Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Habenaria hybrid F2

(Habenaria sagittifera X Hab.linearifolia) X Hab. linearifolia

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(ミズトンボ♀ X オオミズトンボ♂)X オオミズトンボ♂

某所にて撮影。4分の1はミズトンボの血が入っているはずだが、ほぼオオミズトンボ。 唇弁が純血オオミズトンボに比べるとほんのわずか緑色が濃く、側裂片が純血個体より短くて万歳をするように上向きになっているところにミズトンボの特徴が残っている。が、言われればそうなのかな?と思う程度で、ラベルが無ければオオミズトンボの個体変異の範疇だと思ってしまうのではあるまいか。

ちなみに親個体はこちら。

こちらは姉妹株の別個体。ほとんど区別がつかず、あまり形質分離が出ていない感じである。

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鑑賞的には純血オオミズトンボに「劣るとも勝らない」ので、園芸的にはわざわざ作り出す意味は無いと思われる。が、遠くない将来に国内オオミズトンボ自生地の消滅が予想されている現在、市販されている人工増殖オオミズトンボの種親の寿命が尽き、実生苗も近交弱勢で継代できなくなってすべて消え去っていく前に、こういう雑種を作ってでも何とか遺伝子を残していくことも考えねばならない状況なのかもしれない。

この交雑種はオオミズトンボの花粉をかけると普通に種子ができ、発芽率も純血個体に劣らないそうだ。もし何かしようと思うならば、まだオオミズトンボの苗が入手できる今が、今だけが、残された最後のチャンスなのだ。

だが一番ありそうな展開としては「誰も何もしなかったので残らなかった」になるだろうと思っている。千葉県のN湿原で、自生地そのものは天然記念物指定されて残っているけれど、オオミズトンボは何もしないでいるうちに実生更新が止まり、今ではもうどこにも目視できなくなってしまったのと同じように。

 

2022年追記・外部リンク aoikesi氏のサイト「蔵王のふもとから」 ↓

zaonofumoto.blog.fc2.com

上リンク記事よりの引用画像。(リンク先にこの花の拡大画像、および同自生地オオミズトンボの画像あり)

以前にミズトンボとオオミズトンボの交雑個体っぽいものが発見された自生地で、新たに撮影された個体。

New Book

"BRUTUS" 15/07/2019

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雑誌「ブルータス」ビザールプランツ特集4(3は総集編だったので実質パート3)

ファッション系雑誌なので、承認欲求を満たすアイテムとして植物を飾っている方が一部登場しており、モヤっとした気分にさせられる(苦笑)

とはいえ執筆者の多くは特定ジャンルでは大御所と言える方々、あるいは新進気鋭の注目に値する園芸業者達である。「よくもまあこれだけのメンバーを集めたな」という感じで括目すべき内容となっている。園芸雑誌が「しがらみ」によって硬直した内容になってしまっている昨今、旧態依然の停滞した園芸業界に対して、良い意味で喧嘩を売っている感じである。是非はともあれ、昭和の野生植物狂乱時代の熱気を思い出すものがある。

栽培マニュアルと銘打っているが、ページ数の関係で総論(としては非常に良い内容なのだが)しか書かれていないため総合的に見れば業者の販促カタログ以上のものではない。というかファッション雑誌でかっこいい自動車の解説記事を読んで、その車の運転ができるようになれるなら苦労はいらない。そもそもこの本に載っているのは運転免許どころかF1ライセンスやパイロット免許を必要とするレベルの草が多いのだが、育てるための覚悟、あるいは生き物を扱う「資格」(とでもいうべき資質)について一切語っていないところは良くも悪くもファッション雑誌である。(他の園芸書籍がファッションで無いとは言っていない)

「(植物の栽培は)ゲームでレベルが上がっていくのに近い感覚で、自分のスキルが上がっていくのも楽しいですよ(p45)」まあ嘘は言っていない。ゲーム廃人と呼ばれるくらいやりこむか、ガンガン課金してSSR栽培アイテムを揃えないとヒロインが死亡するクソゲー 特殊なゲームである事を一言も説明していないだけである。新規参入者を取り込むための広報として実にあざとい たいへん効果的な語り口である。これが人工増殖苗で全需要を満たしている商売であったならば、おおいに夢を語って現実問題に触れない方向でも実害は無いと思うのだが以下略。

同じビジュアル系でも初心者向け特集を組む時に、まず野生種に関わる者の責任のありかたを教えこもうとする説教雑誌、ビバリウムガ○ドとはある意味で対照的である。

が、掲載されている自生地写真などには鼻血モノの画像が数多く、何も判っていない無垢な一般人を泥沼に引きずり込もうとする邪悪な意志を感じる それだけで一見の価値はあるだろう。

