日本産の野生ランを育てるのは犯罪です

こちらが法律で規制されている種類のリスト。

https://www.env.go.jp/nature/kisho/pamphlet/pdf/kokunaikisho.pdf

 環境省は、絶滅が危惧されている種類をすべて追加指定していく方向で動いている。ラン科に関しては、最終的にほとんどの種類が該当種になる可能性もある。

 まだ規制されていないランも言わば脱法ハーブのようなもので、栽培が道義的に無問題という事ではない。オークションなどで採集品が販売されている事例についてはデータ収集して資料にまとめ、該当種をピンポイント狙撃で指定していく手法が環境省点数稼ぎ 効率的な調査方法として確立されている。公開で売ったり買ったりされたものは自然保護関係者が見つけしだいチクり、現在進行形で資料に追加されていくシステムである。

 新規に規制対象になった事を知らずに売買してしまい、行政から調査が入った事例はどんどん増えている。たいへん効率的な点数稼ぎ 有効な保護規制になっていると言えるだろう。そういうわけで「国内希少種」という単語を知らない人は、いろいろな意味で野生ランに関わらせてはいけない知識が不自由な人なので、見つけしだい退治 情報共有を試みることが望ましい。(ちなみに県指定、地域指定の希少野生動植物種というのもあるので、国のリストに無いからと言って安心してはいけない

 というか、今の時代はもはや「野生ランを育てている」事を公表するのはバカの証明にしかならない。

 完全養殖されていないウナギが食べまくられて絶滅が危惧されている時に「ウナギを食べて何が悪い」などとSNSに書けば炎上必至である。野生ランもほとんどの種類は完全栽培されていない(野生由来の畜養株しか出回っていない)ので、そんなものを「買っちゃいました~~♪」などとカミングアウトしている人は「私は頭がクソ悪いです」と全世界に発信しているに等しい。

 もし誰にも文句を言われていないとしても、思考能力にハンデを負った人に関わりたくないと思われているか、あるいは単にその発信を見ている人が誰もいないだけの話である。ああいけない、ブーメランが頭に刺さった。

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 ちなみにこちらはフラスコ培養の沖縄本島産ヤクシマヒメアリドオシランKuhlhasseltia yakushimenshis。

知人が30年ほど前に培養を開始し、それを15年ほど前に分与してもらって管理人宅で継代培養しているもの。

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 培養はきわめて容易で、殖えたら別の瓶に1本移してやれば無限に殖やせる。その気になれば日本全国に配ることすら可能であろう。

 しかしながらこの種類も将来的に販売規制がかかる可能性がある。なぜかと言うと培養容器から出すと枯れてしまうので「完全栽培」が不可能、つまり入手しても普通の人は全滅させることしかできないので、こんなものを一般流通させる意義はこれっぽっちも無いからである。育てられないランは容赦なく販売禁止にしていく、それが今の世の中の流れである。

 

( とまあ今回は、こういう感じで挑発的な言葉を入れた記事を書いた時、検索で見つけた方がどれぐらい釣れるのかテストしております。以下はネタバレ解説になりますが、面白くない内容なので一般の方はこれ以上読む必要はありません。

 

 えー、でまあ上記の文章では意図的に誤解を誘っているのだが、実際のところ希少種指定は「野生ランを栽培してはいけない」という法律ではない。あくまで所有権移動の規制であって、育てる事は別に禁止されていない。

 また「業者が商業的に殖やしていない絶滅危惧植物は販売禁止」なのだが、逆に言うと「過去に商業的に人工増殖された実績がある希少植物ならば(申請して許可をうけた業者に限り)売しても良い」という例外規定がある。

(注:これはあくまで植物の場合である。動物だと養殖物を野外に放す馬鹿がいるため、増殖販売されていても(いるからこそ?)販売禁止にしていく方針となっている。長期にわたって真面目に系統維持し、繁殖実績を積んできた養殖業者が一方的に販売禁止を通告されて激怒し、訴訟を準備している事例もあったりする)

 事実上栽培不可能なハツシマランやオオギミランは業者が一度だけフラスコ増殖した実績があったために販売可となり(だが親株をキープできる人がいなかったので現在に至るまでそれっきり流通していない)、素人でも挿し木でバンバン殖やせる栽培容易なオキナワヒメウツギやヤドリコケモモは商業繁殖実績が無かったために繁殖させたものでも譲渡禁止になってしまった。そういう突っ込むべき部分も多いのだが、とりあえずそれはこっちに置いておく。

