in Japan Grand Prix International Orchid Festival 2018, Tokyo.

Amitostigma lepidum 'Zuisen'

cultivated by Takahiro Yagame, Saitama pref. Japan.

flowerpot make by Syunji Mituhashi, Tokyo,Japan.

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知人による2018年、東京ドーム蘭展からのレポート。(掲載許可済)

 

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Yomiuri News, 18/02/2018.

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読売新聞2018年2月18日朝刊より引用。

品種名は泡盛の銘柄「瑞泉」からの借用だそうだ。命名当初は瑞泉酒造に遠慮して文字を変え「瑞仙」としていたそうだが、増殖流通過程でいつのまにか「瑞泉」に戻ってしまっている模様。ネットオークションなどで稀に見かけるが、「瑞泉」となっていることが多い。

亡き師匠が20年ほど前に沖縄本島今帰仁村の大点花の坪(現在は植生遷移で消滅)で発見した個体。その後、複数の栽培者によって栽培増殖され今に至る。この新聞記事は師匠の墓前に供えたいと思う。

ちなみに使用されている植木鉢は東京三鷹市「欅窯」作成の雪割草鉢。沖縄の壺屋焼にこういう趣のある鉢があったら申し分がないのだがなあ・・

Post Cards

Old postcard by Imperial Japan Orchid Club, before WW2.

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蘭花絵葉書、某蘭展にて。1917年(大正6年)に発足した帝国愛蘭会が発行したもの。当時は温室を作ってランを栽培できるのは皇族か貴族、大富豪ぐらいだった。10代の学生さんが珍種の蘭を地球の裏側から通信販売で買える昨今から見れば、華族様の栽培品といえど驚くような部分はどこにも無い。もしかしたら、そこらへんの花屋で売っている鉢植えの洋蘭のほうが上等かもしれない。

が、栽培面積に関しては、さすがに今の庶民とは比較にならないようだ。帝国愛蘭会の初代会長、大隈重信の自宅の温室が記録写真として残っているが、自宅の温室内で晩餐会が開ける人が今の日本に何人いるだろうか?(ちなみに大温室は庭園の一角にすぎず、これ以外に広大な盆栽栽培場や花壇がある。言うまでもなくメインの邸宅も敷地内にドーンと建っている)

www.shuminoengei.jp

むろん、こんな規模を自分一人で管理できるはずもない。栽培品は庭師や下男に世話させて、花が咲いたら報告させ貴婦人を招いてお茶会である。ラン栽培というのは、本来はこういうふうに管理を外部発注して、自分の労力は最小限に留めるようにするのが理想ではある。

仕事や家庭のある普通の人が、放任栽培できないデリケートな種類(地生蘭の大部分)を自分一人で世話を続けていると、どこかで体力的に続けられなくなって心が折れてしまう。(着生蘭は吊るしておくだけで育つ場合があるので、環境によっては長期維持も可能。地生蘭の場合も、実際には栽培者の心が折れる前にランが死んで、それで終わりになっているほうが多いと思われる)

貧乏人が「管理人つき温室レンタル」や「無菌播種・種苗生産委託」を利用することなく自分だけで系統保存しようとしたら、難物のランであればバックアップ苗まで育てている余力はほとんど無いだろう。その結果として高率で「マンパワー不足による絶種」が発生してくる。根本的な解決策の無い状況のまま、枯らしたら業者から再購入して命の消費を続けていくか。あるいは二度と絶種させぬよう尋常でない労力を注入することにして、蘭の奴隷になりさがって一生を終えるか。

一般的な園芸であればそこまで深く考える必要はない。業者に増殖生産を丸投げし、自分は花だけ楽しんで、気が済んだら枯らしてしまえば良い。「育てる苦痛」を楽しめる変人 選ばれた趣味人でなければ、ランのような面倒な植物の長期栽培など、最初から考えないほうが良い。だが、その植物が生産品ではなく野生採取の場合、生産品と同様に消費栽培してしまうのはいかがなものか。

そう考えると、育てるのに苦労する野生植物は、維持する労力を金の力で解決できる貴族様だけが手を出してよい園芸趣味なのかもしれない。まあ独身貴族が趣味にすべてをつっこんで一生を終える・・そういうのもまた人生なのかもしれないが。

Dicranopteris linearis

in habitat. Okinawa island, Japan.

