in International Orchid Festival / Japan Grand Prix, Tokyo.

monthly 'Horticulture of Japan' 04/2017

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月刊「園芸JAPAN」(エスプレス・メディア出版)2017年4月号を購入。2月に開催された東京ドーム蘭展の速報記事に、オキナワチドリが日本の蘭部門で入賞したと書いてあった。

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連載「寝ても覚めても羽蝶蘭」では、番外編として入賞者本人が書いたオキナワチドリ栽培の解説文を掲載。沖縄では参考にしづらい部分もあるが、本土の方には役に立ちそう。(全文掲載はマナー違反なので、意図的にボカシをかけた

入賞花のオキナワチドリ「渚(なぎさ)」という品種については一度も名前を聞いたことがない。知人が会場で撮影していたというので、画像を送ってもらった。(転載許可済)

Amitostigma lepidum 'Nagisa' J.G.P. First Place.

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多少は大点っぽいが、きわだった特徴は無い。どういう品種なのか調査を進めたところ、大点花の自生地で20年ほど前に採集され、選別個体と対比するための同産地・標準花サンプルとして、無銘のまま延々と栽培され続けていた個体だそうだ。今年、出展にあたって初めて個体名をつけたという。そりゃ名前を聞いたことが無いわけだ(笑)

というか出品者は選別個体も多数所有しているのに、わざわざ標準サンプルを選んで出展し、しかもしっかり作りこんで入賞させてしまうとは変態 素晴らしい栽培技術だと思う。こういう栽培者がもっと数多くいれば、オキナワチドリも安泰なのだが・・。

Zizyphus mauritiana

Indian Jujube fruits, cultivate in Okinawa island, Japan.

delicious.

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インドナツメ。インド原産の果樹で、最近になって沖縄で栽培されはじめた。生産量はまだ少ないようで、観光客の来る土産物店の高級フルーツ売り場などでしか見かけない。けっこう良い値段で売られている。

blog.goo.ne.jp

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沖縄で生産されている品種は小ぶりのプラムぐらいの大きさ。中心に種が1個あるがプラムのように薄くはなく、ピーナツを大きくしたような円筒形。

皮は薄く、洗って皮ごとサクサク食べられる。リンゴをジューシーでなめらかな舌触りにした、あるいは少し固めの洋ナシからザラザラした食感をすべて除いたような感じ。リンゴと同様に生産者によって味の当たり外れがあるようだが、おちついた甘みと、ほどよい酸味があって食べやすい。

亜熱帯果樹だが、霜に当てなければ越冬できるようだ。本土でも柑橘類の営利栽培ができる地域なら(品質はともかく)栽培可能ではあろう。沖縄であれば気候的には露地栽培でまったく問題ないはずだが、実際には鳥害が激しいのでハウス栽培しないと駄目らしい。

台湾ではインドナツメは重要な農業生産品になっているようで、品種改良も盛んに行われている模様。台湾の果実直販サイトを見ると、「薄皮優選!爆汁!清香甜蜜!幸福的滋味!」と売り手の熱気がムンムンである。味は判らないが、青リンゴと見間違えるぐらいの巨大果もあるようだ。

青棗新品種:高雄11號「珍蜜」http://www.jujuba.tw/wp-content/uploads/2015/03/IMAG7355.jpg

台湾には大害虫のミカンコミバエがいるため、果実類の日本への輸入は一部を除いて禁止されているが、今年から低温殺虫処理をする条件でインドナツメの輸入が解禁になった。

台湾産インドナツメ、日本へ輸出可能に 7年越しで実現 | 社会 | 中央社フォーカス台湾

今後は本土のスーパーなどでも見かける機会があるかもしれない。

・・ただ、沖縄産も台湾産も、販売には苦戦しそうな気がする。日本人は青い果物というものになじみが薄く、赤くないと売れゆきが悪い。真っ赤なドラゴンフルーツは味的には辛味の無いダイコンと大差ないが、外見だけでスーパーで売られるまでに定着した。一方で味覚的にはフルーツの中でも上位に属すると思われるフェイジョアホワイトサポテ(どちらも緑)は「何それ?」と言われるぐらい普及していない。まあ、緑色のイチゴが売っていたら買うか?と考えていただければ想像がつくだろうか。

インドナツメは味覚的には優良果実だと思うし、沖縄の新しい産物になってくれれば良いのだが。

Amitostigma lepidum in Orchid Show.

