Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Aster asa-grayi

in habitat, Okinawa island, Japan.

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イソノギク。奄美大島沖永良部島沖縄本島に分布する。海岸の岩場で見られるが、自然海岸が破壊されつくした沖縄本島では、まとまった個体数が見られるのは天然記念物指定の景勝地、万座毛の風衝植生地域ぐらいしか無い。多年草ではあるが短命で、自然状態だと開花後に高率で枯れる。基本的には種子で個体更新しながら存続している植物。

自家不和合なので、1株だけになってしまうと繁殖できずに絶えてしまう。画像個体は保護区域外に数株だけ残っている小群落だが、いずれ消滅してしまうのではないかと危惧している。

栽培自体は難しくないのだが、親株は老化するとあっさり枯れてしまうので、さし芽などで常に新しい苗を育てておかなければ維持できない。実生も可能だが、近親交配を続けると弱体化するため、持続的に実生更新するにはある程度の個体数が必要になる。また、交雑しやすいので近縁のアスター属と一緒に栽培していると簡単に雑種ができ、そちらのほうが強健なので純血個体を駆逐して入れ替わってしまう。採種母株は隔離栽培が必要。

野外から連れてきて遊びで一時的に付き合うのは簡単だが、本気で栽培維持していこうとすればものすごく手間がかかる。こういうものは園芸的にはむしろ栽培不可能種と考えるべきだと思う。

Juniperus taxifolia var. lutchuensis

from Okinawa island.

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管理人宅植栽、オキナワハイネズ雌木・・だと思うが、本土産のハイネズと酷似しており、正直なところ同定には自信が無い。

20年以上前に沖縄本島北部の海岸に自生していた個体から果実を採ってきて、自宅で実生育成したもの。なので自生系統だと思うのだが、親株が野外逸出したハイネズだった、という可能性も無いとは言えないので断定は避けておく。間違っていたらご指摘いただきたい。

オキナワハイネズは、針葉樹がほとんど無い沖縄において例外的に自生するヒノキ科ビャクシン属の低木。海岸の岩場などに生え、横に這うように伸びて背が高くならない。グランドカバー樹木として秀逸なので、沖縄では造園業者などが増殖苗を庭園に植栽していることがあるが、全国的に見るとハイネズのほうが販売流通量が多いようだ。

沖縄ではそれほど珍しい樹木ではなかったらしいが、沖縄本島では開発によって自然海岸がどんどん消失し、残っていたオキナワハイネズも盆栽素材として掘りとられたりして無くなってしまった。周辺の離島では普通に見られる場所もあるらしいが、沖縄本島では野生個体は探してもほぼ見つけられない。ごく稀に、人が近寄れない断崖に1本だけポツリと生えているような事もあるが、ほぼ絶滅状態と言って良いのではないかと思う。寂しいことではある。

ハベナリアを栽培できない理由

Habenaria medusa from seed.

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 ハベナリア・メドゥーサ(ミリオトリカ)。管理人実生個体。初めて入手したのは15年ほど前になるだろうか。それ以来実生で殖やしながら育て続けてきたが、結論としては自分には栽培不可能な植物だった。

 まず第一に低温になると球根が腐りやすく、ちょっと油断すると簡単に全滅する。最低温度を20℃以上に保てば腐る確率は大幅に減るが、わが家には洋蘭用の高温温室などという上等なものは無い。結局ハベナリアだけのために室内温室にヒーターを入れて管理することになった。

 完全に休眠したあとの球根であれば乾燥させると5℃くらいまでは耐えるようになる。その状態で販売されている球根を入手すると当地ならば無加温でも越冬できる。それで最初は加温がそれほど必要ないと誤解してしまった。その年の冬に葉が枯れきらないうちに温度が下がったら、新球根ごと腐って絶望することになった。

 結局のところ、いつ頃からどうやって乾かして休眠に移行させるか?などと工夫するのではなく、気温が下がってきたらただちに温室に入れ生長適温域を維持しつづける、が最適解であった。

 安定して越冬させられるようになったと思ったら、次の試練が耐病性である。葉が軟質で腐りやすく雨避けや消毒は必須。加えてウイルス耐性が春咲きエビネ並みであった。「すぐ腐るうえに分球率の低い野生系統のウチョウランが、エビネ並みのウイルス耐性だったら」という状況を考えていただきたい。理想的な環境の温室でのびのびと育って体力充実、アブラムシなどの飛来もシャットアウトしているというような素晴らしい栽培場であれば長期栽培も可能だろう。しかし管理人の手抜き栽培ではまともな病害対策ができていないので、同一個体を10年育てることは難しい。

