Aster asagrayi var.warkeri
from Yonaguni island, Okinawa, Japan.
ヨナグニイソノギク。(環境庁の資料ではヨナ「ク」ニイソノギクだが、現地の地名発音がヨナグニなので当ブログでは意図的にヨナグニと書いている。)
平成31年度に特定第一種国内希少野生動植物種に指定されたため (栽培する事に規制は無いが)手に入れる場合は申請許可済の業者から入手しないと違法になる。
画像個体は管理人がまだ若かった頃に種子を入手して、自宅で継代維持しているもの。法律施行前の入手なので法的な問題は無いが、許可業者以外に譲渡すれば違法になる。
交配して種子を採る。採り播きでも良いが、危険分散のため一部の種子は取り分けて保存しておいたほうが良い。採種後すぐに冷蔵庫に入れておけば、2年以上経った種子でも発芽する。(3年目までは実用上問題ない程度に発芽する事を確認している)
発芽は遅く不均一で、播種後1ヶ月ぐらいでポツポツと芽が出てくる。病害に弱いので、有機物を含まない清潔な用土に播種し、発芽後に園芸用殺菌剤を散布しておく。
キク科としては根が虚弱で移植はあまり好まない。小苗のうちに注意深く小分けして、育ってきたら鉢土ごと大きな鉢に移していくほうが安全。量産するならプラグ苗にするのがベストだろうが、需要は少ないと思うので蒔く量は最小限に留めている。
なお、近交弱勢をおこさずに他株受粉を続けられる最小個体数は不明。おそらく2株だけでは足りないと思われるので、管理人は複数年度の種子を蒔くことによって、遺伝子の多様性を維持する事を試みている。
余剰苗は認可業者に押し付ける予定。油断すると根腐れや病虫害でバタバタと枯れるので「キク科としては」かなり栽培困難な部類だと思う。
これが民間でできる生息域外保全・・などとSNSなどでドヤれば騙される馬鹿が一定数いるだろう。言っておくが、趣味家の栽培がこの種の保護に役立つ可能性はゼロである。なぜかと言えばヨナグニイソノギクは栽培不可能種だからである。
まあ管理人は殖やしている。が、それは採算度外視で、思い入れだけで面倒臭い維持栽培を毎年継続している狂人だからできる話であって、普通の人には一時的栽培しかできない。管理人から誰かに保存栽培がバトンタッチされる可能性は無いので、遅かれ早かれ絶える運命にある。つまり長期的視点では消費栽培をしている。
この種は短命な多年草で、開花すると高率で枯れる。まだ元気なうちに挿し芽などで未開花苗を作っておけば維持できない事も無いが、「キク科としては」発根率が低いので本気にならないと栄養繁殖苗が作れない。
根を切ると回復に時間がかかるが、一方で根詰まりさせるとすぐ枯れる。同一個体を維持したければ生育適期に必ず移植、あるいは挿し芽をしておくことが必要不可欠。
手入れをさぼったまま夏・冬に突入して状態が悪くなると、あわてて移植しても回復・発根せずそのまま枯れてしまう。こまめに世話できれば難物ではないが、少し目を離すと気がついた時には回復不能になっている。
親株はそこそこの大きさになり水分の吸収・蒸散が激しい(それでいて過湿には弱いので腰水などは避けたい)ので、それなりの大きさの鉢か、あるいはプランター栽培でないと育成しづらい。つまり栽培にも場所をとる。
霜に当てると枯れるので、本土であれば冬期にある程度の保温が必須。しかしビニールハウスにプランターをいくつも持ちこんでまで栽培したいような草ではないので、手を出しても冬の置き場所に困り、翌年にはそのまま管理放棄するのが普通である。
沖縄であれば露地で大量栽培も可能だが、前述のようにこまめに植え替えしないとすぐ絶える。与那国島でも植栽で栽培を試みた例があるが、自然更新で苗が育つような場所ではなかったため1年で消滅した。
弱った親株は捨てて種子で更新するほうが簡単だが、自家不和合、つまり一株だけでは種子ができないので採種するためには複数株を栽培しつづける必要がある。
さらに嫌なのが同属他種とものすごく簡単に交雑すること。沖縄本島のイソノギク自生地の近在で栽培したら虫媒で野生個体群に遺伝子汚染をひきおこしてしまう。(10kmぐらいは花粉媒介されるとも)
そういう場所から離して栽培していたとしても、圃場に同属のダルマギクとかユウゼンギクとか栽培していたら採種更新するのはアウト。もし栽培するなら農業用防虫ネットで厳重に隔離するしかない。
アスター属で本種より鑑賞的に優れた種類はいくらでもあるので、そういうものを無視して本種のみを苦労しながら維持栽培する、などという行為は客観的に見て異常者の所業である。
よって本種は現実的には栽培不可能。地域によっては栽培禁忌ですらある。
野生植物には、こういう感じで「苗をもらってきて一時的に育てるのは簡単だが、真面目に長期維持しようとすると超絶に面倒臭い」という植物が稀ではない。
園芸種でも、たとえばパンジー。苗を植えて花を楽しむだけなら栽培スキルもその種類に関する知識背景も不要。園芸ジャンルの中では入門種中の入門種とされている。だが、業者と無関係に自分一人で10年維持しろ、と言われたらあなたには可能だろうか?
パンジーは耐暑性が乏しく、日本のほとんどの地域では1年草扱いになる。つまり種子が採れなければ維持できない。パンジーは1果実の種子量が少ないし、完熟するとはじけてどこかに消えてしまう。交配する労力を抜きにして、きちんと採種するという作業だけでも実際にやってみるとものすごく面倒くさい。
しかもパンジーは他花受粉させないと弱化してくる。純系ではなく遺伝的に雑駁なので、そういうもの同士を自然交雑させたら観賞価値の低い妙な花色の個体がゾロゾロ出てくる。狙って人工交配して採種、育苗、実生選別して次世代の親株を選抜して・・というのを業者任せにせず自分でやったら時間的・労力的、何よりも栽培面積的に破綻確定である。(なお、日本国内にはパンジーを個人育種して名花を作出している方々もおられるが、パンジー専門でガチに取り組んでいる事例なので例外とする)
要するに「パンジーが簡単」というのは面倒な部分を育成業者に丸投げして、美味しい部分だけをつまみ食いしているから成り立つ話である。自分一人で10年維持、という条件なら寒蘭のほうがはるかに簡単だろう。
そういうバックヤードの苦労をな~~~んにも考えずに「素人はパンジーでも育てていればいい」とか、寝言は寝て言えという感じである。本来ならば「素人は寒蘭でも育てていろ」が正しかろう。
「本来は難しい」部分を毒抜きした上澄みだけが園芸雑誌に載る。それを見て「消費者」が飛びつき業者の栄養分になる。まあ商業生産者がバックに控えている一般園芸は消費栽培で何一つ問題はないのだが、山盗り非自家生産の苗を扱っている業者/購入者が、面倒な部分が何も見えていないまま「栽培できます/してます」と言っているのを見た時には辛いものがある。
結局のところ、希少種は全部法律で縛って栽培に規制をかけていくしか無いのだろうと思う。