Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

読める遺伝子、読めない遺伝子

Amitostigma lepidum seedling.

 今回は過去画像の整理。オキナワチドリ実生。

 純白花(遺伝子型1:「白馬」の後代)ヘテロと、無点花ヘテロの交配実生。

 ・地色が薄いので、純白遺伝子を受け継いでいる(隠し持っている)可能性がある。

 ・紅点が細かく分散しているので、おそらく無点遺伝子を受け継いでいる

 まとめて言うと「純白と無点のダブルヘテロ(出現率4分の1)」&「多因子形質の大輪&草丈を伸びにくくする両遺伝子群を選別交配で一株に集積(標準偏差的に出現)」のマルチ変異系統。

 が、外見からは遺伝子構成を正確に読み切ることはできないので、確定には検定交配が必要。無点は不完全顕性(不完全優性、レプタイル関連俗語の共優性)なので実生姉妹を比較すれば、どの子が保因個体なのかある程度まで読める。一方で純白は潜性(劣性)なので判りにくい。

 こちらは上記個体の姉妹実生。無点遺伝子を受け継いでいない個体は、こういうふうに紅点が集合して大きくなる。(ただし例外もあるので、見た目では確定できない)

 これらに限らず、今までさまざまな形質の多重変異血統を作り、育種素材として外部にリリースを続けてきた。しかし最近はランの自家育種をする余裕のある趣味家がいなくなった。開発途上の未完成品に興味を持つのは開発者だけである。どんな遺伝子を隠し持っていたとしても、見た目が完成の域に達していなければ「消費者」は手を出さない。

 というか今の時代はモノも情報も多すぎて、消費娯楽を楽しむ時間すら足りない。実生育成は趣味としてタイムパフォーマンスが悪すぎる。買ってきてすぐ飾れて、少し育ったら刻んで欠片にして売れる観葉系のほうが時代に合っている。

 ちなみに大輪花のほとんどは唇弁がフリル状に波打つ。うまく形質制御できれば豪華なイメージの花になるが、一方で花型が乱れやすくもなるため「ぐしゃっと丸めたティッシュペーパー」と評されるような鑑賞的に微妙な花も生まれてくる。完成の域に持っていくのはかなり面倒である。

 姉妹株で一番背の低い個体。撮影時の草丈45mm、花径20mm。強光下で育てると、ブラキ系のパフィオのような頭身になる。SDキャラっぽい。

 

 こちらは別系統で、唇弁の乱れを極力減らして平滑な唇弁を目指した無点花。フリフリの花と、どちらが良いかは好みの問題。すっきりと背丈が伸びて山野草的な魅力があるが、弱光だと間延びして草姿がだらしなくなる。

 オキナワチドリは(花を見るだけで良ければ)少し工夫するだけで育てられるが、展示会などに出せるレベルに作りこむとなると環境設定がそれほど簡単ではない。というか、展示会の時期に合わせて花期を調整するだけでもかなり面倒臭い。

 これがパフィオであれば花期が長く、開花時期を展示会に合わせるのも比較的容易。専門業者のレンタル栽培場に預けておけば平日の管理を代行してくれるし、播種・育苗や選別栽培も外部委託できる。展示会という「競技」に適しているため世界的に「競技人口」が多く、同好の士を見つけやすく生産業者も山ほどいる。対人的なアピール要素がオキナワチドリとは比較にならないくらい多い。

 

 まあ、園芸市場にもさまざまなオキナワチドリが流通はしていた。しかしそれらが一般園芸店で販売されることはなかったし、マイナー品種はネットを探しても画像すら見当たらない。園芸植物としての知名度はゼロに近く、専門卸商まで出向いてバックヤード在庫を問い合わせなければ入手できなかった。今後も一般流通することは無いだろう。

 「無点花」だけに絞っても、探せば種内変異がいくらでも見つかった。こういう少し変わった個体たちを手に入れて、どれとどれを交配すれば自分の好みの花が生まれるか想像し、誰も見たことのない「その先」を創っていくのは面白かった。