Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Bletilla hybrid

Tri-Lips unknown hybrid.

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シラン系交雑種・酔白・三蝶咲き。作場の枯れ鉢の中から生えてきた自然実生だが、これと似た品種を栽培していた記憶が無い。

交雑種が親だと実生後代で形質分離し、いろいろな色や形の子供ができてくる。そのため外見的特徴から親がどれだったか推測するのは難しい。唇弁に黄色い発色があるので小白笈系の血を引いていることは間違いないが、それ以上のことは判らない。

シラン系はラン科としては例外的に鉢播き実生が容易なので、種子が飛び散るまま放置していると、こういう感じで知らないうちに新品種(笑)が生えてくることがある。

Bletilla striata 'Tri-Lips'

seedling from Nursery.

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シラン三蝶咲き。花弁が唇弁化した突然変異個体で、初めて発見された時にはマニア達が大騒ぎだった。当初は超希少品で、入手したければ業者に予約して順番待ちしなければならなかった。その後に増殖が進み、現在ではホームセンターなどにも入荷するぐらい普及品種になっている。

オリジナル個体は花の構造が変化していて花粉ができず、雌親としてしか交配に使えなかった。しかし交配後代では花粉のできる個体も出てきている。画像個体も実生個体なので花粉がある。

シランの三蝶咲きは花が固くなって花弁が開きにくくなり、つぼんだような咲き方になることが多い。なんとなくゴチャゴチャした感じで鑑賞的には今一つの感がある。

 

unknown GREX hybrid.

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こちらは某業者が育成した、三蝶咲き系の交配個体。小白笈系の血が入っているため小型になり、唇弁に黄色い色が入ってカラフルになった。花弁もかなり開くように選別育種されている。派手で造花的な印象なので山野草愛好家には好き嫌いが分かれるが、花卉園芸的にはオリジナル三蝶より見栄えが良くなっていると思う。

改良三蝶は今のところあまり流通しておらず、ブリーダーから直接購入するのが一般的な入手方法。原種シランに比べるとやや虚弱で育てにくく(と言ってもラン科としてはむしろ強健だが)増殖もシランより遅い。優良個体は数が少ないので販売数が限られ、値段も安くはない。

ちなみに三蝶咲きは優性遺伝で、どういう品種(異なる種でも)と交配しても交配実生にただちに三蝶咲きが出現する。(通常であれば実生の半分が普通花、半分が三蝶)

Peperomia jaonica

from Okinawa island, Japan.

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 サダソウ。画像個体は日陰栽培で少々徒長している。

 和名は鹿児島県佐多岬(さたみさき)で見つかったことによるという。公式な名前はサダソウだが、由来から考えてサタソウと呼ぶのが適切のように思われるし、実際にそう記載されていることもある。

(*令和2年追記。「九州の希少植物探訪Ⅰ」(2020、南方新社)によると、「土佐の植物」(1944)に「(幕末に)大隅國佐田(佐多の旧表記)岬で採集(中略)サダサウの名はこれに由来」という記載があるそうで、幕末の頃には「サダ岬」だった、あるいは記録者が地名をサダと読んだためにサダソウになった模様。ちなみに牧野富太郎博士によるタイプ標本は佐多岬産ではなく高知県戸島(へしま)産で、牧野博士はスナゴショウという名前で発表している)

 分布は四国以南だが、九州以北では稀産のようだ。沖縄本島では石灰岩地域に局地的に豊産しており、市街地近くの石灰岩の石垣に普通に生えていたりする。一方で自生地域から少し離れると一本も見つからなかったりもする。

 ペペロミア属はラン科ほどではないが種の多様性が著しいグループで、ツル性・木立性・着生下垂種に多肉塊根種までバリエーションが豊富。園芸植物としても人気があり、少し大きな園芸店であれば観葉植物コーナーに1種や2種はペペロミアが見つかる。

 本種も観葉植物になりうる素養はあるのだが、無地葉で地味なためそれほど人気のある植物ではなく、園芸流通はほとんどない。

 

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 果実のアップ。花は微細で目立たず、果実も砂粒以下の大きさで、花穂の表面に間隔をあけて並んでいる。拡大してみると黒胡椒の粒に似ていて、コショウ科であることを納得する。

 ちなみに形はコショウに似ているが味は凡庸で、若干の辛味はあるようにも思うがほぼ無味。そもそも果実が微細すぎて食用にできるほど集められない。植物体にも特記すべき風味はなく、サラダにすれば多肉質で歯ざわりは面白いと思うが、生育が遅い植物なので食用に向いていない。大量に食べた場合の食毒も不明。

Tuber of Diuris alba

seedling's new tubers.

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試験的に掘りあげてみたディウリス・アルバの球根。しなびて茶色くなっているのが昨年度の球根、白くてみずみずしいのが今年できた新球根。あまり作上がりはしていないようだが、作落ちもせず現状維持という感じ。地生蘭の中には開花すると養分を使い果たし、そのまま逝ってしまうものもあるので現状維持できるならば上出来だろう。

しかし菌依存性が高いランの場合、菌共生させずに開花させると新球根が水分だけの中身スカスカ状態になってしまい、休眠期間を乗り越えられずに腐ってしまうような種類もある。本種もそういうタイプかもしれないので、新球根が大きくなっていても次年度の生長を確認するまで信用はできない。

いずれにしても本種はほとんど分球しないようで、毎年少しずつ枯れていくので積極的に実生増殖しないと長期維持は難しそうだ。世界的に見てもほとんど流通の無い植物なので真面目に管理はしているが、鑑賞的には貧相な草だし、育てても労力対効果が乏しい感じではある。

↓ 追加記事。

Pieris koidzumiana

from Okinawa island, Japan.

