Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Satakentia liukiuensis

in Okinawa island, Japan.

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朝の散歩時に撮影したヤエヤマヤシ。沖縄本島にて。

ポリネシア産のココヤシの木に似ているが、沖縄原産の日本固有種。まあ日本と言っても自生しているのは石垣島西表島に限られ、沖縄本島のものはすべて植栽品。

園芸店で普通に苗が売られているので、本土でも通販で買うことは可能。ただし最大樹高25mに達する大型種なので、鉢植えで本腰入れて栽培している人はあまりいないと思う。(使い捨てミニ観葉にしているのはたまに見かける)

ヤシの実というとココヤシの巨大な実を連想するが、ああいう大きな実をつけるのは例外で一般的なヤシの実はもっと小さい。デーツ(ナツメヤシの実)ぐらいの大きさか、あるいは鳥が食べられるアサイーアサイーヤシの実:ブルーベリー大)サイズが多いように思う。ヤエヤマヤシの実は本土のドングリに似た形と大きさで、芽生えたばかりの実生だと小さくて卓上にも置ける。大きくなったら困るが。

余談だが、沖縄ではドングリの木は原生林の奥にしか生えておらず、地面に落ちるとすぐにリュウキュウイノシシが食べてしまうので人間の目に触れることはほとんど無い。沖縄の小学生にアンケートしてみたら、学校教材以外ではドングリというものを見たことが無い子が大部分だったと聞いている。

Bletilla ’Coerulea’

Bletilla striata 'Murasaki-shikibu'

wild correct in Japan.

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シラン「紫式部」。俗に「青花シラン」と呼ばれる野生選別の色彩変異個体。発見当時は新色発見として大騒ぎになり、バブルの頃でもあったので恐ろしい値段がついた。その後は増殖が進んで価格も下がり、今では誰でも買えるようになっている。

青花系の原種個体は数系統見つかっているが、「紫式部」以外はまだ増殖が進んでおらず入手するのは易しくない。

ちなみに「紫式部」の色彩変異は劣性遺伝で、他の個体と交配すると子供は標準花になるが、孫世代で再出現する。

 

Bletilla unknown hybrid.1

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こちらは正体不明のシラン系交配種。業者の実生品だが、交配親は公開されていない。草丈が原種シランよりもやや小さく、小白笈系の血が混じっていることが推測される。しかし花だけ見ると「紫式部」とほとんど区別がつかない。

 

Bletilla unknown hybrid.2

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こちらは「青花シラン」という商品名で売っていた個体。純粋なシランではないようだが、草姿などはシランに酷似しており慣れないとほぼ見分けがつかない。海外のサイトではこの系統が「紫式部」として紹介されている事例を散見する。

一見したところ紫式部と似たようなものに見えるが、遺伝子的には完全な別物。この個体は普通よりほんの少しだけ青みのある系統と、色素の薄い系統の交雑種であるようで、実生するとほとんど白に近い花から標準花に近い花まで分離してくる。「紫式部」と交配すると子供はすべて標準花になる。

 

Bletilla unknown hybrid.3

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こちらは「姫青花シラン」という商品名で販売されていた個体。

原種シランよりも小型で、小白笈系の血が強く表れているようだ。花だけ見ると「青花シラン」とほとんど区別がつかない。

こういう識別困難な複数血統が、交配記録のついていない状態で大量に販売流通している。時には明らかに交雑種と思われる個体が「シラン」という名札で売られていたりもする。さらにシラン系は虫媒でできた種子が散って勝手に発芽してくることがよくあるので、一般趣味家の庭先で次々と交雑が進行して知らないうちに新品種が生えてくることすらある。これでは品種整理しろと言うほうが無理だろう。

家庭園芸では、綺麗で育てやすければ血統などどうでも良い話ではあるのだが、雑種が無頓着に「シランです」と言って売られていても誰も気にしていない状況は少々悩ましい。今のところ交雑種が栽培逸出して問題になった事例は聞いたことが無いが、シランの自生地に種子が飛んだりすれば遺伝子汚染をひきおこす可能性は否定できない。外来種として、本来もっと取扱いに慎重になるべき植物かとも思うのだが・・

 

Plectranthus ornatus?

from Africa.

