Arundina hybrid

Aru.chinensis form X graminifolia alba.

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ナリヤラン「雲南省矮性」×小型系統純白。

親個体については過去記事参照。

この個体はどちらかというと母親似。淡色×純白の実生のためか、セミアルバと言っても良い色調になった。

「ナリヤラン」は原産地が違うと著しい差異が認められることが珍しくない。系統ごとに草丈、花の大きさや色形・耐寒性・繁殖率・栽培難易度などが激しく異なり、学者によっては別種として学名をつけている場合もある。形態的にgraminifoliaの範疇であっても、別種とは言わないまでも亜種扱いで良いのでは、と思うような個体群が色々とあって、分類学的に細分と統合が繰り返されている。実物を見ないで文献だけ調べても、何が何だかよく判らない。

花命が短いため園芸的にはあまり重要視されていないランなので、地域変異をコレクションしたり交配育種したりしている人はほとんどいない。地域変異に関する資料は少なく、属の全容が混沌としている。

「ナリヤランの栽培は…」とか解説しているサイトは数多くあるが、その記述は多くの場合、特定の個体群(の中の一個体)を育てた経験談(あるいは実際には栽培しておらず、どこかから転載しているだけ)にすぎないことに注意していただきたい。本気で踏み込むならば、広義の「ナリヤラン」の栽培は単純に語れるようなものではない、とだけ申し上げておく。

Selaginella lutchuensis

in habitat. Okinawa island, Japan.

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ヒメムカデクラマゴケ。沖縄本島中部にて。

コケという名前だが、シダの一種。国産種で言うとイワヒバやカタヒバと同属だが、ものすごく小型で目立たない。分布域は鹿児島県南部以南(ネットでは八丈島にも分布しているという情報があるが、国内移入種か自然分布か不明)実質的に琉球列島固有と言っても良い植物なので、もっと注目されても良いような気がするが、生えていても盗掘されるどころか、存在に気づいてもらえないぐらい影が薄い。ほとんどの人にとっては「名もないコケ」の一つにすぎないのではあるまいか。

外国産のクラマゴケ類には観葉植物(セラジネラorセラギネラ)として販売普及している種類がいくつもあるし、近年ではインドネシアあたりの大型種がテラリウム栽培用として導入されてもいるが、本種は栽培している人をほとんど見かけない。よく見ればそれなりに魅力的な植物ではあるのだが、小型で耐久力が乏しく、他種に比べて栽培が非常に面倒くさいのが園芸対象としては致命的である。

イワヒバと違って植物体が乾燥するとあっさり死んでしまい、二度と復活しない。それゆえ栽培時には表土を絶対乾かさぬよう注意せねばならない。一方で表土に密着しているので過湿にすると簡単に腐って全滅する。それゆえ湿度は十分に、なおかつ適度な通風を保って蒸れぬよう注意し…と、繊細な地生蘭を扱うかのような管理が必要になる。

そこまで手間をかけるなら、もっと観賞価値の高い植物はいくらでもある。苦労して育てあげたとしても地味な「コケ」にすぎないので誰も褒めてはくれない。まあ、よほどの物好きでなければ途中で育て続ける気力が尽きて終了だろう。こういうものは栽培しようと思うのが間違いで、野外でルーペで見て観察するに留めておいたほうが賢いのではないかと思われる。

Chloraea chrysantha in flask

seedlings

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クロラエア・クリサンタの無菌実生苗。気温が下がってきて夏期休眠から目覚めた。親個体については過去記事参照。

栽培・繁殖に関するデータはしっかり収集できたが、結論としてはこれも(管理人の基準では)栽培不可能種である。ネジバナのように短命で、実生増殖しないと維持が難しいランだからだ。だったら実生しようと口で言うのは簡単だが、別血統の入手が至難なので近交弱勢の壁を越えるのは容易でない。

まあ、Chileflora社から10年に一度くらいリリースされる現地採取種子を何度も輸入して、多数の血統から構成された繁殖個体群を立ち上げ、血統を記録しながら定期的かつ計画的に交配し実生更新していく…というところまでやるなら継続的に維持することも可能ではあろう。しかし、5年に一度しか咲かない、咲いたら高率で枯れる、観賞価値もいまいち…という植物をそこまでして維持したいと思う栽培家はいない。(断定) ガチで取り組む気概が無く、一株だけのお気軽栽培で満足していれば長期的に見れば消費栽培しかできない。