 やむなく実生更新で新しい苗を育てて入れ替えながら栽培継続してきたが、これがまた無理があった。近交弱勢が激しいのでセルフ実生ではまともな苗ができない。別株を入手し、交配して実生を作るのは難しくないが、それ以降も実生を継続しようとするなら定期的に交配用の親株を購入せねばならない。それなら「枯れたらまた買う」で良いのではないか、という話になる。

 二度と入荷しないような珍種であれば、せっせと実生して栽培維持する意味も無いとは言わない。しかし永続的に維持するためには、近親交配を表面化させずに存続できるだけの個体数が必要になる。個人の限られた栽培数で実生更新を続ければ遅かれ早かれ近交弱勢をおこして滅びる。結局のところ栄養繁殖だけでは長期維持できない地生ラン類は、自分一人で実生していても大局的には無駄な仕事になる。

 某所でそういうことを話したら「何言ってるんだ、ハベナリアなんかそれほど難しいものではない」という反論があった。環境が整っていて、病気を発生させず、枯らしたり腐らせたりすることもない名人であればきっと難しくはないのだろう。5年や10年で枯らすような下手糞が栽培について語るな、と言われれば黙るしかない。

 残念ながら管理人の腕ではとうてい無理である。それが15年で得た結論であった。もう疲れたので実生更新はしない。画像個体が枯れたら終了にしようと思っている。

*他のハベナリア関連記事は、最上部のHabenariaタグをクリックして下さい。

↓関連記事の一例

Leucas mollissima var.chinensis

from Okinawa island, Japan.

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ヤンバルツルハッカ。沖縄本島産。画像個体は管理人の作場で雑草化していた個体で、若干日照が少ないため葉が長くて色が濃い。海岸で潮風と直射光に当たっている個体は黄緑色の葉で肉厚で毛深く、別種のような印象になる。

トカラ列島以南、沖縄から八重山諸島、台湾やフィリピンにまで分布する。国内では沖縄特産と言っても大きな間違いではない気がする。

名前からするとハーブの一種に思えるが、特別な香りは無い。ツル性でもなく、マノビハッカモドキとでも呼んだほうが正しい気がする。

花はそこそこ美しい感じなので、抜いて絶やすようなことはしていない。が、しいて育てるほどのものでもない。盗掘されて売られるような草ではなく、売品として見かけたこともない。しかし検索してみると育てている方がいて、世の中には酔狂な方がおられるものだと感心したりする。まあ人の事は言えないが。

最近はレアプラントがどうの、絶滅危惧種がこうのといった話に疲れてきた。そこらへんにある「普通の」花を静かに眺めて、お前も意外と綺麗だったんだな、とぼんやり過ごすほうが良くなってきたのは年のせいだろうか。

Pectabenaria 'Unregistered' F2

(Pecteilis radiata X Habenaria linearifolia) X Hab.linearilofia 

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(サギソウ♀×オオミズトンボ♂)× オオミズトンボ♂

当ブログで2016年に紹介した栽培場で、戻し交配によって作られた交配種。

 

sister plant 1

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姉妹個体。交雑種の後代なので形質にはバラつきが見られる。

 

sister plant 2

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姉妹株その2。かなりオオミズトンボに近い。

 

F1交雑個体にはほとんど稔性が無く、十数果を交配播種してようやく3本だけ苗が得られたとの事。とはいえ(言ったら悪いが)園芸的にはかなり中途半端なもので、わざわざ栽培するほどの魅力を感じない。まあ、実験的に作ってみたという以上のものではないように思う。

↓ 2021年追記

*2022年追記。追加交配で4本目の個体が得られたそうだ。

*関連記事は最上段 Habenaria タグをクリックしてください。

Kaempferia sp.

Kaempferia sp.

Wild collect,  from Chiang Mai, Thailand.

