Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Amitostigma hybrid.

Amitostigma lepidum X Ami.pinguiculum.

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オキナワチドリ大点花(冬緑性) × 中国大花チドリ(春~夏生育型)。昨年の画像と別個体。

この個体の出芽時期はオキナワチドリとほぼ同時期(個体によって差があり一斉には咲かない)だったが、出芽後にすぐ開花する大花チドリの血が入っているのでオキナワチドリよりも2ヶ月ほど早く咲いた。悪い花ではないと思うが、今一つインパクトに欠ける感じ。しいてセールスポイントを見つけるとすれば、チドリ類の端境期に咲くという点ぐらいだろうか。

遠縁交配なので半数体的な虚弱さがあって育てにくい。ほぼ不稔で、戻し交配(正・逆)しても発芽力のある種子が得られたことは無い。エノモトチドリ(イワチドリ×コアニチドリ。観賞価値が高いうえに雑種強勢で育て易く、若干は稔性もある)などと違って、栽培品として残っていくために必要な要素が欠落しているようだ。

 

Sister plant from same capsule.

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上記と同一果実からの姉妹実生。両親は同じだが、斑紋などが若干異なる。

 

seedling from other crossing.

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こちらは別の両親からの実生で、オキナワチドリ無点花 × 中国大花チドリ。

どちらかというと父親寄りの花になっている。いずれにせよ性質があまり丈夫ではないので、栽培品として残していくのは難しいと思われる。

Habenaria rhodocheila complex hybrid.

Hab.rhodocheila complex 'Small Flower'

X

(aff.militaris X (rhodocheila X other rhodocheila))

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ハベナリア・ロドケイラ種群内、4系統を使った交配個体。丈夫で分球率の高い小輪個体に、比較的花色の良い個体をかけてみた。花型はあまり良くないが、花色はまあ悪くない。

ロドケイラ系はタイなどの蘭園には常時在庫があるようだが、ほとんどの系統が高温性で日本では育てにくい。画像個体は以前に、日本でも栽培できる個体を作ろうと思って交配したもの。

が、ハベナリアは個体寿命が短く、業者が実生生産して供給しつづけない限り園芸対象として成立しえない、と気付いたので現在は育種を中止している。

まあ、理想的な環境を整えて適切に栽培管理し、必要に応じて実生(異系統と交配して近交弱勢をおこさないようにする)をすれば長期維持も不可能ではないとは思う。

しかし労力(費用)対効果を考えると「育てて疲れる植物」であることは間違いない。日本で「普通に」育てたら大部分の系統は(例外的な強健個体を除いて)同一個体を5年育て続けるのは難しいだろうし、時間をかけてコレクションしていく楽しみ方とは本質的に合わない。

ハベナリア類は開花サイズ球を購入して1回咲かせた時点で終了、「一般人には」消費的栽培しかできない植物、と考えるのが現実的でないかと思う。

*関連記事は最上段Habenariaタグをクリックしてください

Utricularia exoleta

from Okinawa island, Japan.

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ミカワタヌキモ。沖縄本島中部の保全湿地のもの。

ミカワタヌキモは沖縄県レッドデータでは絶滅危惧Ⅱ類の希少種。特に沖縄本島では湿地そのものが開発でほぼ消滅しているので、湿地性植物を見られる場所がものすごく少ない。知人から情報をもらって見に行ってきたのだが、複数の水生希少種が確認できて非常に楽しい場所だった。

・・が、希少種の自生確認!と素直に喜んでいいのかどうか判らない。酷似した外国産タヌキモの移入だった、という可能性もあるからだ。

ミカワタヌキモとされる植物は国外にも広く分布しており、DNA解析すれば複数種に分割できるのではないかとも思う。しかし外見上はどこの国のものもほとんど区別がつかない。熱帯アジアにも分布しているようで、東南アジアから輸入された熱帯魚や水草に混入していることがしばしばあるが、栄養繁殖能力がきわめて高く、環境が良好であれば1㎝くらいの断片からでも再生してくる。水草水槽などに入り込むと分枝しながらどんどん増え、アクアリストには根絶困難な雑草として迷惑がられている。そういう生命力の強い生物が野外に逸出すると、そのまま帰化してしまうことも珍しくない。