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プレクトランサスsp。沖縄本島植栽。Plectranthus ornatus、P. neochilus、P.caninus などの学名で検索すると似た画像が出てくるが、識別点がよく判らず管理人の知識では正確に種名同定できない。

霜に当てると枯れるので本土ではあまり栽培されていないようだが、沖縄では屋外で放任栽培が可能で広く普及している。30年ぐらい前に誰かが沖縄に持ち込んだらしいが、来歴は定かでない。温度さえ保てればきわめて強健で、挿し木で簡単に殖やせるため、手渡しで人から人に広まってきた模様。

・・でまあ、普及するのは良いのだが、その過程で名称が混乱しまくっている。沖縄では本種はボルトジンユ(ポルトジンユ)、またはマンジェリコンと呼ばれているが、類似種のP. amboinicus? (か何かよく判らないが)本種とよく似た植物もいくつか栽培されていて、そちらもボルトジンユ、あるいはマンジェリコンと呼ばれている。どうも複数種が混同された状態で同時に広まっているらしい。

もともとは名前ラベルなど存在していなかったのだが、最近は口承名がそのまま名札に書かれて売られるようになり、間違った名前だったとしても修正困難になっている。というか、どれがどの植物の本来の呼び名だったのか判らなくなっている。(多数決で決めると、画像の種類がボルトジンユという事になるようである)

ボルトジンユという名前にしても何語なのか不明。こういうものは南米移民が里帰りの時に持ち込んだケースが多いので、ブラジル(ポルトガル語)経由かと推定したが、調べてもよく判らない。マンジェリコンはポルトガル語のManjericão(バジリコ)かとも思うが、だとしても名前と実物が一致していない気がする。

沖縄では薬用植物として糖尿病に効くとか、高血圧に良いとかまことしやかに語られているが、実際に効いた事例があったとしても使用植物がどの種類で、生産ロットがどういうものだったか定かではない。ネットで薬用紹介の解説を見ても学名がバジリコのものだったり、原産地が南米になっていたり、沖縄に自生している野草だと言っていたり、情報の裏をとっていない事が一目で判るような内容のサイトが散見される。

毒性はほとんど無い(というか苦くて大量に摂取できない)ようなのでアマメシバ問題のような健康被害は今のところ報告されていないようだが、効能に関しては伝言ゲームで噂に尾鰭がついているような気もする。

Sweets made from Benincasa hispida

traditional sweets of Ryukyu kingdom, Okinawa.

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琉球銘菓「冬瓜漬」。ウリ科のトウガンの実を黒糖蜜で煮込んだお菓子。

トウガン:http://www.dee-okinawa.com/topics/2012/04/10/tougan07.jpg

上記リンクの画像はオキナワトウガンと呼ばれる系統で、実の表面に白い粉がふかず光沢があるのが特徴。

日本では一般的にトウガンは野菜として利用されているが、中国文化圏ではトウガンを砂糖漬けにしてお菓子にもする。冬瓜漬は琉球王朝時代に中国文化の流入により作られるようになったようだが、インドカレーと日本のカレーが別物であるように、似て非なる食べ物に分化している。

トウガンはウリ科特有の青臭さがあるので普通に砂糖で煮ただけだと美味しくならないが、このお菓子は秘伝の製法で野菜臭さを感じない仕上がりになっている。作るのがものすごく面倒だそうで、現在も作っているのは老舗の菓子舗一軒だけ。脂肪分ゼロなので若い頃には美味しいと思わなかったが、年寄りになってからは大好物。

ちなみにトウガン(冬瓜)という名前は「夏に収穫した果実が冬まで保存できるから」というのが定説。本当に冬まで持つのかやってみた実験があった。

www.dee-okinawa.com

熱帯植物なので、冷蔵庫に入れたものは凍死してミイラになった模様。

Deutzia naseana var. amanoi

from Okinawa island, Japan.