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リュウキュウアセビ、植栽品。沖縄固有の低木で、本土のアセビP. japonicaの亜種とされることもある。従来は奄美大島にも分布していることになっていたが、奄美産のものは2010年にアマミアセビとして独立した。

もともと個体数が少なく、野生個体は園芸目的で採取されて絶滅したとも言われている。幸いなことに栽培が容易で、挿し木などで殖やされて庭木として大量に売られている。ある程度の耐寒性を有するため、本州南部(太平洋側)であれば庭植えで普通に育つそうだ。本土のガーデンセンターなどでも売品を見かけるそうなので、栽培下の個体数は最盛期の野生個体数よりも多いだろう。

ただ、普及しすぎて来歴が判らなくなっており、従来はアマミアセビと混同されていたこともあって希少種としての系統管理はまったくされていない。時には交雑種っぽい個体にリュウキュウアセビという名札がついていたり、交配アセビ琉球」(品種名)などというのもあるので混乱する。

植物園などで栽培保存されていることも珍しくないが、どこから採取されたどういう血統の個体か調査が進んでいない場合が多いようだ。増殖に使われた原木が何本あったのか外見的特徴だけで判断するのは難しいし、大量に栽培されていてもDNA解析してみたら全部同一クローンだった、などという事があっても驚かない。

本来であれば公的機関が系統解析して個体番号をつけて民間に配布し、官民協働で生育域外保全栽培を進めていくというのが理想ではある。

・・が、公的機関には栽培に詳しい人材がおらず、植物園の現場管理も指定管理団体に丸投げ。希少植物保全は予算を引いてくるための方便で、本音のところではゼニにならない雑草・雑木にかかわっている余裕など今の日本には無いのが実情。

民間は民間で種名識別ができない人のほうが多数派で、栽培中にラベルが入れ替わっていてもまったく気づかなかったりするので、うかつに管理を依頼できない。実生で根元に生えてきた異種交雑個体のほうを殖やして、ラベルの名前をつけて配布してしまうような趣味家も珍しくはない。

というか、これはどう見ても別種だろ!と指摘しても首をかしげているような人であっても、世間一般の基準で言うと名前を知っているだけで「植物に詳しい人」だったりする。一般人に任せるとニラとスイセンの苗を間違えて配り出す、という認識から始めないと一般普及指針は作れないのである。

現実には保全ネットワークの構築はいろいろ難しい部分が多いようだ。

*2022年追記。

・・と思っていたら管理人が知らなかっただけで、リュウキュウアセビに関してはある程度まで保全対策が進んでいる模様。そしてアマミアセビでは「普通の人」でも参加できるように創意工夫し、上記にあげた問題をすべて対策する形で官民協働の保全事業が実施された。当記事の内容が不見識だった事をお詫びする。

Bletilla hybrid

unknown grex seedling.

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シラン系実生。栽培場に放置してあった枯れ鉢から勝手に生えてきた。純粋なシランではなく小白笈系の小型種の血が混ざっていると思われる。チャボシラン(シラン×アマナラン)が親ではないかと推測しているが、正解は不明。

管理人の栽培場の近在にはシランの自生地は無いが、交雑種子がシラン自生地まで飛んでいけば、知らないうちに遺伝子汚染を引き起こす可能性があるので注意せねばならない。教科書的対応としては果実ができたら摘み取って、種子が飛散しないよう管理すべきだろう。

まあ、普通のシランのほうが栽培数ははるかに多いし、おそらく日本各地ですでに種子が栽培逸出しているだろう。野外個体があっても原生種か野良シランか、はたまた史前帰化種か、系統解析でもしてみないと判らないのが実情のような気もするが・・。

 

Viola stoloniflora

flask propagation.

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オリヅルスミレ組織培養。オリヅルスミレがどういう植物なのかは以前にも書いたし、検索すれば出てくるので今回は省略。

「組織培養している」と言うと「どうしてそんな面倒なことを?」と怪訝な顔をする方がおられる。まあ最近はオリヅルスミレも普及種になったので、枯れてもまた買えば済む。一般花卉と同様に、使い捨てにして楽しむのが一番楽ではある。

しかし管理人が初めて入手した時には、ごく一部の研究者だけが保持している幻の希少種だった。枯らしたら再入手は絶望的と言われていたので、元気に育っているうちにバックアップ苗を作っておくのは当然のことだった。本種に関してはもう予備苗を作る必要もない気がするが、万が一にそなえて今も継代培養を続けている。

フラスコに入れてしまえばウイルスや病原菌、害虫などから99%保護できる(コンタミネーション=外部からの雑菌侵入が稀にあるので100%ではないが、フラスコ数本に分散しておけば全滅はほぼ防げる)し、暑ければクーラーの下に置いて冷やしてしまえば良い。栽培者が出張で留守をしたり、病気で入院したりしても放任状態で問題ない。置き場所の温度や光量が適切であれば、1年間まったく世話しなくても元気に育ち続ける。天災で断水したり、避難生活で栽培どころではない状況になったり、管理人が被災死したとしてもフラスコが無傷なら大丈夫。いや大丈夫じゃないけども。

系統維持だけが目的なら、むしろ親株を処分してフラスコのほうを残しておいたほうが楽かもしれない。