不要になった熱帯魚や水草を野外に投棄する人はどこにでもいるが、沖縄の場合は自然気温で熱帯魚が越冬繁殖してしまうので非常に悩ましい。沖縄本島では人里離れた山奥の湧水池に南米原産のグッピーが泳いでいるような状況になっているので、タヌキモ類を見つけても放流されたものではないか疑ってみる必要がある。前述の湿地は環境的に在来個体が生き残っていてもおかしくない場所ではあるのだが、DNA解析してみないと在来個体かどうか断定はできない。

管理人の経験だが、「沖縄本島中部で珍しいミミカキグサが自生していた」と言われて画像を見せてもらったら南アフリカ産のUtricularia livida(ケープタウンミミカキグサ)だった、という事例があった。まあ、そういうのは一目見れば移入種だと判るのだが、ミカワタヌキモの場合は外見からは在来個体と移入個体の見分けがつかないので困る。

ちなみにミカワタヌキモ系の外国種には、大輪花を咲かせるオオバナイトタヌキモと呼ばれる系統もある。本土で野外発見例があるようだが、そちらは花を見ればミカワタヌキモと識別可能。ミカワ型よりも観賞価値が高いので、園芸用として販売されている場合はオオバナ型が多いようだ。

Flowerpot of Okinawa.

 

By N. Kobashigawa@Okinawa pref, Japan.

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沖縄本島・壷屋の永〇窯で作られた山野草鉢。口径(鍔を入れて)105㎜、内径80㎜。描いてある魚は錦鯉のような色だが、背びれが2枚あるので沖縄産海水魚のハタかもしれない。

作者はシーサー作りの名工として知られる方だが、植木鉢の作例は他に見たことがない。某園芸家が個人的に頼んで特注で作ってもらったものだそうで、いろいろと経緯を経て、現在は管理人の手元で預かっている。

壷屋は全国レベルでも屈指の窯業地で、多種多様な作品が製造されている。が、残念なことに植木鉢だけはまったくと言ってよいほど作られていない。作家さんが気まぐれに作って限定販売することがごく稀にあるが、流通数はほぼゼロに近い。観光客がふらりと店に入って販売品を見つけることはまず無いと思う。

沖縄ではそもそも山野草栽培というジャンルが未発達で、山野草展というものが存在しない。それゆえ作家物の工芸鉢をわざわざ使う理由が無く、工芸鉢の制作リクエストがほとんどないらしい。たまに見かける植木鉢も、若い作家さんが作った窓辺ガーデニング用植木鉢だったりする。壷屋で画像のような山野草鉢を見る機会はまず無いと思われる。

植木鉢は制作が少し面倒なので、作家さん達にとっては制作に気乗りのする製品ではないらしい。特注で作ってもらおうと思っても、窯元にコネが無いとなかなか難しいようだ。

 

from 'Pottery of Ryukyu Kingdom'  published by Moromi Museum in 2013.

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参考までに琉球王国時代の植木鉢。画像は「琉球の古陶集」(諸見民芸館)からの転載。

沖縄でも王国時代には植木鉢が作られていたが、見てのとおりイメージ的にはテラコッタ製のガーデニングポット。今の感覚だと安っぽく見えるが、登り窯で薪を焚いて焼きしめて作ったもので、尋常でない手間がかかっている。なにせ当時の沖縄は水甕と下働きの女性一人が交換されるような時代で、焼き物の価値自体が今とは違う。現在であっても、当時のままの製法で復元制作したらとんでもない金額になるはずだ。

ちなみに鉢の表面に張り付けてある牡丹唐草模様は、中国の北宋時代の陶磁器に源流があるらしい。高級品を示すステータスシンボルとしてさまざまな工芸品に「写し」がおこなわれたようだ。本土でも江戸時代の楽焼鉢に同類のデザインがあるが、琉球製品と似ているのは偶然の一致ではないように思う。

furaikioku.exblog.jp

琉球王国では植木鉢は贈答用の高級陶磁器で、王府から直々に窯元に指示を出して制作させていたらしい。ソテツやカクチョウラン、仏桑花(ブッソウゲ=ハイビスカス)などを植えて薩摩藩への献上品にしていた模様。1609年の薩摩藩琉球侵攻の後に、島津家久から「琉球國ヲ賜ル謝礼トシテ」徳川家康琉球産ハイビスカスを含む品々が献上されているそうな。(「家忠日記増補」)