 というか、よく考えてみてほしい。ウナギなら食用なので販売された個体がすべて食い尽くされるのは当然だが、園芸植物は食い物では無い。皆で殖やして分かち合い、栽培品として世に満ち溢れていなければ本来はおかしいのである。たとえば日本産のムジナモは野生絶滅してしまったが趣味家のリレー栽培によりしっかり増殖・系統保存されている。それが本来の野生植物栽培の目指すべき方向性であろう。

 ところがラン科植物はどれもこれも消費栽培されて完璧なまでに食いつぶされており、世代を超えて栽培のバトンが渡されている野生種は(ゼロではないが)数えるほどしかない。完全栽培できる趣味家もきわめて少ない。「よく見たらまともに栽培できている人間が一人もいない」という状況なのである。

 ここで言う「まともな栽培」というものを考えるための参考資料として、管理人がリアルタイムで見聞きしてきたアツモリソウの完全栽培開発史~増殖業者撤退~実生技術ロストテクノロジー化(現在)に至るまでの30年、育種業者の挑戦が撤退に変わっていく流れをざっくりまとめておく。(ただし温暖地に住む管理人自身は一度もアツモリソウを育てたことは無い。本土の複数の栽培者から腐るほど一次情報を聞かされており、その記憶を客観的に裏付ける資料をネットなどで確認しながら書いているので大幅な事実誤認は少ないと思うのだが、あくまで二次情報なので間違いがあったらご指摘いただきたい)

 昭和末期、1980年代頃に野生ランの栽培ブームというものがあった。自然保護などという概念が乏しい時代で、現在では栽培不可能種とされているランもラン科植物であれば全部盗掘されて栽培実験に供された。アツモリソウも例外ではなく、根こそぎ盗まれて次々に地域絶滅し、わけのわからない自己流の栽培方法を押し付けられた株は育つこともなく消費され続けていた。

 完全絶滅が目前となるに至って行政が保護に動き出し、一部の愛好家や研究者は種子からの完全栽培にも挑戦しはじめた。そして日本で最初にアツモリソウ属の種子の無菌培養に成功したのは北海道礼文島にある、礼文町高山植物培養センターであった。

礼文島を北海道を日本を、いや世界を代表する名花レブンアツモリソウを山採り、採集、盗掘によって売買の対象にすべきではない。(中略)新しい増殖方法を見つけ出し、その方法を確立させ、レブンアツモリソウの大量増殖とアツモリソウ属の品種改良に着手すべきであろう。(中略)レブンアツモリソウのみならずアツモリソウ属(Cypripedium)の増殖(管理人注:無菌培養によるもの)に成功したという事例はこの世にまだ存在しない。しかし礼文町高山植物培養センターではレブンアツモリソウの増殖を可能にしてきている」(1989年、マニア園芸第2号)

 非引用部分にも色々とイキりまくった文言に満ちた、センター職員による寄稿が当時の園芸雑誌に残されている。まあこの時点では無菌発芽成功は世界初の快挙と考えられていたので、イキりたくなる気持ちはよく判る。

 ・・・が、この時に使用されていた発芽培地はまだ未完成で、その後の培養成績は微妙であったようだ。そして一番の問題は、植物学者は植物学の研究者であって、栽培技術の専門家ではなかったという点にあった。癌細胞を一目で見分ける優秀な病理学者が癌患者の手術にチャレンジした、さて患者はどうなったか、と、まあそういう感じの話である。その後の状況については下記の資料に言及がある。

「研究所の無菌実生は、何回かは発芽にこぎ着け、新聞などで報道されたりしたが、栽培の方法が地植えしかされていないなど、栽培技術的な問題もあって、ほとんどは植え出しに失敗し、効果は無かったようである」(1997年、林野庁栗駒山・栃ケ森山周辺森林生態系保護地域 保護林保全緊急対策事業 調査報告書:下記リンク5-1-2章)

https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kakusyu_siryo/pdf/00233_2_h9_020.pdf

 そして日本での研究が足踏みしているうちに、欧米で先に無菌実生技術が確立されてしまった。

 この時期に各国で同時多発的に研究が進んでおり、最初に技術確立したのが誰なのか確定できていない。が、ほぼ最初期に実用化したと思われるのがアメリカのCarol & Bill Steel 両氏である。

