Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Arisaema heterocephalum subsp. okinawense.

 昨年秋に撮影したオキナワテンナンショウ、果実および同一個体の雄花。

 栄養状態が良いと雌花が咲くが、交配して結実させると体力を消耗して翌年は雄花になるか、管理が悪いとそのまま枯れてしまう。種子が完熟するのは翌年の花期になるため、途中で腐って倒れたりしないよう神経を使う。

 こちらは別個体の雄花を縦切りにした断面図。雄花は葉よりも上に突き出して咲く。

 テンナンショウの多くは上に伸びた棍棒状の「付属体」からポリネーター(花粉媒介者)を引き寄せる物質を発散させているらしい。

*2022年追記。オキナワテンナンショウではまだ調べられていないようだが、他のテンナンショウでは特定種のキノコバエの雄を誘う性フェロモン類似物質が放出されているそうだ。

 付属体の根元には花粉の入った葯苞が並んでいて、成熟するにつれて下のほうから順番に破裂して花粉がこぼれ出てくる。花筒の底に花粉が貯まっていく。

雄花の花筒の根元には隙間があって、花粉を体につけたキノコバエがこの穴から外に出ていく。

 

 こちらは雌花。葉よりも下に咲く。

 雌花の断面図。内部はツルツルで足場が無い。さらに付属体に棘状の突起が生えていて、下まで落ちた虫が逃げ出せないように邪魔している。花に入ったキノコバエはメシベのある部分で動き回り、体についていた花粉を雌株に受粉させる。

 そして雌花には出口となる穴は無い。ご苦労だったキノコバエ君、ここが君の墓場になるのだ。花粉を運んだ報酬? そんなものがあると思ったのかね? 


  本種の花は地味で、近縁のアマミテンナンショウのほうが園芸的価値ははるかに高い。本種を苦労して殖やすぐらいなら他種を増殖したほうが喜ばれる。それゆえ人工増殖している業者はほとんどいない。

 稀に野生採取個体が流通するが、そんなものを気軽に入手して消費栽培すれば野生絶滅に加担することになる。愛好家は栽培下にある個体を交配採種して殖やさねばならぬ・・と言いたいところだが、栽培者が少ないので交配相手にできる別系統個体を見つけるのが難しい。栽培者を見つけても自分の株とは開花時期が合わなかったり、性別が合わなかったりする。ものすごく一部のマニアは栽培下で増殖させているので、それをわけてもらって複数の血統を集め、自分の手元で繁殖用個体群を立ち上げることから始める必要がある。

  また、冬緑性なので沖縄ではともかく、降霜のある地域では室内保護しないと越冬が難しい。場所をとるので複数個体を育てたがる人は稀だろうから、本土での増殖にはあまり期待できない。さりとて沖縄であっても積極的に増殖している人はほとんどいない。一株だけサンプル的に育て、ダラダラと飼い殺し(育て殺し)にする。そのうちに飽きて他人に渡し、渡された人はさほど興味も無く手抜き栽培、2年で枯らして終了。多くの場合そんな結末が待っている。

  「私はきちんと育てています」それはまだ枯らしていない、というだけの話。世代を超えて栽培を引き継ぎ、増殖普及させていくことができないならば、個人レベルで何十年も育てることに成功したところで最終的にそれは消費栽培だ。3日で枯らしたか、30年で枯らしたかの時間差があるにすぎない。

 この株を100年後まで残せるか。薔薇なら100年前の品種はいくらでもある。残せないとすれば、その理由は何か。いくら努力しても園芸植物にはなりえない、野生採集・消費栽培しかできない植物なのか。もしそうだとすれば、そういうものを栽培し、記事にすることは今の時代、クールな趣味だとは言い難くなっているのではないか。

 商業生産されていない希少植物は、栽培すること自体を犯罪視される時代になっている。将来的には商業繁殖実績が無い絶滅危惧種は、どれも「種の保存法」の指定種になり、入手すると逮捕されてしまうようになるのかもしれない。いや、冗談抜きで環境省はそういう方向に動きつつある。

*2017年追記:予想通り、本種は平成29年度に特定国内希少動植物種に指定された。所持・栽培は禁止されていないが、許可証を持つ業者以外から入手することは違法となった。