オキナワチドリ「紅蜻蛉」。某所の洋蘭展にて。f:id:amitostigma:20170313155900j:plain

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拝見させていただいて、少々驚いた。これを育てている方がいたのかと。

この「紅蜻蛉」という品種は、今は亡き師匠が20年ぐらい前(だったか、正確には記憶していない)頃に野生個体群から選別命名したもので、自生地はすでに消滅している。

師匠が増殖して本土の数名の趣味家に送ったようだが、見た目がやや地味で人気が低かったこと、性質があまり丈夫ではなく限られた人しか育てられなかったこと、などの理由からほとんど普及しなかった。発見されてから長く経っているが、栽培しているのは日本全国で、多く見ても10名ぐらいではないかと推測している。

管理人も所有しておらず、もしかしたら沖縄で栽培されているのはこの一鉢だけかもしれない。しかしまあ、普通の人は説明されなければ「たいした花ではないな」と素通りするのは間違いない。

しかしながらオキナワチドリは世界中で南西諸島にしか無い固有種。しかも画像のような唇弁の斑紋がはっきり目立つ「大点系」のオキナワチドリは沖縄本島以外ではほとんど見つかっていない。共感を得られるかどうかは別として、沖縄を代表する貴重な品種だと主張しても、それほど異論はないだろうと思う。

が、沖縄本島の自生地は近年になって急激に消失が進み、管理人が把握している限りでは大点系の自生地はどこも現存していない。いわゆる「並物」ですら10年後に確実に残っていそうな場所が見当たらない。おそらく近い将来、本島の個体群は絶滅するだろう。

現在、栽培下にある個体は沖縄個体群の貴重なサンプルとして保存していくことが望ましい。が、実情としては保存栽培に興味を持っている趣味家は皆無に近く、植物園などでも、栽培に労力を必要とする地生蘭類を保全する余力のある施設は無い。

ナゴランのように活着してしまえば放任しても生きている、というものであれば栽培個体だけでも残していくことができるのだろうが、オキナワチドリに関してはどうにもならない。消えていく最後の時を、せめて記録に残していくことしかできそうもない。

Amitostigma lepidum

Wild form, Okinawa island, Japan.

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オキナワチドリ沖縄本島型。研究者の方から標本用サンプルを分けてもらったもの。

画像個体の自生地点はかなり荒廃していて、数える程度の個体数しか無いらしい。近交弱勢が進んでいるのか性質は非常に虚弱。3年間育てて肥培しまくったが、この程度までしか大きくできていない。

「野生個体なら、大きさ的にこんなものでしょう」とおっしゃる方がおられるが、野生由来でも強健な個体であれば肥培すれば毎年どんどん大きくなる。(ただし沖縄産の場合、大きくなれない虚弱な個体も多い。慣れない人がそういう野生個体を入手した場合、育てるのはまず無理)

 

...and Horticulturized strain.

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実生選別個体と対比してみた。同じ育て方をしているのだが、ずいぶん大きさに違いがある。パンジーの原種と、園芸種の小輪パンジー(ビオラ)ぐらいの差だろうか。

ちなみにパンジーの原種というのは ↓ こういう感じ。

www.discoverlife.org

原産地ではそのへんに生えている「雑草」であっても、きちんと育種すれば驚くような変化がある。パンジー原種からは超巨大輪パンジーが作出され、ラビット咲き・日本色ビオラなどの山野草的な魅力をもつ新品種が登場、今も新しい進化が広がりつつある。オキナワチドリも潜在的には同様の発展性があるだろうとは思う。