つーかY先生が育てたオフリスの画像とか、S先生が画像提供した腐生植物の解説とか、こんな企画を立てた奴ちょっと出てこい。ふざけんなもっとやれ。

Ranunculus ternatus var.lutchuensis

cultivate in Okinawa island

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リュウキュウヒキノカサ。沖縄本島の某所で栽培されていた個体。

喜界島から沖縄諸島にかけて局所分布する植物で、環境省カテゴリーでは絶滅危惧1Aの希少植物。栽培自体は簡単なのだが、見てのとおり非常にショボい 侘びた佇まいの植物であるため、かなりの物好き 数寄の心を理解する趣味人だけがその魅力を理解しうる野草である。(普通だったら後ろに写っている植物のほうを紹介するのだろうが、今回は触れない)

リュウキュウヒキノカサは産地ごとに変異があるようで、それらをすべて同一種として良いのかどうかは今後の研究を待つことにしたい。ちなみに管理人宅で栽培している系統は下記のようなもの。

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こちらは花が一回り大きく、花弁数が多い。産地は不詳だが、過去に変異品種として報告された個体群のものだと思われる。

リュウキュウヒキノカサの一品種ヤエリュウキュウヒキノカサ(新称)」(2004)

http://phytogeogratax.main.jp/site/wp-content/uploads/2018/01/JPT52_1_89-1.pdf

 

ラナンキュラスと言えばRanunculus asiaticusの園芸(八重咲き)品種が春に大量流通している。あれはあれで美しくはあるが、原種のasiaticusが持っている清楚な魅力とはまったく別方向に進化した花である。

というか、asiaticusは乾燥地域の花なのでちょっと多湿にするとあっという間に腐ってしまう。日本国内では長生きさせるのが難しく、ほぼ100%が短期間のうちに消耗品として消えていく。まあ園芸生産品なのでそれで問題は無いのだが、まともに育てられないのは少々寂しい気がする。

だが最近は日本の気候風土に合った品種を新たに交配育種する試みも始まっている。商品名を出すとステマ扱いされそうなので控えるが、適地であれば花壇植えも不可能ではない品種が作出されて全国への流通が始まっているようだ。リュウキュウヒキノカサのように耐暑性・耐湿性に優れた原種を交配親に使ったら面白いのでは?と思ったりもする。とはいえ育種というのは10年単位で時間がかかる仕事なので、この年になるともう自分でやってみる時間は無いのだが。 

リュウキュウボウランの謎

collect in Okinawa island,Japan.

(This plant cultivate in Tokyo.)

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通称「リュウキュウボウラン」。東京の某展示会に出品されていた株を知人が撮影したもの。(掲載は撮影者の了承済)

この植物に関しては色々と感慨深いものがある。もともとは亡き師匠が秘蔵していた沖縄本島採取個体(とされている。これに関しては後述する)で、師匠が株分けして数十年前に東京の山草会に送ったものが送付先で増殖され、日本全国に広まった模様。現在沖縄で栽培されている苗にも東京からの里帰り品があるようだ。

ラン科植物の多くは毎年植え替えないと作落ちしたり、暑さ寒さに耐えなかったり、ウイルスに弱かったり、いきなり腐って全滅したりする。そのため「希少なランを栽培下で保存栽培していこう!」などとイキってみても、バトンを渡した時に落とす人が多すぎてリレー栽培が現実的にほぼ成立しない。ところがこの個体はたった一株のオリジナル個体から増殖され、何十年も人から人へと手渡されつつ栽培が続いている例外的な事例である。

この個体はランとしては強健で、ある程度の粗放栽培に耐える。何かに着生させてしまえば何年も植え替えが不要。栄養繁殖しやすくウイルス耐性もあり、暑さに強く、関東でもある程度の温度が保てるなら室内越冬できるぐらいの耐寒性もある。(注:寒さは好まないので加温が足りないと花が咲かなくなる)さらに近縁の着生蘭の性質から推測するに個体寿命もおそらく100年以上あるだろう。栽培維持に関して大きな問題点が無かった、言い方を変えれば、めったに枯れない草だったからしぶとく残っているわけだ。

亡き師匠から聞いた話では、このランは沖縄本島の本部(もとぶ)半島の岩場で一株だけ見つかったもので、師匠が発見者から譲りうけて秘培していたのだという。(その後に同種の苗が発見されたという噂を聞いたことがあるが、真偽は確認できていない。現在流通している「リュウキュウボウラン」はどれも師匠から分株されたことが確実な個体と区別がつかないので、すべて同一クローンではないかと考えている