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オキナワヒメウツギ。オオシマウツギの亜種の一つで、沖縄本島特産の極珍木。

観賞価値は高く、栽培・増殖も難しくないのだが見た目の珍奇さに乏しく、大量販売されている本土産のヒメウツギD.gracilisとの差別化が難しい。そのため本種をわざわざ増殖している業者はいないようだ。沖縄本島では稀に苗が販売されているが、流通量は非常に少ない。

 

 追記。平成30年(2018年)に「種の保存法」によって国内希少動植物種に指定され、商業流通や苗の譲渡が禁止された。ものすごく簡単に殖やせて育てられもする植物でありながら、真面目に殖やそうとする人間は誰もおらず、山盗り株のみが流通していた結果である。

Bletundina 'Miyako-shirayuki'

Bletilla striata X Arundina bambsifolia(graminifolia)

propagate by Mr.Y.U@Miyazaki pref., Japan.

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ナリヤシラン「都白雪」。宮崎の業者さんの作出品で、シランとナリヤランの交配種。

シランの属間交配種と言われるものの中には、単為発生由来と思われる非交雑個体が混じっていることがある。しかしこの個体の草姿や耐寒性は両親の中間型で、交配が成立しているとみてほぼ間違いない。(ちなみに過去にナリヤシランの名前でシランに似た植物が流通した時期があり、そちらはアマナシランが誤記されて販売されたものと思われる。)

都シリーズとして赤系「都紅」や黄色系「都若菜」なども作出されているが、いずれも適当な親を掛け合わせて作れるような品種ではなく、色彩的な完成度が高い。黄色系はシランではなく黄花小白笈系が片親だろうが、どういう親を使ったのか交配センスに感服する。ただ、ナリヤランの花持ちの悪さを引き継いでいるのが少々惜しまれる。

シラン類の属内交配種には稔性があるが、この交配はほぼ不稔になるようだ。花粉塊は痕跡程度で、シランの花粉をつけてみたが果実は膨らんでこなかった。

分子系統解析の結果を見るとシランとナリヤランはかなり遠縁のようで、交配種ができていることがそもそも非常識ではある。

PubMed Central, Fig 1: PLoS One. 2015; 10(8): e0132777. Published online 2015 Aug 5. doi: 10.1371/journal.pone.0132777

Bidens pilosa var. radiata

from Tropic America. in Okinawa island.

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タチアワユキセンダングサコセンダングサ亜種群の中で、特に花弁の大きいタイプ。オオバナセンダングサともいう。沖縄では最もありふれた雑草の一つで、空き地や荒れ地があれば所かまわず生えまくっている。

もともとは熱帯アメリカ産で、観賞用に持ち込まれたものが野生化したというのが定説。が、種子はいわゆる「ひっつき虫」で、いろいろなものに付着して遠くに運ばれる。もしかしたら米軍物資に・・いえ何でもありません何か言いました?

稀に見事な斑入り個体などもあって栽培欲をそそられる。が、残念なことに個体寿命が短く、開花すると弱って枯れてしまうことが多いので栽培には向いていない。定期的に刈り込んで新規に萌芽させ、さし芽などでバックアップ苗を作っておけば長期維持も不可能ではないだろうが、そこまで手間をかけるぐらいならもっと珍しい草を育てるのが普通だろう。

ちなみに新芽は食用にでき、キク科特有の香気があって珍味。ゆでたものには少々癖があるが、天麩羅などにすればたいていの人が美味しく食べられると思う。まあ空き地の雑草なので食用としてはイメージ的に難があり、おそうざい屋のメニューになっている例も無いではないが一般的な食品ではない。

一方、最近になって沖縄県宮古島では本種を畑で栽培し、「宮古ビデンス・ピローサ」という商品名で健康食品に加工して売り出している。もともと荒地に生える雑草なので病虫害をほとんど気にする必要がなく、無農薬・無化学肥料で育ち、温帯域では育たないので本土農家と競合する心配も無い。誰も見向きもしなかった雑草が村おこし用の商品作物になるとは、その手があったか!という感じである。

・・まあ、健康食品としてどの程度の効能が期待できるかはちょっとアレな気もするが、無農薬有機栽培だし、地元の民宿で天麩羅にしたりして供するのであれば素晴らしい素材になりえる気がする。