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コシダ。北限は福島県となっているが、どちらかというと南方系のシダ。亜熱帯地域に広く分布する。

沖縄本島では北部の山地で大きな群落が普通に見られる。葉が密生して地面を覆い尽くし、枯れた葉や茎は分解されにくく地面に堆積して植生遷移を阻害する。そのため崩落地や伐採跡に生えてくるパイオニア植物的なシダでありながら、長期間にわたってシダ単独群落のまま継続する。生物多様性という視点からは厄介者扱いされる場合もあるようだ。

大型で、地下茎が長く伸びて広がるため鉢植えには不向き。というか移植に弱く、根を傷つけるとすぐに脱水状態になって枯れてしまうため、採取して栽培するのはきわめて難しい。まあ、シダマニアの中にはごく若い小株を丁寧にまるごと掘ってきて、湿度を保持しながら時間をかけて養生して鉢植えに仕立てている人もいないわけではない。しかし大型で株分けできないし珍種でもないので、育てていても羨ましがられる植物では無い。シダ仲間から尊敬の念を込めて「馬鹿の極み(褒め言葉)」と称えられるのみである。

 

Basket made from fern stem. Okinawan traditional craft.

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コシダの葉柄は環境によっては1m以上に伸び、適期に採取すれば工芸材料として籠などを編むことができる。沖縄本島では「わらび籠」と呼ばれ、今帰仁村の特産品になっていた。20年ほど前までは現地の雑貨屋などでまだ売られていたが、現在では幻の民芸品と化している。かつては農村周辺で容易に採取できたコシダが、今は山の中まで行かないと採れなくなってしまったので、編める人はいても材料を集める人がいないらしい。

なにしろ素材となる葉柄が採取できるのは真夏の酷暑の時期、しかも藪の中に入り込んで胞子と枯れ葉の粉塵まみれになりながら、素材に適した成熟度の葉柄を厳選し100本採取してこなければならない。その労力の成果として作れる籠は1個。製造数がほぼゼロになってしまったのも無理はあるまい。

www.chie-project.jp

 

コシダを素材にした籠は、かつては西日本各地で作られていたようだが、どこの地域でも作成者は絶滅に瀕しているようだ。

fnakatomi.exblog.jp

www.taketora.co.jp

リンク先は広島県の「シダ籠」、高知県の「シダ編み籠」の紹介だが、いずれもデザインが沖縄のものと酷似している。どこかにオリジナルがあって一時期に日本各地に広がったがほとんどはすでに絶え、ごく一部の地域にのみ絶滅危惧の遺存種として残っている・・という可能性を考えているのだが、資料が乏しく真相は今のところ定かではない。

Amitostigma hybrid

Amitostigma lepidum X A.keiskei

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オキナワチドリ♀×イワチドリ♂。二枚葉であることを除けば、イワチドリと大差は無い。父親似なので交配が成立していることは推察できるが、これだと見た目に新鮮味が感じられない。

この交配は親和性が低く、受粉しても途中で胚が発生停止してしまって完熟種子が得られなかった。そこで早期に採果して胚培養を開始することで(4~5果実を培養して数本程度だが)苗を得られた。しかし交雑苗は虚弱で育ちにくく、ビン出ししてもほとんどが途中で枯れてしまった。

画像個体はたまたま開花まで生き残った個体だが、性質が弱く稔性もゼロに近い。戻し交配(正・逆)でも種子ができないので、育種としてはここで行き止まりだろう。

なお、最近の分子系統解析の結果から、ヒナラン属Amitostigmaはウチョウラン属Ponerorchisに統合されたようだ。

上画像の中央からやや下、赤色の部分に集まっているのがウチョウラン、ヒナチドリ、イワチドリ、コアニチドリ、ちょっと離れてオキナワチドリ。このへんはDNAで見ると同属に区分するのはまあ妥当だろう。問題は上段オレンジの区分でミヤマモジズリと一緒になっているヒナランと、その下の水色の区分で中国産チドリ類と一緒のニョホウチドリ。ヒナランとウチョウランで交雑種が作られているので、両者は極端に遠縁ではないのだろうが同属にまとめて良いのだろうか。

新分類にもとづけばオキナワチドリの学名はPonerorchis lepida になるらしい。まあ、当ブログでは面倒くさいのでしばらくは旧学名のまま続けることにする。

Malaxis purpurea

from Okinawa island, Japan.

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沖縄本島産のオキナワヒメランという説明のもとに、知人から種子をもらったラン。無菌培養で育成して開花させた。沖縄には酷似したカンダヒメランM.kandaeというランもあると言われているが、ネットで検索してみてもオキナワとカンダは完全に混同されているようで、典型的個体というものがどういう花なのか全然わからない。両者は同種であるという説を採用する方も少なからずおられるようだ。

花基部の苞葉が大きいのがカンダヒメラン、小さいのがオキナワヒメランという説もある。その意見に従うならリンク先の西表島産の個体はカンダヒメランという事になるだろう。

irimuti.cocolog-nifty.com

 

