Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの段ボール播き

今回はオキナワチドリの段ボール播き記録。

「段ボール播き」とは何か?と言う初心者の方は「段ボール、ダンボール、実生、発芽、ウチョウラン」などの単語を組み合わせて検索してみていただきたい。日本発祥のチドリ類実生法だが、海外にも伝わってDactylorhiza(ハクサンチドリ)属に試みられ成功している模様。(ちなみにOphrys属では不発芽に終わったという情報しか見つからなかった)

cardboard propagation of Dactylorhiza purpurella | Slippertalk Orchid Forum- The best slipper orchid forum for paph, phrag and other lady slipper orchid discussion!

 

cardboard sowing orchid - Google 検索

 

 オキナワチドリでは以前にOkinawan-lyrics氏から、播種後2年で開花した、というご報告をいただいている。

 経験値を上げるため、自分でも鉢播き実生をやってみなければ、と思い追試を実施した。

2016年3月、手元にあった大点花交配苗をシブリング交配。

2016年5月に種子が完熟。5月24日、段ボール入り用土の鉢に採り播き。

Okinawan-lyrics氏の場合は11月には発芽が認められたとの事だが、まったく発芽がみられず年越し。ようやく発芽してきたのは翌春3月になってからだった。

Amitostigma lepidum(Poneorchis lepida) 14/03/2017 seeds germination

f:id:amitostigma:20190514145113j:plain

 そのまま灌水を続け、夏も強く乾燥させぬよう注意しながら翌年まで管理した。

まとまった発芽が見られたのは2017年の秋になってから。

12/01/2018 seedlings

f:id:amitostigma:20190514152840j:plain

 地生蘭の完熟種子には強い休眠があり、播種しても一斉には発芽しない。発芽してくるのが2年目、3年目になることも珍しくない。鉢内にたまたま発生してくる共生菌の種類、あるいは遷移状況によって発芽率・生育速度が異なってくると思われる。

 今回はサンプル数が一鉢だけなので成功率に関しては言及できないが、とりあえず再現性がある事を確認できた。知人達からの経験談を集めてみても、チドリ類に関しては段ボール播きの成功率はかなり高いようだ。

 だが2年間植え替え無しで管理してきたため用土の劣化が激しく、2月頃から子苗が次々と腐りはじめてしまった。休眠後に鉢をあけて球根を拾い集めたが、最終的には3分の1程度しか生き残らなかった。

 新しい用土に植えつけて、その年の秋からきっちり肥培したところ順調に大きくなり、2019年に開花した。

14/03/2019

f:id:amitostigma:20190514160712j:plain
 初開花。2年で開花する、というのはOkinawan-lyrics氏の報告と同様である。

 ちなみにこの播種方法で成功率が高いのはチドリ類とシラン類ぐらい(注:シランは段ボールの有無に関わらず普通の用土でも発芽する)で、他のランでは成功率が下がる。ネジバナも段ボール播きで発芽するが、成功率はチドリ類に比べて低く、まったく発芽せずに終わる場合も多い。播種床に播いたランと相性の良い菌が偶然に湧いてくるかどうか、に成否がかかっているようなので、使った用土の中・周辺環境にたまたま良い菌がいた場合と、いなかった場合では同じように播いても結果は異なるだろう。

 ウチョウランやイワチドリでは本土での実験例が豊富にあるが、同一栽培者が同じように播いても年によって芝生のように生えてくる時と、一本も発芽してこない場合があるようだ。

 サギソウなどもこの方法で発芽はするようだが、多くの場合はその後の生育が順調でなく、成株まで育つのは稀らしい。サギソウに対しては段ボール菌は共生菌としての能力が不十分のようである。またダイサギソウはこぼれ種があちこちの鉢から発芽してくるにもかかわらず、段ボール播種してもまったくと言って良いほど発芽しない。

 チドリ類の共生菌は段ボールを分解する普遍的な菌であるらしい(仮説であり、検証した報文は見たことがない)が、知人達からの情報を集めてみた限りでは、他のランの共生菌は段ボールとの関連が乏しい、あるいは発生率が低い菌であるように思われる。播いた場所に共生菌がたまたま湧いていれば段ボールの有無とは無関係に発芽するし、共生菌が湧いていなければ段ボールを入れてあっても発芽しない、あるいは発芽しても生育しないという事のようである。(これも検証した報文は無い。軽はずみに引用なさらぬようお願いしたい)

 余談だがシュンランやカンランは栽培場で実生が生えたという報告が、管理人の知る限りでは一例も無い。一方で自生地に種子を蒔いて苗を得たという報告は山ほどある。(乱穫されて自生個体がほとんど無くなっているカンランなどは「今の時代に山で苗を見つけたら、誰かが種を蒔いた事を疑え」と言われているほどである。詳しくは「寒蘭 山蒔き」等で検索)

 東洋蘭の親株から分離される共生菌には、いわゆる腐生菌だけでなく樹木共生菌(生きた樹木と養分のやりとりをしないと生きられない)が含まれていること、地下生活をするマヤランやサガミランからは樹木共生菌のみが分離されている(下記リンク)ことなどから、地下生活時代の実生苗は樹木共生菌によって生育しているのではないかと推測されている。(誰によって?:要出典)そういうランの場合、いくら段ボールに播いても発芽は期待できないと思われる。

http://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C-6.pdf

 なお、最近流通している実生物のオキナワチドリはさまざまな系統が複雑に交配されているので、セルフ種子を蒔いた時に(文字通りの)多彩な実生が生えてくることも珍しくない。大点花の種子を蒔いたら純白紫点花が生えてきたり、多点花の親から無点と純白が分離してきたりという事が普通にある。

(他の栽培関連記事は最上段「オキナワチドリの栽培」タグをクリックしてください)