思うに、栄養繁殖だけで普通に維持できるようなランならば、バイオ技術が存在しない時代から園芸化が進められ、すでに古典園芸化しているはずなのだ。さらにバイオ増殖が一般化してからも園芸化されていないランは、山採り流通・消費栽培の段階から先に進めるには労力がかかりすぎる、つまり園芸普及させる上で何か致命的な問題がある植物だと考えたほうが良い。そういうものにあえて手を出すのは何もわかっていない馬鹿か、あるいは悪人か狂人であろう。(管理人含む)

ウチョウランエビネの栽培にしても、業者の実生増殖による量産体制(裏を返せば、興味を持つ人が数多く現れたことによる、増殖業が成り立つほどの継続した大量消費活動)が成立するまでは山盗り消費栽培の代表例であり、自然愛好家から憎悪されている趣味だった。ウチョウランエビネの園芸化は業者実生による飽和供給・ウイルス未感染苗への入れ替え更新がなければ不可能だった。もし栄養繁殖だけで維持を試みていたとしたら、流通量が乱穫消費に追いつかず、野生個体は趣味家にすべて食いつぶされて消滅していただろう。増殖業者が現れなかったら今頃は国内希少種(販売禁止)に指定されて、栽培対象にできなくなっていたかもしれない。

昭和時代の野生ラン趣味家なら絶対に野生植物の乱穫消費に加担しているはずだが、その頃の話は黒歴史として誰もが黙して語らない若い人達は、当時の趣味家がやらかした壊滅的な無駄栽培について、古老から聞き出しておいたほうが良いと思う。今おこなわれている山取り輸入栽培を考える時、反面教師になるはずだから。

いずれにしても営利生産に不向きなランは、個人栽培でどれほど見事に育てても、いくら殖やしても最終的には「後継者がおらず、何一つ残らなかった」という結果になってしまうことが避けられないのではあるまいか。もしそうだとすれば、それは大局的に見ると「栽培できない」のではないかと思う。

ダイサギソウは栽培不可能(異論は認めない)

Habenaria dentata ’Hakuho-zhishi'(White Phoenix)

from Okinawa island, Japan.

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ダイサギソウ「白鳳獅子」系。沖縄本島で見つかった変異系統。亡き師匠が発見者から譲り受けた個体がオリジンだそうで、管理人は師匠から種子を分けてもらって無菌培養で育成、その後も実生で定期的に継代しながら30年ほど育て続けている。

サギソウの変異品種「飛翔」と同様、側愕片が花弁化している系統で、山野草用語では「獅子咲き」と呼ばれている。系統名は管理人の師匠が命名したもので、ダイサギソウの台湾名「白鳳蘭」の獅子咲き系統という意味だと聞いた記憶がある。

変異の遺伝様式も「飛翔」と同じく優性遺伝で、他種のハベナリアと交雑した場合でも実生に獅子咲きが出現するので、交配親としても興味深い。

 

left:'Hakuho-zhishi'

right:Normal frower from Kyusyu island, Japan.

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左が「白鳳獅子」、右が鹿児島産の日本型標準花。ちなみにダイサギソウの花型は産出国によってかなり違いがある。日本本土から四国・九州までのダイサギソウはほぼ同一で混ぜてしまったら識別できないが、台湾以南の海外産ダイサギソウは花型だけで国産と見分けがつく。

沖縄産は外見的には本土産と同じだが、生育適温や開花期が異なるので栽培上は本土産と大幅に異なる管理が必要になる。さらに熱帯アジア産ともなれば本土産とは別種と考えたほうが良いほど性質が異なっているので、はっきり言って「初見殺し」である。産地不明のダイサギソウは、どれほど安くても初心者は入手すべきではない。

 

seedling

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「白鳳獅子」系実生、2018年フラスコ出し初花。大部分はまだ未開花。