もともとリュウキュウボウランというのはSchlechter(ドイツの植物学者)

奄美大島で採集して記載したLuisia liukiuensisの和名であるらしいが、原記載を調べていないので正体がよく判らない。

日本語文献では「原色日本のラン」(前川文夫著、昭和46(1971)年)に名前だけ紹介されており、「(広域分布するボウラン属が)琉球列島にだけまったく異なる種を分化するということはまことに考えにくいことであって、ナゴラン(あるいはフウラン)といった他属とのF1である可能性も考えられるのである(同書p.67より引用)という記述がある。

ネットで検索すると今回の画像と同種の「リュウキュウボウラン」に対して「学名はLuisia liukiuensis、前川文夫博士はボウランとナゴランの交雑種だと推定している」というような解説も見つかるが、おそらくこの書籍が元ネタだろう。ただ、そういう説明の多くは孫引きを重ねていて、微妙に正確さを欠いているように思う。

ちなみにボウランとナゴラン、ボウランとフウランの交配種(Luinopsis Furusei、Luisanda RumRill)は洋蘭業者が人工作出したものが流通している。画像検索していただければ判るが、いずれも今回の個体とは外見がまったく異なっている。

というかSchlechterが記載したリュウキュウボウランなるものは、亡き師匠が栽培していた「リュウキュウボウラン」とは別物の可能性がある。記載標本と同一種でないとすれば、画像の個体をリュウキュウボウランと呼ぶ事からして間違っている。ならば何と呼べば良いのか?というと現状では「未同定の正体不明種」ということになるだろう。

前川博士の記述を見ると「リュウキュウボウランは交雑種なのでは?」という疑問を呈しているだけで、ボウランとナゴランが親だと断定してはいない。奄美大島に自然分布している野生蘭でボウランと交雑可能なのはナゴランとフウランぐらいしか思い当たらない、というだけの話ではなかろうか。(独自解釈:要検討)

現存する「リュウキュウボウラン」の外見は、沖縄本島でしばしば屋外に植栽されている東南アジア産の大型単茎種Papilionanthe teresと、ボウランを足して2で割ったような感じである。もし両者の交雑種であるならば、ボウラン属Luisiaではなく属間交配属Papilisiaという事になる。

下記リンクはPapilionanthe teresとLuisia javanicaの人工交配種、Papilisia Terejavaの画像だが、「リュウキュウボウラン」にかなり似ている。

リュウキュウボウラン」が本当に野外生育株であるならば、栽培品のPapilionanthe teresと沖縄本島産のボウランが虫媒によって交雑し、野外で種子が生育したもの、という可能性が高いように思われる。しかし現時点では仮説・憶測の域を出るものではなく、正確な両親については誰かがDNA鑑定で確定してくれるまで断定は避けておく。

問題は野外に自生していたというのは真実なのか?という点である。師匠は発見者の方から直接譲りうけ、発見場所も案内してもらったというが、それは二次情報である。まあ、こういう酔狂な交配種をわざわざ作って山に植えるような人はまずいないだろうが、第一発見者の方の情報に嘘、あるいは誤認があった可能性は否定しきれない。

もしかしたら台湾あたりの蘭園が面白半分に作った人工交配苗を買ってきて、山採り大珍品だと大法螺を吹いたオジイがいた、というのが真相だったりするかもしれない。そうなれば片親が沖縄産ボウランでは無い、という事であってもおかしくはない。いずれにしても来歴に関しては今となっては確かめる術(すべ)は無い。

 

話は変わるが「リュウキュウボウラン」は管理人も以前に栽培していたことがある。試しに交配してみたところ自家受粉ではまったく結実しなかった。自家不和合の可能性もあるが、交雑種なので稔性が非常に低いという可能性のほうが高いように思われた。(注:根拠は無い)そういう場合には親となった原種の花粉を使って「戻し交配」をするとしばしば苗が得られる。

そこでナゴラン、フウラン、ボウラン(が手元に無かったのでタカサゴボウラン)、ついでに園芸交配種のコチョウランの花粉をそれぞれ「リュウキュウボウラン」2花ずつに交配してみた。結果としてナゴラン、フウラン、コチョウランは子房が膨らむことなく落花、タカサゴボウラン交配のみが2花とも結実した。その時の種子を育苗した結果がこちらである。

Papilisia? X Luisia teres var. botanensis

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うん・・まあ何というか、残念な感じの マニア好みで味のある花である。

 

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こちらは同果実から育成した姉妹株。ほぼボウランである。予想以上にボウランである。

