Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

業務連絡:こういうのが咲くそうな

((サギソウ標準花 X 「八月(はづき)」) X シブリング)=「実生・その1」

本土の某所で撮影。

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側花弁が唇弁化した「二蝶咲き」で距が2本ある。萼片は2枚のみ、唇弁が欠損している。この株は花粉、柱頭、子房が退化しており結実しない。

 

こちらが祖父にあたる品種、「八月(はづき)」の画像リンク

http://www.sansoukai.com/bukai/ran/20140808/20140808.html

http://prototroph.web.fc2.com/article/plant/orchidaseae/list/list-sagisou/list-sagisou.html

「野生ラン変異辞典(昭和60年)」の記述によれば、「八月」は「昭和57年、兵庫県三田市の東瀬戸吉二氏が自生ものの中から”おぼろ月”(完全不稔の奇花:管理人注)とともに見つけて命名した」との事。

「八月」はきわめて虚弱な品種で、絶種していないのが不思議なくらい育てにくい。唇弁が二枚ある「二蝶咲き」と呼ばれる奇花で、子房が退化していて通常は種子ができない。花粉も通常は欠落しているが、稀に花粉形成する事があり、花粉親として使う事は必ずしも不可能ではない。

だが「八月」を花粉親にした場合、F1(交配実生第一世代)は100%普通の花が咲くそうだ。

 

下画像がF1世代の標準花 X 「八月」』。本土の某業者から販売されたものだが、「八月」の血統であることをうかがわせるような特徴はまったく無い。

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しかし、このF1実生同士を交配(自家受粉も可能だが、子供が弱体化するので「八月」血統の別個体との交配が望ましい)すると、F2(交配実生第二世代)において約4分の1の割合で祖父の「八月」に似た奇花が出現するのだそうだ。

 

下の画像が「八月」と同型になったF2個体。じつは冒頭と同じく「実生・その1」(分球したクローン株)の花なのだが、こちらは完璧な「二蝶咲き」になっている。萼片は2枚しか無く、距が2本ある。この花には柱頭があるが花粉は無く、子房も退化している。

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基本的には不稔だそうだが、柱頭が形成されていて、なおかつ子房も比較的発達している花であれば、他株の花粉をつけるとごく少量の種子が得られる「こともある」そうだ。

 

こちらの画像も「実生・その1」の花。

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これは一見すると普通の花に見えるが、よく見ると萼片が2枚しかなく、花粉塊が左右に2個ずつある。2蝶咲き形態のものがたまたま1蝶咲きで咲いたため、唇弁の重みで花が横向きになっている状態である。まあ、言われなければまず判らない。

このように花ごとに違う形になるので、美麗と言うよりは珍妙な個体である。

ちなみに真祖の「八月」も非常に花の構造が乱れやすく、花ごとに違う形になる性質がある。

 

F2「実生・その2」(その1とは別株)。こちらの個体は唇弁が欠損し、不完全な二蝶咲き・左右不対称。距は1本。花粉はあるが柱頭と子房は退化している。

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「実生・その2」別の花(上下逆に咲いたので画像を反転してある)

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F2「実生・その3」。不完全な二蝶咲き。距は2本、萼片2枚、唇弁欠損、花粉あり、柱頭と子房は退化。

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どの個体も鑑賞的には首をひねる感じだが、「遺伝性がある奇花」という存在はなかなか面白い。

後代の奇花出現率からみると、奇花形質は劣性(潜性)遺伝と考えて良いのだろうか?ここからさらに交配を重ねて検証していく必要があるだろう。

 発現形質に相当なバラつきが見られるので、さまざまな交配親を使って大量に後代実生を育成すれば、美的な個体が出現する可能性もゼロではないかもしれない。F1実生を入手なさった本土の方は、ぜひ試してみていただきたいものである。