continue from 01/08/2017
25 days after pollination
8月1日の記事の続き。
(ミズトンボ×オオミズトンボ)×セルフ、交配後25日目
seed pods
果実の拡大画像。
almost mature embryo of 25 days seeds
稔性チェックのため果実から取り出した種子、拡大画像。交配後25日で胚はほぼ成熟しており、稔性も良い。
・・・え?
・・・えええええええ????
稔性がある???
ハベナリア類の異種間交配種は、一般的に稔性がきわめて低い。
たとえばスズキサギソウ(ミズトンボ×サギソウ)は交配すれば果実が膨らむが、内部にできる種子はほとんど全部が無胚種子で、蒔いても発芽はしない。スズキサギソウを母体にして正常なサギソウの花粉を受粉させれば、ものすごく低い確率で発芽力のある種子ができる「こともある」ようだが、基本的にはほぼ完全不稔に近い。(スズキサギソウを花粉親にした場合は花粉の活性が低いためか、ほとんど受精しない)
ハベナリア・ロードケイラ種群内での交配のような、ごく近縁の交雑であれば稔性が保たれる「こともある」が、それ以外のハベナリア種間交配種はことごとく不稔になる。自家受粉でも有胚種子ができるような高稔性の交雑種は管理人には心当たりが無い。
・・まあ普通の人の感覚では、種子ができたからって何が嬉しいの?と思うだろうが、この交配種の場合はちょっと背景が特殊だ。
ハベナリアは個体寿命が短いので実生更新できないと栽培維持は困難。だが日本国内のオオミズトンボは近親交配が進んでおり、限られた種親から増やされた増殖流通個体だけでは今後の世代更新を続けるのが絶望的な状況にある。
しかし園芸的な視点だけを考えるなら、外見上オオミズトンボに見えるランであれば、実際には雑種であっても観賞的な面では問題ないのではないか? 虚弱で殖えず実生苗もできない純血ニオイエビネより、強健で実生の容易なニオイエビネ型コオズ(ジエビネの血が混ざった交雑種)のほうが園芸的には優良ということはないか? 完全消滅する前に、雑種でも良いから遺伝子だけでも残しておいたほうが資源的には良いのではないか? ミズトンボを交配親に使えば、国内絶滅が確実視される「オオミズトンボ」を園芸植物として残せるのではないか?
・・と言えば「交雑は遺伝子汚染である。雑種として残すぐらいならむしろ滅びたほうが良い」という意見も出てくるだろうし、安易に雑種を作ることに問題がないとは言わない。
というか、一目見て種間交配種と判るランを、珍しい山採り原種と偽って素人に高額で売りつけた事例が山ほどある山野草業界が、洋蘭のような交配血統の記録管理などするわけがない。市販の「ヒナチドリ」を遺伝子解析してみたら「これは遺伝子的にはウチョウランですね」という結果が出てしまった事例も論文になっている。業者も趣味家も血統管理という点では信用ゼロどころか思いっきりマイナス評価である。
まあ、現時点では何を語っても妄想の域に留まる。とりあえずこの種子はぜひ育ててみてほしいと伝えておいた。
*2019年追記。
健全な種子に見えたが培養してみると発生途中でほとんどが褐変枯死してしまい、F1交雑個体のセルフ及びシブリング実生は育成できなかったとの事。ただしオオミズトンボの花粉を戻し交配したものは苗が得られた模様。