実生形質がバラつくところを見ると「リュウキュウボウラン」はやはり交雑種であろうか。片親がボウラン系であれば「ほぼボウラン」が出現しても矛盾は無い。

まあ観賞価値に関しては・・美の基準というものは人それぞれ、語らずに心の奥に秘めておけば良いのである。

Hong Kong orchid tree

Bauhinia X blakeana

form Hong Kong. cultivate in Higashi village, Okinawa island, Japan

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オオバナソシンカ(大花蘇芯花)。葉が偶蹄類の蹄の形に似ており、沖縄ではヨウテイボク(羊蹄木)という名前でも呼ばれている。アカバナハカマノキ(赤花袴乃木)ともいう。あるいは英名でオーキッドツリー。呼び名が一定していないので人と話をする時に困る。(苦笑)

マメ科の樹木だが、マメ科っぽくない大型の美しい花を咲かせる。やや大型になるので一般住宅の庭に植栽されることは多くないが、街路樹などになっているのをしばしば見かける。

遺伝子解析によるとムラサキソシンカBauhinia purpureaを母樹にもつ交雑種で、花粉樹はフイリソシンカBauhinia variegata と推定されているが確定していない模様。1880年頃に香港で発見され、稔性が無く結実しないため挿し木などによって殖やされ、各国に普及したとされる。が、戻し交配あるいは非常に低い確率で種子ができるらしく、その中には稔性のある個体も見つかっているようだ。(出典:ウィキペディア英語版↓)

花には菊に似た淡い香りがある。おひたしにすると食用菊のように食べられるという話だが、街路樹の花をむしる勇気が無く、いまだ確認できていない。

オキナワチドリの段ボール播き

今回はオキナワチドリの段ボール播き記録。

「段ボール播き」とは何か?と言う初心者の方は「段ボール、ダンボール、実生、発芽、ウチョウラン」などの単語を組み合わせて検索してみていただきたい。日本発祥のチドリ類実生法だが、海外にも伝わってDactylorhiza(ハクサンチドリ)属に試みられ成功している模様。(ちなみにOphrys属では不発芽に終わったという情報しか見つからなかった)

cardboard propagation of Dactylorhiza purpurella | Slippertalk Orchid Forum- The best slipper orchid forum for paph, phrag and other lady slipper orchid discussion!

 

cardboard sowing orchid - Google 検索

 

 オキナワチドリでは以前にOkinawan-lyrics氏から、播種後2年で開花した、というご報告をいただいている。

 経験値を上げるため、自分でも鉢播き実生をやってみなければ、と思い追試を実施した。

2016年3月、手元にあった大点花交配苗をシブリング交配。

2016年5月に種子が完熟。5月24日、段ボール入り用土の鉢に採り播き。

Okinawan-lyrics氏の場合は11月には発芽が認められたとの事だが、まったく発芽がみられず年越し。ようやく発芽してきたのは翌春3月になってからだった。

Amitostigma lepidum(Poneorchis lepida) 14/03/2017 seeds germination

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 そのまま灌水を続け、夏も強く乾燥させぬよう注意しながら翌年まで管理した。

まとまった発芽が見られたのは2017年の秋になってから。

12/01/2018 seedlings

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 地生蘭の完熟種子には強い休眠があり、播種しても一斉には発芽しない。発芽してくるのが2年目、3年目になることも珍しくない。鉢内にたまたま発生してくる共生菌の種類、あるいは遷移状況によって発芽率・生育速度が異なってくると思われる。

 今回はサンプル数が一鉢だけなので成功率に関しては言及できないが、とりあえず再現性がある事を確認できた。知人達からの経験談を集めてみても、チドリ類に関しては段ボール播きの成功率はかなり高いようだ。

 だが2年間植え替え無しで管理してきたため用土の劣化が激しく、2月頃から子苗が次々と腐りはじめてしまった。休眠後に鉢をあけて球根を拾い集めたが、最終的には3分の1程度しか生き残らなかった。

 新しい用土に植えつけて、その年の秋からきっちり肥培したところ順調に大きくなり、2019年に開花した。

14/03/2019

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 初開花。2年で開花する、というのはOkinawan-lyrics氏の報告と同様である。

 ちなみにこの播種方法で成功率が高いのはチドリ類とシラン類ぐらい(注:シランは段ボールの有無に関わらず普通の用土でも発芽する)で、他のランでは成功率が下がる。ネジバナも段ボール播きで発芽するが、成功率はチドリ類に比べて低く、まったく発芽せずに終わる場合も多い。播種床に播いたランと相性の良い菌が偶然に湧いてくるかどうか、に成否がかかっているようなので、使った用土の中・周辺環境にたまたま良い菌がいた場合と、いなかった場合では同じように播いても結果は異なるだろう。