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が、オキナワチドリは栽培条件が悪いと、野生型と同程度のサイズに縮んでしまうのが難点。

上画像の向かって左が野生個体、最右が交配選別個体。そして真ん中は右と同じ品種。生育状況が良くないと、大輪系でも野生型と同じ大きさになってしまう。状態によって花の大きさが変化するのはウチョウランやイワチドリでもまったく無くはないようだが、ここまで顕著ではない。

ネットなどで検索してみると、オキナワチドリの栽培をしている方はある程度いるようだ。しかし、おそらく「本芸」を見たことのある趣味家は稀だろう。

「園芸種のオキナワチドリの売品を見たことがない」

・・売っていないのではない。大輪品種は並花と混ぜられて「実生」という商品名で売られている。大輪に咲かせるスキルを持つ人がいなければ、目の前にあっても判らない。最大限の実力を発揮させる栽培環境を作ってやらなければ、本当の姿を知ることはできない。

千里の馬は常に在れども、伯楽は常には在らず。「天下に馬無し」嗚呼それ真に馬無きか。

Amitostigma lepidum 'blotch form'

seedling.

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オキナワチドリ実生。

最近は業者が販売している大点花実生の混合ポット苗の中に、この程度の個体が普通に混じっている。一昔前であれば命名品種になっていたと思うが、現在の基準では名も無い実生の一つにすぎない。

しつこく何度も書いているが、オキナワチドリは栽培環境が悪いと花のサイズが極端に小さくなる。大輪血統でも無加温・無肥料・無消毒・日照不足などの悪条件下で育ったものは標準花と区別がつかない。

Amitostigma lepidum 'Narrow lip'

seedling.

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オキナワチドリ細弁花実生。選別交配を重ねて意図的に唇弁を細くした系統。前回(1月24日)の個体と出発点は同じだが、あちらは唇弁を豊かにする方向で選別を重ねたもので、こちらは反対方向に育種を進めてみた

イワチドリでは細弁で純白・無点・紅一点、さらにそれらの獅子咲きも作出されているが、管理人が生きているうちに、オキナワチドリをそのレベルまで育種するのは無理だろう。 

Amitostigma lepidum

seedling.

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オキナワチドリの開花が始まった。画像はイワチドリに似た個体。

高温期が長い沖縄では、いわゆるチドリ類はほとんどすべて栽培できない。それゆえ沖縄でも育てられるオキナワチドリの存在価値は高い・・と思っていたのだが、小型野生蘭の栽培経験を積むことができない地域なので、オキナワチドリをまともに栽培できる趣味家がほとんど存在しないというのが現実だった。

まあ、チドリ類はもともと栽培が易しい植物ではないので、本土でも基本的には消費的に栽培されているように思われる。昭和時代のウチョウランブームの頃から栽培を続けているような年季の入ったオタク ベテラン趣味家を除けば、何年も維持栽培できる人はほとんどいないのではなかろうか。

とはいえウチョウランやイワチドリの場合は、球根を植えつけてから短期間で花が咲くので、栽培が苦手な人でも、とりあえず植えた年だけはきれいな花を咲かせることができる。

一方でオキナワチドリは、植えつけてから開花まで半年かかり、開花時までの栽培の巧拙が他種とは比較にならぬぐらい露骨に反映されてしまう。管理状態が悪いと極端に小型化する性質があるので、慣れない人が育てると大輪選別品種でも野生個体とほとんど区別がつかなくなる。それゆえ一般栽培家は大輪・整型品種を入手して咲かせても「ただの駄物」と判断してしまうケースもあるようだ。

そういうわけでオキナワチドリの場合は、たとえば花色が赤かったり白かったりするような、小型化しても変化することのない変異形質が重要になってくる。しかし、どちらにしても栽培のコツをつかんでいないと数年以内に「お前の栽培は下手だ」と素人目でも判る結果を突きつけられることになる。

生かしておくだけなら素人でもできるが、上手に作りこなすのは非常に難しい。自称ベテランの天狗の鼻をへし折る、まことに恐ろしい植物である。