Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

アマミアセビ

Pieris amamioshimensis

from Amami island, Japan.

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アマミアセビ奄美大島の固有種。管理人宅の玄関横の植栽品。

 沖縄本島産のリュウキュウアセビと同種とされていたが、2010年に遺伝子解析の結果から別種とされた。沖縄と奄美の動植物はDNAデータからは別種と読み取れても、外見的には似通っている(種類によってはほとんど見分けがつかない)ものが多い。島の南部と北部、太平洋側と日本海側の個体群では遺伝子構成が違っていたりする事もあるので油断ならない。

 (余談だが奄美諸島沖縄諸島のオキナワチドリは外見的に違いがあるのだが、同種として良いのだろうか? 誰か調べてみてほしい)

 なお、奄美産の動植物を沖縄で育てる(あるいはその逆)のは野外逸出や、野生個体と交雑する可能性があるので基本的には避けるべき行為である。(まあ、それを言うと本土でも地元産以外の生物は飼育・栽培するなという話になる。ちなみに沖縄本島産のリュウキュウアセビは野生絶滅しており、植栽されたアマミアセビの花粉が虫に運ばれて自生地で遺伝子汚染をひきおこす事は無い)

 本種は2014~2016年に環境省、各地の国立大学と京都府立植物園によって保存プロジェクトが立ち上げられ、現地および日本各地、さらに海外の植物園からも現存個体の収集が試みられた。DNA解析で個体識別して(つまり挿し木クローンは全部合わせて一つの個体として扱う)2016年の時点で145系統を収集。そこから挿し木増殖してそれぞれの苗に情報付きQRラベル(スマホで読み込むと個体情報がダウンロードされる)をつけて奄美大島に里帰りさせるという快挙をなしとげた。

 下記リンクに初期に使われていたバーコード情報ラベルの解説があるが、希少植物はこういう感じで個体情報付きの苗を流通させていくのが理想ではある。

プロジェクトの目的|環境省 環境研究総合推進費 希少植物・絶滅危惧植物の持続可能な域外保全ネットワークの構築(旧資料)

 収集個体の中には廃屋の庭に残されていた成木から別居家族に連絡して挿し穂を採らせてもらったとか、管理者が高齢になって処分寸前の盆栽を探し出したとか、山採り業者が病気引退したあと地植え放任されて藪に埋もれていた木を見つけたとか、少し遅ければ完全消滅していた個体が数多くあった模様。「個人所有の絶滅危惧植物が消滅する分岐点にあることを強く認識した」と報告されている。(下記リンク文献より引用)

「希少植物・絶滅危惧植物の持続可能な域外保全ネットワークの構築」(改定資料)

https://www.erca.go.jp/suishinhi/seika/pdf/seika_1_h29/4-1403_2.pdf

・・でまあ、本種に関しては望みうる最善の形で保全が間に合ったが、これはアマミアセビが「素人が庭に植えて放任栽培しても長く生き続ける、収集後の管理を植物園のバイトに丸投げしても問題ない丈夫な植物」であったから実現できた話である。

 上記リンクにあるチチブイワザクラの場合は栽培増殖にある程度の技術や知識を要するため、増殖プロジェクトが遅々として進んでいない。殖やすだけなら山野草生産業者に委託すれば良いのだろうが、殖やしてもデリケートな苗を引き継いで育てられる人がほとんどいないのである。(ちなみに遺伝子解析してみたら、栽培場でよく育つ系統と、野外に植え戻した時に枯れずに育つ系統はまったく別だったという記述がたいへん興味深い)

 で、当ブログが主要ネタにしている地生蘭の場合、プロの生産業者であっても実用レベルで増殖技術を確立できている種類はごく一部しかない。シラン、エビネやクマガイソウ、沖縄でのカクチョウラン栽培や北国におけるアツモリソウなどの例外的事例を除けば庭植え放任は難しい。鉢植えにして育ててもベテラン栽培者が世話できなくなったら3日で栽培崩壊するようなクソ面倒な種類ばかりで、野生個体が消滅分岐点にあっても生育域外保全のハードルは高い。

「植物園で原種ウチョウランの収集保全をしましょう!」などと言われても「誰が世話するんだよ、枯らしたら責任問題になるんだぞ」で終了である。技官に払う金を削って造園屋に管理を外注している施設に、何ができるというのだ?

 というか、そんな手間のかかる植物を保全するマンパワーがあるなら、ただ珍しいだけで栽培自体は超簡単な植物を何種類も保全したほうが業績になる。管理人が「仕事でやるなら」地生蘭には絶対に関わらない。内容評価するのは植物にも栽培技術にも興味の無い人たちであって、何を育てても書面に書いてある経費と栽培数しか見てもらえないからである。

 現状では「じゃあ育てられないランは種子の超低温保存でもしておきますか?」みたいな方向で検討が進んでいるようだが、「誰も親株を維持できないので遠い未来に復活を託します」と言われてもそこに希望があるのか無いのかよく判らない。まあ、いずれにしても今の日本では現実的に見てそれが限界のようである。

 

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