Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの枯らし方(その5)

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 沖縄本島北部、オキナワチドリ自生地。

 定点観察に行ってみたら、未開花の実生がかろうじて数本残っていたが、開花株は一本も見当たらなかった。

 まあ「お前の自作自演だろ?」と言われても否定する材料は何も無い。いずれにしてもこういう事例がある以上、野生型のオキナワチドリを育てていると盗掘品を持っていると思われてしまう。「自分は違う」と主張しても、それを判断するのは他人である。交配育種して作った園芸系統でなければそういう疑いは払拭されない。

 沖縄の某展示会で、実名を晒して盗掘植えつけ鉢(作り込み品ではないのが一目で判る)を堂々と出品なさっておられた神経の太い方がいらっしゃったが、あの花は3年後に残っているのだろうか。

オキナワチドリの枯らし方講座を続ける。

 

8・個体差を考慮しない

 オキナワチドリには個体差というものがある。同じように育てていても、丈夫で毎年良く殖える個体と、虚弱で生かしておくのがやっとの個体がある。ネットで検索していて「何年も育てていますが栽培は簡単です」という説明がついているのは、おそらく前者。そういう個体を基準にオキナワチドリの栽培を語るのはいかがなものか。加えて枯らした人はだいたい黙っているので、ネットにはほぼ成功談しか出てこない。いわゆる生存者バイアスである。

 「ランを育てるのは初めてだったのですけど、オキナワチドリの花を無事咲かせることができました」と喜んでいる方も時々見かけるが、それはまあ、さんざん説明してきたアレである。こちらは情報源としては不適切なのだが、知らない人が見ると素人でも育てられるくらい簡単なんだなーと思ってしまう。うん、チューリップって栽培簡単だよねー的な。

 きちんと育てたいならば、丈夫な品種を入手すべきなのは言うまでもない。野生個体でも比較的丈夫な個体が無いでもないが、平均としては交配実生のほうが丈夫な個体が多い。少なくとも沖縄産の山採りはやめておいたほうが無難。

 ・・とは言っても交配実生はほとんど流通していない。ヤ◯オクでも年に数回出品される程度で、最近の交配品種はほとんど売りに出てこない。扱っている業者はあるのだが、ネット嫌いで店頭販売が中心だったり、儲けが薄いので積極的に販売していなかったりする。それらしい業者に直接電話をかけ、在庫確認する必要があるので購入するにも敷居が高い。検索すると山採り通販業者のホームページが先に出てきて、そちらでポチる人のほうが多そうだ。

 まあ管理人の経験上は、栽培欲を満たせれば品種なんかどうでもいいという人のほうが多いようではある。長期栽培も最初から考えておらず、栽培体験を楽しんだら満足してすぐに手抜きをしはじめる。そうやって盗掘個体や、栽培者がほとんどいない希少品種が次々と消費されていく。

 が、考えてみれば園芸というのはもともとそういう娯楽だ。花が咲いている間だけ飾って楽しみ、気が済んだら処分する。庭植えで放任栽培できる樹木系は別として、鉢物というのは一般の感覚ではただの消耗品である。きちんと栽培しろと騒ぐほうが間違っている。

 「どうやったら育てられるんですか~~?」とか聞かれたとしても、親切のつもりで栽培方法を語ったりすると「腐れヲタクは知識自慢でマウントとろうとしてきてウザい」と言われるので注意を要する。育ててみたいと言ってきたとしても、世話したいとは言っていない。

 定型者は「植物を誰に見せるのか、それがどう評価されるのか」には興味があるが、「その植物にはどんな性質があるのか」はどうでも良い。栽培情報とは他人が何をしているか探るためのもので、本当に興味があるのは花ではなく人間同士の繋がりである。

 一般社会では、対人関係が他のほとんどの事項よりも重視される。ヒトの群れでは「私はあなたの仲間です」「私もあなたの仲間です」と互いに毛づくろいをしあう事が不可欠で、それができないと場合によっては命にかかわる。女とギャンブルでも、ワインとゴルフでも周囲と一緒に楽しむのが社交である。相手の興味が無い話をしてはいけない。

 ヒトの反応を気にせずモノやコトに入れ込んでしまうと交流してくれる相手が少なくなり、自動的に社会不適合者になる。集団行動に適応するには人間以外に対しての「こだわり」や「思い入れ」は持たないほうが良い。

 

9・休眠したあと存在を忘れる

 オキナワチドリは晩春になると葉が黄変枯死し、地下の球根のみで越夏する。球根がもともと小さく軟質なので、休眠中に水やりを忘れて完全に乾燥させてしまうと干物になる。かといって水をやりすぎると蒸れて腐ってしまう。運が良ければ屋外放置で雨にあたっているだけで偶然に夏越しに成功することもあるが、そのまま植え替えないで二年目の花を咲かせてしまったら、もう手遅れである。

 鉢植えのまま涼しい日陰に移して越夏させるのが良いか、それとも鉢をあけて球根をひろいあげ半乾きのミズゴケなどと一緒にチャック付きポリ袋などに入れて保管しておくのが良いのか。どの程度まで水を与えるのがベストなのか最適解については一概には言えず、いろいろ工夫して試してみる必要がある。(たまに冷蔵庫に入れたという方がいるが、温度が下がると活動を再開する植物を休眠期に冷やしてどうする)

 この時期に存在を忘れてしまってそのまま枯らしてしまう方も多いようだが、あまりにも初歩的な失敗なので黙して語られないことが多く、発生率については定かではない。まあほとんどの方は、わけのわからない管理を何年も愚直に続けていくほどの思い入れを持てないだろう。というか、定型者なら持たないように生まれついているはずである。

 結論としてオキナワチドリは既知 相当に育てる人を選ぶ。栽培技術よりも育てる人の人格 性格が長期栽培できるかどうかを決めている。

 野生蘭マニアは一度ぐらい育ててみるようだが、10年以上も育て続けている例は100人に1人いるかどうかという印象だ。むしろ中途半端に栽培知識のあるベテランのほうが舐めてかかって衰弱死させている感すらある。

 希少なランを栽培下で保全します?・・地生蘭としてはむしろ維持しやすいオキナワチドリですら次世代まで残せない栽培者に何ができる? 野生種の遺伝子保全には同じ個体群から十株単位で系統保存する必要があるが、同じにしか見えない野生並花に個体番号をつけて系統管理している趣味家がどこにいる? 特定個体群から個体寿命に限界のある1個体(ウイルス感染などがあるので耐病性が低い種類だと永続的には栽培できない)だけ抜いてきて、それが保全になるとでも?(実生更新は別株と交配しないと近親交配で世代を重ねるほど弱化してきてそのうち絶える)

 結局のところ、ほとんどのラン栽培は命の消費しかできない。だとしても法に触れなければ(「種(しゅ)の保存法」などで規制がかかっていなければ)それを禁止されてはいない。規制されていてもバレなきゃいい、非規制種なら山採りでもいい、商業生産品なら良し、いや難しいものはやめておこう・・是非の基準は栽培者によって違うだろう。その線引きは読者のご判断にまかせようと思う。

 最後になるが、今回の一連の記事では栽培時の諸条件、たとえば生育中の潅水については詳しく触れていない。その先には無菌播種、植物組織培養、ラン菌共生培養、遺伝子解析などの技法や参考文献、外注委託先・・本気で入れ込むなら知っておくべき情報も山のようにあるが、そういう「育て方」はここでは一切語らないでおく。自分の作場の最適解をまだ見つけていない方に、他人の答えを見せても惑わすだけだろうから。

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