一方、知人から栽培情報を集めたところ「枯れにくく、栄養繁殖して殖える系統」と「花が咲くと高率で枯れてしまい、栄養繁殖もしないため長期栽培が困難な系統」があるという。これらがそれぞれオキナワとカンダに相当する別種なのか、あるいは同種内での個体差なのか、そのへんは混沌としていて管理人には判断しかねる。

ちなみに今回の画像個体は後者。開花までの育成はさほど難しくないが、まったくと言ってよいほど分球しないうえに開花すると腐って枯れてしまうことが多く、少なくとも管理人には同一個体の長期維持はほぼ不可能。

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開花後に自動結実して果実が鈴成りになるため、無菌播種ができれば世代更新は可能。ただ、前述のごとく花が咲くと枯れてしまうので苦労して育てる意味はほとんどない。

栄養繁殖する系統があるとしても、どのみち栽培が簡単なランではない。観賞価値の高い植物でもないので栽培の労力対効果は著しく低いと言わざるをえない。こういうものは見かけても育てようなどとは思わずに、野に置いて眺めるだけにしておくのが賢いのではあるまいか。 

Allium pseudojaponicum

from Amami island.

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アマミラッキョウ(タマムラサキ)。奄美大島産。知人から栽培株を分けてもらって育てている。

本土のヤマラッキョウは葉が円筒状で中空だが、アマミラッキョウはニラのように葉が扁平で中実。その中間タイプのナンゴクヤマラッキョウというのもあるそうだ。これらが地域変異の範疇なのか、はたまた別種とすべきものなのか、あるいは倍数化or交雑起原なのか情報が乏しくて管理人にはよく判らない。f:id:amitostigma:20171207112254j:plain

アマミラッキョウとされる個体でも、産地によって4倍体やら雑種起原やらいろいろあるらしいがDNA鑑定でもしないと判別は難しい。画像個体は奄美大島産なのでアマミラッキョウで良いと思うのだが、同定に自信は無い。本土のヤマラッキョウの場合でも産地によって2倍体個体群、4倍体個体群、8倍体個体群があって、生育環境も湿原だったり乾燥した丘陵だったり岩場だったり同種と思えないくらい生態に違いがあるという。染色体数が違っていても外見的には酷似していて、ネット画像では識別が困難。詳しいことは学者先生におまかせしたい。

栽培については特筆すべき事も無い。ごく普通のラッキョウである。

Nervilia nipponica propagation in flask

bloom in flask > autopollination > mature seeds > autocultivation

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昨年12月に紹介した沖縄本島産ムカゴサイシンの続報。菌依存性が高く、鉢栽培は困難なのでフラスコから出さずに継代培養しているが、今年は5本が開花してそのうち1本が結実した。

鉢栽培が可能な台湾ムカゴサイシンNervilia taiwaniana の場合は人工受粉しなければ結実しない。本種も今まではフラスコ内で結実したことは無かったので、結実には交配作業が必須だと思っていた。しかし振動か何かの影響で自動受粉することもあるらしい。だがラン科の場合、自家受粉だと果実ができても無胚種子しか入っていない事がよくある。果実が膨らんでいたのには気がついたが、「想像妊娠」だと思ってそのまま放置していた。

先日、ひさしぶりにフラスコを見てみたら親株の根元に白い粒々が見えた。コンタミ(雑菌侵入)かな?と思ってよく見たらプロトコーム(菌依存段階の幼若実生)だった。どうやら有胚種子ができていて、それがこぼれて勝手に発芽していたらしい。

ムカゴサイシンは果実が急激に生長して短期間で裂開するが、少し早めに採果すると種子が未熟すぎて発芽しない。かといって様子を見ていると変色などの前兆がないまま、いきなり果実が裂開して種子が消えて無くなっている。採取にベストなタイミングは数日程度、その時期を正確に見きわめて培養を開始する必要がある。ベストな期間に採果できても種子が消毒に弱く、1果実あたりの種子量も20粒に満たないことが多いので播種の技術的難度は高い。加えて好適培地はどういう組成なのか情報が皆無。過去に何度も培養に挑戦したがことごとく失敗、入手する機会がほとんどない貴重な種子を無駄にするだけで何の成果も得られなかった。神経を使う繊細な作業を繰り返しても無駄に終わり、吸い取られていく時間と労力にメンタルをゴリゴリと削られた。ようやく数個体の実生が得られた時には、やっと培養条件を解明できた!と力が抜けたものだ。

それが今回は放置状態で勝手に発芽していて、自分が苦労した時より数多くの実生ができている。非常に複雑な気分である。

親株は結実で体力を消耗したようで、新球根は一応できてはいるものの非常に貧弱。菌共生させていない普通の鉢栽培であれば、おそらく開花結実させると衰退消滅すると思う。まったくもって栽培向きではない。

まあ、殖やして需要のある植物でもないので園芸的には無意味な話だが、こういうこともあるという報告として書きとめておく。