Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの属間交配種

Ponerorchis lepida X Shizhenia pinguicula

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オキナワチドリ4倍体 X 中国大花チドリ。

以前の記事でも紹介した交配種。某業者からの販売例がある。

今まで説明した事が無かったが、園芸界では「A X  B」という表記はAが受け・・じゃなかった母親(子房親)で、Bが父親(花粉親)である。どちらが受け入れる側になったのか情報として重要なので、書く順序は絶対に間違えてはいけない。逆交配だと種子ができない組み合わせもあるので、解釈違いをおこさないよう表記順序を守らなければならない。

BL表記と逆? 管理人には何のことかよく判りません。

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花の拡大画像。

父親(中国大花チドリ)は下記リンク記事を参照。

 母親(オキナワチドリ4倍体)は下画像の個体。フローサイトメトリー計測で4倍体であることが確定されている。オキナワチドリの場合、倍数体っぽい形質の個体は大量の実生の中から時々見つかっているが、学術的手法できちんと確認された倍数体は数系統しか知られていない。(知られているだけでも数系統はあるって事ですね)

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 倍数体は大輪になる、というのが一般常識。しかしオキナワチドリの場合は4倍体は植物体が縮んでむしろ小輪になる。オキナワチドリ同士の交配であれば3倍体が最も大輪になる。

・・でまあ、ここまでは前振りである。一番上の画像個体を交配親に使えないか試してみた。

 異属間の遠縁交配、しかも片親が4倍体の「異質3倍体」である。普通に考えれば種子を作る能力は無い。自家受粉では常識通り果実が膨らまなかった。

 ところがオキナワチドリ2倍体の花粉をつけてみたら、果実が肥大しはじめた。

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 上画像が次世代作出に使ったオキナワチドリ2倍体・大点花。種子ができるとは思っていなかったので適当に選んだ無銘の実生(ただし野生選別個体からの交配記録がすべて残っている)である。

 経験上、遠縁交配の種子は途中で生長が止まって胚が枯死することが多い。そこで未熟なうちに採果してフラスコ内で胚培養してみた。数本ほど発芽して(途中経過省略)1個体だけ開花株まで生長した。下記画像は2株あるが、分球した同一個体。

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 母親が交雑種なので間違いなく中国大花チドリの血を引いているはず・・と言いたいところだが、見た目にはただのオキナワチドリに戻っている。DNA解析しなければ本当のところは判らないが、中国大花チドリの遺伝子が抜け落ちてしまったような感じである。ついごーできなかったせんしょくたいがだつらくしたのかな? ってえらいせんせーがいってた。

「スズチドリ(ウチョウランX ヒナチドリ)にヒナチドリを戻し交配してヒナチドリにウチョウランの耐暑遺伝子を取り込み、見かけはヒナチドリだが温暖地で夏を越せるランを創り出す」(実際に創られているが、ヒナチドリというラベルで出回っているためDNA検査しないと判らない)ように特別な形質を組み込む育種ができるなら価値もある。が、この交配後代には外見にも性質にも拾いあげたくなる特徴が見当たらない。

これ以上交配を進める意義を感じないので、ここで終了とする。

 サンダーズリスト(英国サンダー商会が創設したラン科交配種の血統登録制度。現在は英国王立園芸協会に引き継がれ、新しい交配種を作って報告すると作出者名と共に永久記録される)に好きな名前をつけて登録できるはずだが、交配を進めていくための記録なので交配親に使えないものを登録しても意味は無いだろう。

・・「うまぴょい」とか名称登録でき・・いや何でもない。

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