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タイ産のショウガ科バンウコン属の不明種。知人から2年前に分与してもらった株の初花で、仮称ケンフェリア・マイクロミニ。

当ブログはラン科&沖縄植物をテーマにしており、なおかつ野生採取個体は基本的に紹介しないことにしているのだが、本種に関しては萌えざるをえなかったので例外として載せてみた。

画像の状態は花が少ししぼみかけているようで、知人の話によると最上の状態では愕や花弁(実際には花弁に見えるのは形状変化した雄蕊らしい)がもっと伸び、よりランの花に似ているという。

バンウコン属は国内では薬草として加工品が若干出回っている程度で、鉢物はほとんど売られていない。というのも花は午前中に咲いて昼過ぎにはしぼんでしまい、普通に仕事をしている人間には咲いているのを見ることさえできないからだ。今回の画像はたまたま日曜日に開花したので撮影できたが、非常に花がつきにくく次に見られる機会はいつになるのか判らない。もしかしたらこれが最初で最後かもしれない。

この属には葉に美しい地模様の入る種類がいくつかあり、ピーコックジンジャー(クジャクショウガ)の名前で観葉植物として栽培されているものもある。タイなどでは庭園のグランドカバーとして植栽されることもあるらしい。だがどの種類も葉が手のひらサイズ以上になるようで、ラン科のコリバスといい勝負ができるような小型種があるという話は検索してもまったくヒットしてこない。

調べた範囲ではKaempferia gilbertii やangustifolia に似ているが、そちらは葉長10㎝を超える植物なので、本種とは少なくとも同一視はできない気がする。正確な名前がお判りの方がいらっしゃったらご教授いただきたい。

参考:タイおよびラオスの19種のケンフェリアの比較研究

https://www.researchgate.net/publication/318152948_Chromosome_number_variation_and_polyploidy_in_19_Kaempferia_Zingiberaceae_taxa_from_Thailand_and_one_species_from_Laos_Cytogenetics_of_Kaempferia?_sg=18LpShwPQySo5mcBhUMEU0qDK11r2fhFehEed6bj3xY6L5bFE6xoQ9v-SLCDqz5XXK6XDPw9Dw

性質にコリバスのような気難かしさはないようで、耐暑性にも問題はない。沖縄であればテラリウムなどで湿度管理する必要もなく、常温常湿で普通に栽培できるようだ。冬には落葉し、細根も枯れてほとんど根茎だけになって休眠するため越冬管理も楽である。本土でも冬期に室内で保温すれば、温室のない趣味家でもおそらく栽培できると思われる。またショウガ科の常識に準じて年に2倍か、それ以上に増殖する。ただし花付きが極端に悪いので一般園芸向きとは言いがたい。ちなみに植物体をいじると、ショウガ科特有の刺激感のある香りが感じられる。

Vanda lamelata

in Orchid show, Okinawa island.

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コウトウヒスイラン。沖縄本島の某蘭展にて。

コウトウヒスイランは台湾の紅頭嶼(こうとうしょ。現在の蘭嶼(ランユー)島)に自生する翡翠蘭(バンダ属の和名)という意味。日本国内で唯一のバンダ属と言われていたが、フウランがバンダ属に編入されたのでそういう意味での希少価値は下がった。

日本国内では尖閣諸島魚釣島に自生(していた)と言われる。しかし魚釣島では1978年に緊急時の非常食として持ち込まれた2匹の山羊が野生化して爆殖。低層から中層の草木は食べつくされ、木の皮まではがされて着生木の実生更新も止まっているらしい。領有権がアレでコレで上陸できないので正確な現状は不明。ヤギの駆除もできないため状況としては相当にシビアな模様。「尖閣 ヤギ」で検索するといろいろ出てくるが、政治色濃厚なサイトが多いのでリンクは省略。

過去に漁師などが持ち帰ったと言われる尖閣産コウトウヒスイランと言われる個体が沖縄で栽培されており、ごく稀にネットオークションで売りに出て恐ろしい高値に競り上がることがある。が、その個体が確実に尖閣産であるとDNA鑑定で確定されているわけではないようだ。

台湾ではさまざまな品種が大量に園芸増殖されており、素心や4倍体大輪、赤っぽいの緑っぽいの白っぽいの、バリエーションに富んだ個体が沖縄のガーデンセンターで普通に安く売られている。国内のラン縛りで収集しているコレクターでなければ尖閣産にこだわる意味は皆無である。沖縄では庭木につけて放置していても育つので、ほぼ本土のフウランの感覚で栽培されている。