ確実だと思われるが、どういう遺伝様式なのか今ひとつよく判らない。

覆輪花は「白い部分の発色が抑制されている」という形質らしいので、発色遺伝子だけでなく、抑制遺伝子の有無という視点から考える必要があるのかも?などと考えているのだが・・転写因子の発現量がどーのこーの、といった難しい話であれば、管理人ごときがついていけるレベルではなくなってくる。

さらに栽培温度、昼夜の温度差、日照、潅水量、肥料の量などの影響で覆輪の濃淡は極端に変化する。栽培環境によって同一個体が標準花に近い発色になったり、濃覆輪になったりするので個体素養の評価が難しい。

参考:トルコギキョウの二色咲きは、温度条件によって白一色から紫一色にまで変化

https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/NIFS11-01.pdf

管理人の栽培棚ではほぼ100%濃覆輪に発色する個体でも、他の方の棚では並花になってしまう事もある。また、遺伝的に覆輪の素養がある系統でも、発色にベストな環境条件は個体ごとに異なっている可能性が高い。自在に操る事はなかなか難しい形質である。 

ちなみに上記の文献を見ると、(それ以外にも報告例があったが)トルコギキョウには覆輪花系の純白花という「ステルス覆輪花」が存在している模様。

 

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