琉球の士族階級はこういう鉢に枝ぶりの良い盆栽ソテツや、中国から輸入された栽培菊を植えて自慢しあっていたようだ。

しかし廃藩置県後は献上品としての需要が無くなり、植木鉢の制作は完全に途絶えてしまった。屋外で実用品として使用するものなので破損しやすく、士族居住地が太平洋戦争で壊滅したこともあって植木鉢の現物はほとんど残っていない。現存するものは博物館の収蔵庫に収められているか、気合の入ったコレクターの秘蔵品になっているので骨董商などでの販売流通は皆無に近い。コレクターが死去して遺族がコレクション処分、というような場合でもなければ外部に出てこないし、売りに出てきたとしても管理人の小遣い程度で購入できる金額ではないと思われる。

Habenaria Jiaho Yellow Bird

Habenaria rhodocheila(orange) X Hab.medusa

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 ハベナリア・ロドケイラ×メデューサ。管理人交配個体。

ロドケイラ系とメデューサの交配は各国で散発的に作出されている。サンダーズリスト(ラン科植物交配登録)では、ロドケイラ×メデューサは台湾の和蘭園 (Jia Ho Orchid Nursery)がジアホー・イエロー・バードという名前で2013年に登録している。登録個体は品種名からみて花色は黄色だったと推測されるので、宮崎の業者さんが交配育成して「ひむかサギ草・黄サギ」(ロドケイラ・イエロー×メデューサ)という商品名で販売しているものに相当するのではないかと思う。

標準タイプのロドケイラ(オレンジ色)を片親に使った場合には、画像個体のようなトキ色~朱ピンク色になる。こちらのタイプは「ひむかサギ草・朱鷺(トキ)」という商品名で販売されているが、使った親の組み合わせによって花型や花色にかなりバリエーションが出てくる模様。

Habenaria Sunrise Plumes - Google 検索

Sister seedling from same capsule.f:id:amitostigma:20161008103445j:plain

こちらは上画像個体と同一果実から育成した実生姉妹だが、同じ親から生まれたと思えないほど見た目が異なる。どういう形質を美人と評価するか、洋蘭展基準と山野草展基準、花卉生産者と野生植物愛好家では意見が異なるだろう。まあ、競技として点数を競うコンテストであれば評価基準を決める必要もあるだろうが、趣味で育てるものに関しては個人の美意識にもとづいて判断すれば良いと思われる。

ちなみに耐病性が低く、分球しにくく、稔性が低くて後代の育成が難しいので栽培してもほぼ消耗品扱いになる。管理人はもう育成する予定は無い。 

*ハベナリア関連記事は最上段のHabenariaタグをクリックしてください

Lilium callosum var. flaviflorum

from Okinawa island, Japan.

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 キバナノヒメユリ。ヒメユリの黄花ではなくノヒメユリ(スゲユリ)の黄花変種。漢字で書くと「黄花の姫百合」ではなく「黄花・野姫百合」。まぎらわしいのでキバナスゲユリと呼ぶ人もいる。

 背が高くて倒伏しやすく、ススキ草原のように草丈のある植物が茂っている場所でないと生育できない。かといって植生遷移で樹木が茂ってしまうようでも生育できない。分布の中心は中国や朝鮮半島の大草原で、日本では九州と沖縄の風衝草原など、非常に限られた場所に細々と隔離分布している。母種のノヒメユリ(オレンジ色)は四国などにも見られるようだが、沖縄には黄花変種しか無い。

 自生環境が特殊なので野生では絶滅寸前で、離島などに行かなければ見ることは難しい・・と思われていたのだが、2008年に那覇市内の市街地で自生しているのが見つかって大騒ぎになった。

 その後、地元の公民館で人工増殖苗を配布して地域の人達に育ててもらう活動も始まり、地域ぐるみで保護活動がされているようだ。

 苗を配ることで野生個体の盗掘が防がれ、啓蒙活動にもなり、地域サービスとしても賞賛すべきもので、現実的に望める保護活動としてはほぼベストと言っても良い。

 が、キバナノヒメユリは個体寿命が比較的短く、ウイルス耐性も強くないので同一個体を何十年も育て続けるのは難しい。実生が容易なので交配して種子から育てれば簡単に殖やせるが、自家不和合、つまり自家受粉だと結実しない。実生更新には別系統の交配親が必要になる。ところが1株あればいいや、殖やしたければ株分けすればいい、と思っている栽培者がほとんどのようで、実生しようとせず枯れるまで漫然と育てている場合が多いように思う。偏見かもしれないが、ほとんどの方々は珍しいから栽培体験してみたい、という程度の軽い気持ちで手に入れているだけで、生育域外保全のため責任持って増殖を!などと本気で考えてはいないだろう。