ダイサギソウは株が老化してくると分球しなくなり、ウイルス耐性も低いので長期維持は難しい。本土産個体を20年以上育てているという方もおられるようなので、育て方によってはそれなりに長生きすることもあるようだが、管理人の栽培だとせいぜい10年ぐらいしか持たない。安全率を考えて5年に一度くらいは実生し、常に3世代くらい同時に育て、古くなってウイルスに感染した個体を若い個体と入れ替えながら維持している。

ダイサギソウは近交弱勢の激しいハベナリア属としては例外的に、一株だけで自家結実して無交配でも勝手に種子ができてしまう性質をもつ。そのため系統維持する場合に、交配親として多数の個体を維持しつづける必要が無い。また無菌培養が容易だが、鉢蒔きでもネジバナの次くらいに実生発芽率が良い。それゆえ日本で入手可能なハベナリアの中では、最も系統維持しやすい種類の一つである。

 

seedling

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実生初花。

希少な系統なので、自分一人で育てていて絶種させてはいけないと思い、殖やした苗は積極的に草友に譲ることにした。とはいっても栽培が易しいとは言い難い草なので、渡す相手はそれなりに選ばせてもらうことにし、植物園などにも渡しておいた。入手してからの20年で、のべ100人ほどに配っただろうか。まあ全員が栽培に成功することは期待していなかったが、3人ぐらい真面目に維持してくれる人がいれば、絶種の危険は大幅に減るだろうという目論見である。「この草は実生更新が必須ですから、必ず実生を試みてください」と全員に言い添えるのも忘れなかった。

結果から言うと維持してくれた方は一人もいなかった。植物園は初年度に栽培を失敗した。ある程度の年月、栽培できていた方は少なからずいたのだが、真面目に実生増殖まで試みた方は皆無だった。無菌培養技術のある方も、漫然と育てるだけで播種しようとはしなかった。追加配布を中止して10年、現在では配布した全個体が消滅しているようだ。

まあ、思うところは色々あるが語るのはやめておく。判ったことは、自分がいくら一所懸命に殖やしても、維持する事に興味のない趣味家が一代限りで全部食いつぶしてしまい、最後には何も残らないという冷徹な現実だった。結論としてはダイサギソウは個人がある程度の年月、保持していくことは不可能ではないが、世代を超えて栽培下で残していくことはできない。そういうものは管理人の基準では栽培不可能種である。この結論に対して異論を認めるつもりはない。

Aster asa-grayi

in habitat, Okinawa island, Japan.

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イソノギク。奄美大島沖永良部島沖縄本島に分布する。海岸の岩場で見られるが、自然海岸が破壊されつくした沖縄本島では、まとまった個体数が見られるのは天然記念物指定の景勝地、万座毛の風衝植生地域ぐらいしか無い。多年草ではあるが短命で、自然状態だと開花後に高率で枯れる。基本的には種子で個体更新しながら存続している植物。

自家不和合なので、1株だけになってしまうと繁殖できずに絶えてしまう。画像個体は保護区域外に数株だけ残っている小群落だが、いずれ消滅してしまうのではないかと危惧している。

栽培自体は難しくないのだが、親株は老化するとあっさり枯れてしまうので、さし芽などで常に新しい苗を育てておかなければ維持できない。実生も可能だが、近親交配を続けると弱体化するため、持続的に実生更新するにはある程度の個体数が必要になる。また、交雑しやすいので近縁のアスター属と一緒に栽培していると簡単に雑種ができ、そちらのほうが強健なので純血個体を駆逐して入れ替わってしまう。採種母株は隔離栽培が必要。

野外から連れてきて遊びで一時的に付き合うのは簡単だが、本気で栽培維持していこうとすればものすごく手間がかかる。こういうものは園芸的にはむしろ栽培不可能種と考えるべきだと思う。

Juniperus taxifolia var. lutchuensis

from Okinawa island.