 ウチョウランやイワチドリでは本土での実験例が豊富にあるが、同一栽培者が同じように播いても年によって芝生のように生えてくる時と、一本も発芽してこない場合があるようだ。

 サギソウなどもこの方法で発芽はするようだが、多くの場合はその後の生育が順調でなく、成株まで育つのは稀らしい。サギソウに対しては段ボール菌は共生菌としての能力が不十分のようである。またダイサギソウはこぼれ種があちこちの鉢から発芽してくるにもかかわらず、段ボール播種してもまったくと言って良いほど発芽しない。

 チドリ類の共生菌は段ボールを分解する普遍的な菌であるらしい(仮説であり、検証した報文は見たことがない)が、知人達からの情報を集めてみた限りでは、他のランの共生菌は段ボールとの関連が乏しい、あるいは発生率が低い菌であるように思われる。播いた場所に共生菌がたまたま湧いていれば段ボールの有無とは無関係に発芽するし、共生菌が湧いていなければ段ボールを入れてあっても発芽しない、あるいは発芽しても生育しないという事のようである。(これも検証した報文は無い。軽はずみに引用なさらぬようお願いしたい)

 余談だがシュンランやカンランは栽培場で実生が生えたという報告が、管理人の知る限りでは一例も無い。一方で自生地に種子を蒔いて苗を得たという報告は山ほどある。(乱穫されて自生個体がほとんど無くなっているカンランなどは「今の時代に山で苗を見つけたら、誰かが種を蒔いた事を疑え」と言われているほどである。詳しくは「寒蘭 山蒔き」等で検索)

 東洋蘭の親株から分離される共生菌には、いわゆる腐生菌だけでなく樹木共生菌(生きた樹木と養分のやりとりをしないと生きられない)が含まれていること、地下生活をするマヤランやサガミランからは樹木共生菌のみが分離されている(下記リンク)ことなどから、地下生活時代の実生苗は樹木共生菌によって生育しているのではないかと推測されている。(誰によって?:要出典)そういうランの場合、いくら段ボールに播いても発芽は期待できないと思われる。

http://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C-6.pdf

 なお、最近流通している実生物のオキナワチドリはさまざまな系統が複雑に交配されているので、セルフ種子を蒔いた時に(文字通りの)多彩な実生が生えてくることも珍しくない。大点花の種子を蒔いたら純白紫点花が生えてきたり、多点花の親から無点と純白が分離してきたりという事が普通にある。

(他の栽培関連記事は最上段「オキナワチドリの栽培」タグをクリックしてください)

Malpighia emarginata

Acerola (Malpighia emarginata ) harvested in Okinawa island.

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熱帯果樹、アセロラの生果実。中に3粒の種子がある。

あまり知られていないが、沖縄本島本部町アセロラの栽培に力を入れている。そして本日5月12日は、本部町アセローラの日制定委員会が制定し、日本記念日協会に登録した「アセロラの日」である。マジである。

アセロラは加工食品が広く出回っているので、名前だけなら知っておられる方も多いと思うが、生果実を食べたことのある方は少ないだろう。果実が傷みやすく流通に向いていないこともあるが、ぶっちゃけ言うと生果実のまま食べても驚くほど美味しくは無いので、生果の状態ではあまり出荷されていないのである。沖縄本島内ですら販売されている場所は多くない。

品種によっても味が違う(やたらと酸っぱい加工用品種と、ほんのり甘い生食用品種がある)が、いずれにしても生果の状態ではサクランボを上回る味だとは言い難い。甘味品種を完熟状態で木からもいで食べればフレッシュな香りもあって悪くないが、収穫時期が早いと酸っぱいだけで青臭さもあり、正直言って微妙である。むしろキリっとした酸味を生かす方向で、加工してピューレやジュースにしてから砂糖や他種の果汁、あるいはお酒やヨーグルトなどに混ぜて賞味するのが正解であろう。というかそういう方向で加工品になったものが全国流通しているわけである。

しぼりたてフレッシュジュースは生果実を農場から取り寄せて自作するか、あるいは加工工場でも見学しない限り賞味するのは難しい。生産農場近辺のお店で提供されている「生ジュース」も多くの場合、一旦冷凍したパックを解凍して使っている模様。それでも一般流通している量産アセロラジュースとは別物なので、観光などで見かけた時にはぜひご賞味いただきたい。沖縄の素晴らしい思い出になることだろう。

まあ冷凍果実、冷凍ピューレ、冷凍生ジュースは通販でいつでも買えるんだけどな(ボソッと)