Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

歳を報せる蘭

Cymbidium sinense var.alba

from Amami island, Japan.

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ホウサイラン素心(そしん)。通称、白花ホウサイ。

 中国の旧正月(2022年は2月1日)頃に開花することから「報歳蘭」という呼び名がついたという。日本だと花期は少し遅れることが多い模様。

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 いわゆる東洋蘭の中で見た場合、植物体に比べて花が小さく、花型もあまり良くない個体が多い。花物として選別された優良個体もあるが、東洋蘭界では斑入り個体を鑑賞する観葉植物「蕙蘭(けいらん)」として評価されている品種が多い。(普通個体も花型を問わなければ一般シンビジウム並みの価格で手に入る)

 ちなみにシンビジウム属は地生蘭としては例外的に個体寿命が長く、栄養繁殖のみで100年以上も維持できるっぽい。(たとえば中国で「春蘭の王」と呼ばれる「宋梅」は今から200年以上も前、乾隆帝(1736~1795)の時代に宋金旋という商人が、美少女を養女に迎える夢を見たあと見つけたと伝えられている)

https://baike.baidu.com/item/%E5%AE%8B%E9%94%A6%E6%97%8B%E6%A2%85/3402835

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 全体像。この個体の葉は横に大きく広がる。奄美大島産、台湾産のホウサイランとして流通している系統はこれと似た形質で、外見から産地を特定することは難しい。

 「中国ホウサイ」という名前で流通しているものも葉が広がる個体がみられるが、文献では大陸産ホウサイは葉が上に立ち上がる「立ち葉」が多い事になっている。流通過程で混同されてラベルに書いてある産地が信用できなくなっているので、正確なところはよく判らない。

 見ての通り、シンビジウムとして見れば「駄物」である。しかし花に上品な香りがあり、成分分析して再現し「報歳蘭の香水」として売り出された事例すらある。そのため花型は無視して香りを楽しむために育てている園芸家もいる。

 画像個体は亡き師匠から30年以上も前に「奄美大島産」という説明のもとにもらった種子を育成したもの。いわゆる「奄美報歳」は標準花と白花が奄美大島において栽培品として伝えられている。通販で増殖株が入手できるが、野生個体はほぼ絶滅状態で野外で開花株を見ることは不可能。

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 中央部、赤い線で囲った部分が無菌培養ビン出し時の球茎。撮影実長は約7mm。

そこから4年で成株にまで生長、今年に初開花した。

 あれ? 種子をもらったのは30年以上も前のはずでは? と思った方はおられるだろうか。いわゆる東洋蘭を無菌培養した場合、発芽した苗は「リゾーム」と呼ばれる小さいショウガの根のような塊になり、培地にもぐりこんだ状態で発葉も発根もせず何十年もそのまま生き続けるのである。ちなみに乱穫が極みに達しているカンランなどがギリギリのところで野生絶滅をまぬがれているのは、極端に長い地下生活を送る実生が、皆が忘れた頃に地上に芽を出してくるためである。

 培養ビンの中の実生を新しい培地に移し続けると、何十年でもショウガ根のままで永久に出葉しない。しかし培地に植物生長ホルモンを添加して刺激を加えたり、移植継代を中止して培地養分が枯渇し極限状態に追い込まれた場合には発葉してくることがある。画像個体は後者の苗を育成したもの。

 単価が安いランなので、国内では原種ホウサイランの実生をしている人はほとんどいない。しかし各国でシンビジウムの種間交配親に使用されており、日本ではM蘭園さんが和の趣をもつ有香シンビジウムの作出に使っておられるようだ。

Cymbidium sinense var.alba X Cym. goeringii

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 こちらは某蘭展に出品されていた白花ホウサイ X シュンラン。花はハルカンランに似ているが葉がシンビジウム的。

 

Cymbidium sinense X Cym. kanran = Cym. Medhi 'Shiunkou'

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 こちらはホウサイラン X  カンラン =Cymbidium Medhi , 個体名「紫雲香」。花型が整っていて渋い花である。

 

Cym.sinense from Yamagawa, Kagoshima pref. Japan.

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 こちらは市販の通称ヤマガワホウサイ。鹿児島県指宿市の山川(旧・山川町)で採集されたと伝えられる原種系統。実際のところは在来種なのか古い時代の渡来種なのか定かではないが、山川町の町花として住民に愛されている。株分けされたものが通販で売られており、現存数はそれなりに多いようだがオリジンが何株あったのかは不明。おそらく数える程度の個体から殖やされたものだと思うが、正確なところは誰かがDNA調査でもしない限り判らない。

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 ヤマガワホウサイは「立ち葉」である。聞くところでは屋久島産の「屋久島報歳」も立ち葉らしいが、そちらは実物を見ておらず真偽を確認できていない。