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管理人宅植栽、オキナワハイネズ雌木・・だと思うが、本土産のハイネズと酷似しており、正直なところ同定には自信が無い。

20年以上前に沖縄本島北部の海岸に自生していた個体から果実を採ってきて、自宅で実生育成したもの。なので自生系統だと思うのだが、親株が野外逸出したハイネズだった、という可能性も無いとは言えないので断定は避けておく。間違っていたらご指摘いただきたい。

オキナワハイネズは、針葉樹がほとんど無い沖縄において例外的に自生するヒノキ科ビャクシン属の低木。海岸の岩場などに生え、横に這うように伸びて背が高くならない。グランドカバー樹木として秀逸なので、沖縄では造園業者などが増殖苗を庭園に植栽していることがあるが、全国的に見るとハイネズのほうが販売流通量が多いようだ。

沖縄ではそれほど珍しい樹木ではなかったらしいが、沖縄本島では開発によって自然海岸がどんどん消失し、残っていたオキナワハイネズも盆栽素材として掘りとられたりして無くなってしまった。周辺の離島では普通に見られる場所もあるらしいが、沖縄本島では野生個体は探してもほぼ見つけられない。ごく稀に、人が近寄れない断崖に1本だけポツリと生えているような事もあるが、ほぼ絶滅状態と言って良いのではないかと思う。寂しいことではある。

ハベナリアを栽培できない理由

Habenaria medusa from seed.

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ハベナリア・メドゥーサ(ミリオトリカ)。管理人実生個体。初めて入手したのは15年ほど前になるだろうか。それ以来実生で殖やしながら育て続けてきたが、結論としては自分には栽培不可能な植物だった。

まず第一に、低温になると球根が腐りやすく、ちょっと油断すると簡単に全滅する。最低温度を20℃以上に保てば腐る確率は大幅に減るが、わが家には洋蘭用の高温温室などという上等なものは無い。結局ハベナリアだけのために室内温室にヒーターを入れて管理することになった。

完全に休眠したあとの球根であれば、乾燥させると5℃くらいまでは耐えるようになる。その状態で販売されている球根を入手すると、当地ならば無加温でも越冬できる。それで最初は加温がそれほど必要ないと誤解してしまった。その年の冬に葉が枯れきらないうちに温度が下がったら、新球根ごと腐って絶望することになった。結局のところ、いつ頃からどうやって乾かして休眠に移行させるか?などと工夫するのではなく、気温が下がってきたらただちに温室に入れ、生長適温域を維持しつづける、が最適解であった。

安定して越冬させられるようになったと思ったら、次の試練が耐病性である。葉が軟質で腐りやすく、雨避けや消毒は必須。加えてウイルス耐性が春咲きエビネ並みであった。「すぐ腐るうえに分球率の低い野生系統のウチョウランが、エビネ並みのウイルス耐性だったら」という状況を考えていただきたい。まあ、理想的な環境の温室でのびのびと育って体力充実、アブラムシなどの飛来もシャットアウトしているというような素晴らしい栽培場であれば長期栽培も可能だろう。しかし管理人の手抜き栽培ではまともな病害対策ができていないので、同一個体を10年育てることは難しい。

やむなく実生更新で新しい苗を育てて、入れ替えながら栽培継続してきたが、これがまた無理があった。近交弱勢が激しいのでセルフ実生ではまともな苗ができない。別株を入手し、交配して実生を作るのは難しくないが、それ以降も実生を継続しようとするなら定期的に交配用の親株を購入せねばならない。それなら「枯れたらまた買う」で良いのではないか、という話になる。

二度と入荷しないような珍種であれば、せっせと実生して栽培維持する意味も無いとは言わない。しかし永続的に維持するためには、近親交配を表面化させずに存続できるだけの個体数が必要になる。個人の限られた栽培数で実生更新を続ければ、遅かれ早かれ近交弱勢をおこして滅びる。結局のところ、栄養繁殖だけでは長期維持できないハベナリアの場合、自分一人で実生していても大局的には無駄な仕事であろう。

某所でそういうことを話したら、「何言ってるんだ、ハベナリアなんかそれほど難しいものではない」という反論があった。環境が整っていて、病気を発生させず、枯らしたり腐らせたりすることもない名人であれば、きっと難しくはないのだろう。5年や10年で枯らすような下手糞が栽培について語るな、と言われれば黙るしかない。

残念ながら管理人の腕ではとうてい無理である。それが15年で得た結論であった。もう疲れたので実生更新はしない。画像個体が枯れたら終了にしようと思っている。