 仮に複数株があっても、兄弟姉妹間で交配を続けていると近交弱勢で育ちにくくなり、稔性がどんどん下がってくる。もし本気でやろうと思うなら、DNA解析で個体間の血縁を調べ、近親交配にならないよう血統書を作りながら増殖を進めるのが望ましい。

全個体ジェノタイピング基づく生物多様性に関する研究

 10年前にはDNA解析にものすごい金額が必要で、国から予算をもらった研究者でなければ手が出せる分野ではなかった。しかし解析技術が怒涛のごとき勢いで進歩改良され、解析コストがすさまじい勢いで安くなりつつある。現在では犬や猫のブリーダーが種親の遺伝子検査をするのも常識になってきているし、潜在需要がきわめて多い分野なので企業の技術開発への力の入れっぷりもハンパない。10年後には生物全般のDNA解析が個人趣味家でも利用できる値段になっているかと思う。

 しかし仮に遺伝子解析が1000円でできるようになったとして、栽培者は自分の栽培している植物のDNA解析をするだろうか? 

 管理人は、大多数の趣味家は興味をもたないと予想している。遺伝子管理を必要としているのはブリーダーだけで、消費娯楽栽培にそんなものは必要ないからだ。野良猫の餌やりおばちゃんに猫の遺伝子解析をする理由はない。

 一般的な園芸趣味とは消費するだけの食い潰し型娯楽で、生産者からの供給があって初めて成立する。花が咲いている時だけ見て楽しみ、枯れたら捨てて新しい花を買ってくればよい。いくら枯らしても生産者が毎年新しく供給してくれるので、自分で殖やす必要がない。育てているものがどういうものなのか、という細かい知識も必須ではない。小難しいことを考える義務はないし、考えなくても楽しむことに支障はない。栽培技術が皆無の方が、切り花感覚で楽しんでいる場合も珍しくはない。

 が、キバナノヒメユリは絶滅危惧種である。イリオモテヤマネコを人工保育して猫好きおばちゃんに里子に出したが、子孫を残さずに全滅・・という状況を想像していただきたい。草と中型哺乳類では増殖難易度が異なるので同列には語れないが、イメージ的にはそういう感じである。

 まあ、本種のように生息域が保全されていて、人工増殖施設も存在している場合には、増殖して外部に配られた個体が死のうが生きようが種の存続にとっては無関係だ。皆が楽しんで、不快に思う人もいないのなら消費娯楽栽培でも文句を言う要素は何一つ無い。誰にも興味を持たれず、存在すら知られずに絶滅していくよりも、人間の遊び道具として利用価値を認められ種族が存続していくほうが良い、と管理人は思っている。(異論は認める)

 それでも、ふと考えてしまう。

 管理人を含めて、愛好家の「育てている」と称する行為には、「育てている」と胸をはって言えるほどの内容が伴っているのだろうか、と。

Cardiandra amamiohsimensis

from Amami island,Kagoshima pref., Japan.

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アマミクサアジサイ奄美大島の渓流沿いに自生する奄美固有種。

クサアジサイ属は本土から沖縄、中国南部、台湾にかけて分布する東アジア特産属。本土のクサアジサイ西表島のオオクサアジサイにはアジサイっぽい装飾花(中性花)がついているが、アマミクサアジサイは装飾花が無いのでちょっと地味。

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アップにするとなかなか美しいが、遠目で見ると花が咲いているのかどうかも判りにくい。

あまり一般受けする花でもないと思うが、近年ヤマアジサイの栽培がプチブームになってから、日本産アジサイ類をコレクションしたがる人が出てきた。本種もコレクトアイテムとして山野草業者がたまに販売していることがある。

栽培は難しくない。本土で無加温越冬させた場合は地上部が全部枯れてしまうそうだが、軽く凍結する程度までは耐え、翌春に新芽が出てきて開花もするらしい。株分けなど栄養繁殖も容易。市販されている個体は栽培下で増殖された同一クローンではないかと思うが、確証は無い。もっさりと茂って場所をとるので、複数株を探してきて交配増殖しようという気もおきない。こういうものは植物園に保存増殖をまかせておくほうが良いように思う。