Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワギク

沖縄菊 Aster miyagii

奄美・沖縄固有種、絶滅危惧Ⅱ類

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画像は沖縄本島の北部、東海岸産の個体。

東海岸の岩場ではわりと普通に見かけるが、西海岸での分布はきわめて局所的。というか西海岸は開発されまくっていて健全な自然植生が残っている海岸自体がものすごく少ない。

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花のアップ。頭花の部分に赤みがほとんど無い事に注目。

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 この個体は園芸用語で「青軸・準素心(あおじく・じゅんそしん)」と呼ばれるもので、赤系色素が普通よりも少ない。

 ちなみに完全なアントシアニン欠損変異、つまり一般的な花でいうところの純白品種は「素心(そしん)」と呼ばれる。これはオキナワギクのようにもともと白っぽい花の「白系標準花」と「純白花」を区別するために使われる呼び名である。

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こちらが別個体の「標準花」。白花ではあるが頭花に赤い色素が乗る。

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 こういう感じで花茎にアントシアニン系の色素が発色する個体は「泥軸(どろじく)」と呼ばれる。もっと色が濃くなれば「赤軸」、さらに「黒軸」となるが、そこまで色が濃い個体はオキナワギクではまだ見たことがない。

 オキナワギクは絶滅危惧種ではあるが、性質自体は弱いものではなく適地ではランナーを伸ばしてどんどん殖え広がる。沖縄本島ではグランドカバープランツとして殖やされてガーデンセンターで売っているくらいなので希少性や換金性も乏しく、「乱穫で」絶滅する心配はしなくて良いと思われる。

 暑さに強く、冬もビニールハウスに入れて凍らない程度に保護すれば越冬できるので、本土でも山野草業者が増殖して販売していることがある。ただ、ランナー系の移動する植物によくある事だが忌地(いやち:連作障害)が出やすい。普通のサイズの鉢に植えた場合、定期的にほぐして植え替えないといきなり全滅することがある。また日照不足にも弱い。ガンガン殖えているので安心して手抜きをしたら壊滅、というのはオキナワギクあるある話。沖縄のように庭植えで放任できる地域なら問題ないが、本土では真面目に世話しないと長生きはさせられないと思う。

 背丈の大小、花の形や色などにそこそこ個体差がある植物だが、一般人が見て一目で識別できるほどの差異ではない。そのため選別して増殖流通されている品種はほとんど無い。(過去にはあったがおそらく現存していない)

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 花色は環境によってはかなり濃く発色する系統もあるので、選別交配すれば「赤花」も作出できるだろうとは思うが、実際にやってみたという話は聞いたことがない。

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 オキナワギクは自家不和合、つまり自株の花粉では受粉できないので他株の花粉をつけなければ種子ができない。2系統以上のオキナワギクを栽培している酔狂な方はまずいないので、必然的に実生繁殖をしている方も見かけない。

 花後1ヶ月ほどすると上画像のようなタンポポ的な綿毛ができてくるが、それを採ってみると・・

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 こういう感じでほぼ全部がシイナ(不稔種子)である。たまに発芽力のある種子ができている事があるが、近くに咲いていた同属(アスター属。キク科の山野草に山ほどある)との交雑種子だったりする。余談だが、タニガワコンギク(ノコンギクの矮性系統)との交雑個体が「桃色オキナワギク」という商品名で園芸流通した事がある。

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 同時期に咲くアスター類をすべて圃場から除き、オキナワギクだけを隔離栽培して異系統間で人工交配すれば種子を得る事も可能。

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 気温15~20℃の場合、採り蒔きすると20~30日くらいで発芽してくる。

 上画像は播種後90日。

*2022年追記。播種後11ヶ月で開花した。

 植物栽培は、自分の手元で植物の生活史をじっくり見られる事も楽しみの一つ。栄養繁殖でいくらでも殖やせるような植物であっても、実生してみると色々と発見があって面白い。実生ができれば選別育種も可能。

・・とは言っても鑑賞価値だけで言えば原種デージー(イングリッシュデージー。寒冷地以外では初夏に溶けて枯れるので秋蒔き一年草扱い)のほうが上である。あちらはすでに派手な改良品種があるし「アルムの空」のような原種タイプの優良系統も流通している。あれに対抗して育種を始めたところで勝ち目は無いだろうが、誰かチャレンジするなら応援はする所存である。(協力はしない)

自生地画像はこちら。