Spangle CreekLab : Propagation Methods

 その研究開始は1986年頃だが、氏のホームページに「その頃にはすでにCyp.reginaeの無菌培養に関する論文が数多くあったので参考にした(意訳)」と書かれている。そして1990年にはもう無菌発芽させたCyp.parviflorum とreginaeの苗の販売事業を始めている。高山植物培養センターがそういう情報をどこまで把握していたのかは不明。

 また、英国キュー植物園のPhillip Cribb博士、および共同研究していたドイツのWelner Frosch氏もかなり早くから研究を手掛けていたようだ。(余談だが彼らの共著「Hardy Cypripedium(2013)」はこのあいだア○ゾンで10万円近いプレミア価格になっていた)

 Frosch氏が人工交配種Cypripedium Gisela(parviflorum X macranthos)をサンダーズリストに登録したのは1992年5月5日。1994年にはアツモリソウ専門農園 Frosch(R) Exclusive Perennials でGiselaの増殖が開始され、1997年から商業販売となる。以後も次々に交配種が作出され続け、現在の園主Michael Weinnert氏が丈夫で美しく、栽培しやすい個体を選び出して圃場で増殖し、世界各国に提供しつづけている。(下記リンク参照)

https://www.cypripedium.de/English/new/new.html

 それらの技術を輸入する形で、日本でも爆発的に無菌培養技術が進歩しはじめた。開発は苦手だが改良は得意な日本人である。やればできる、と判ったとたんに山野草業者や民間農業研究施設の技術者が次々に参入し、本気で研究しはじめた。あっという間に素人でも調合できる簡易培地が開発され、育苗技術も確立されてしまった。

「現在では播種して2年、そしてフラスコから出して早いものでは2年、遅くても3年かければ大半が咲かせられるまでになりました」(2010年、山野草マニアックスvol23)

 高山植物培養センターは何をしていたかって? ・・この時期の事は聞かないのが人としての優しさである。北海道大学の協力もあったようだが、北大植物園も学者は在籍しているが生産技術者は雇用されていない。何を言いたいかは察してほしい。

 そして民間では優良個体同士の交配でどんどん苗が作られるようになり、さまざまな種間交配種が作出され、多数の園芸業者が参入してオリジナル品種の開発競争が始まった。園芸雑誌では定期的に特集記事が組まれ、「こうすれば育てられる」という知識が入門者に伝えられた。展示会も開かれて最新の栽培知見が盛んに交換された。自然界を荒らさず心置きなく楽しめるアツモリ園芸時代の到来である。

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 ちょっと一休みして飯テロ画像。タコライス発祥の地、金武(きん)町にある秘宝館 文化施設「ぼんさいカフェ」のタコライス

 

 こうしてアツモリソウは園芸植物として一般化・・と思っていたら平成後半になるとブームが去って、いつのまにか限られた趣味家しか買わないマイナー植物になっていた。そうなると寒冷地の栽培家が株分けで殖やした苗を仕入れる程度(販売規制が無い場合、この部分が「誰かが山から盗んできた株を仕入れる」に置き換わる)で総需要が満たされてしまう。大量増殖しても値崩れするだけなので、業者は一斉に自社生産から撤退した。

 すると10年経たぬうちに実生生産に関する情報が散逸してしまった。多数の業者が育成を試みていたという記録は、紙媒体を調べればしっかりと残っているが、ネットで検索してもそんな時代があったという話は見当たらない。当時の業者カタログなどは書籍ではないため国会図書館などにも残っているかどうか疑問で、もはや資料として確認する事は難しそうだ。前記の林野庁資料に名前が出てくる北海三共(現ホクサン)は一時はアツモリソウ苗の海外輸出まで受注するに至ったが、その後にバイオ研究所は閉鎖され、増殖担当者は退職していて会社に当時のことを知っている人がいるか定かではない。

 そして誰も実生研究をしなくなった現在、独走状態なのがあの高山植物増殖センターである。その後に共生培養によるレブンアツモリソウ苗の生産に成功しており、遅くはあっても着実に前へと進んでいる。(なお、独走状態というのはぶっちぎりの一位という事ではなく、ぼっちで走っているという意味である)ちなみに栽培技術的には・・まあその、ある程度の苗は育てられるようになっているので、さらなる発展に期待したい。どれほど技術が高くても業者は金にならない限り手を出さないし、一代限りで終わってしまう個人栽培に「勝ち」は無い。

 現在、アツモリソウの無菌播種技術はロストテクノロジー化している。アツモリソウ用の培地はかなり特殊(だから実用化が遅れた)なのだが、その最新情報はネットで検索しても出てこない。試作時代の古い記録か、あるいは意図的に要点を伏せて模倣できないようにした不完全な情報が断片的に見つかるのみである。完成段階の培地組成は各業者の企業秘密なので、ネット上には(日本人は)誰も公開していない。こっそり要点を教えてくれる指導者がいなければ、独学で1から再現するのは相当に難しいと思われる。(それでもゼロから開発した先人よりは楽だろう)

 栽培に関する情報もアップデートが止まっているため、伝言ゲームで変質した情報がたまってきて一次情報が埋もれてしまっている。たとえば「アツモリソウにはクリプトモスという用土が合う」という情報が検索するとゾロゾロ出てくるが、これは過去の栽培書から一部だけ抜き出されたものである。一次情報を読めば「ただしクリプトモスは白絹病菌の温床になる素材なので、抗生剤系抗菌剤バリダマイシンの定期潅注をしていないとアツモリが夏に溶けて枯れる」というような注釈が書かれていることに気がつくと思う。その重大なポイントが抜け落ちた状態で話を広めたら、どういう結果になるかお判りだろうか? 「アツモリソウについてまとめてみました! クリプトモスがおすすめです! 販売はこちらです!(フィリエイト広告) いかがでしたか?」おいこらちょっと待て。

 でまあ今回は資料が多いはずのアツモリソウについて、あらためて検索してみて平成時代との情報の断絶に唖然とした。膨大な知識蓄積があるはずのアツモリソウなのに、ネットにはまともな栽培情報が全然出てこない。さまざまな場所に地雷が埋まっているのにそれを回避した経験談どころか、地雷があるという話自体が、専門的なキーワードを使って掘り下げなければ見つからない。表層の情報だけ読んで踏み込んだら間違いなく爆死する。「きちんと育てるための最低限の知識」ですら一般社会ではとてつもなく特殊な知識に属していて、普通の人でも判る単語だけで検索すると「ググったらカス」になる。泥沼に五体投地でダイブしている連中の持っている知識に至っては、検索しても出てこない闇情報の領域である。

 こうなってくると、人工増殖されていない希少植物に関しては「やめておけ」の一言で栽培したがる人間を入り口で方向転換させ、近寄らせないのが社会的にはベストなのであろう。過去の書籍は基礎を学ぶには必須だが、現在の知見から見ると明らかに間違っている栽培解説も散見される。本気で育てたいと思っているならば、最新の育て方を学ぶため山奥に住む怪しい導師の元をたずねて直接教えを請うしかない。それを怠って机上の学習だけで手を出した者は、どこかの学者先生の後追いをする事になる。

 という状況なので、「野生ラン全般の収集的栽培」を一つの趣味ジャンルとして存続させていく事は今の時代にはもう不可能だろうと思っている。希少種を枯らしながら栽培技術を覚えることが許される時代ではなく、商業生産個体であったとしてもじっくり向き合う時間的余裕、栽培環境を整える金銭的余裕が一般人にはもう無くなってしまっている。今後、日本産の野生ランの栽培情報を実用レベルでまとめたアップデート版書籍が出版される可能性もほぼゼロなので、平均的な栽培技術は下がっていく事はあっても上がる事は無いだろう。

 植物園の栽培技術? ・・普通のところはどこも運営予算が削られ、常勤職員が解雇されて管理は外部委託になっている。学者どころか造園業者のおっさんが単なる緑地公園として手入れしており、バイトが適当に水をかけておけば育つ植物しか残っていない。さらにコロナが赤字の追い打ちをかけていて(遠い目)

 マイナーなランでも腐生ランでも、膨大な栽培コストを無視するならば育てられる方法はすでに見つかっている。しかしその知識は見える場所には無く、見つけ出すためには堆積した膨大な土砂をかきわけて埋もれている砂金を探し求めるような世界に入り込まねばならない。そんな事は普通の人にはできない。だから普通の人は野生ランに近づいてはいけない。知識を探し求めてでも育てようという決意を持つならば、それはもう趣味ではなく異常性癖なのである。

「あんたヒヨッコ以前なんだよねー あたしの横にさ 何も見えないでしょ? 見えるようになったらもっぺんおいでよ それがココの最低条件」 (by HUNTER X HUNTER)