Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの枯らし方(その4)

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販売されているオキナワチドリ。沖縄本島内の某ガーデンセンターにて。

平鉢に赤土(そのへんで掘ってきた)で植え、表面に苔(そのへんで剥いできた)を張り付けてある。植え方が適当で、植物が傾いて根が露出している。草姿から推察して、作りこみ品ではなく山採り個体を当年に植えつけたものだと思われる。生長点にたまった水から腐敗がおきはじめて黒くなっている。

沖縄本島内で販売されているオキナワチドリはこういうのが普通である。オキナワチドリに限らず、流通している沖縄産の植物の山採り率はきわめて高い。というより増殖業者がいないのではあるまいか。

オキナワチドリの場合、本土の業者から園芸選抜個体を卸買いして転売することも可能なはずなのだが、球根からきっちり育成して花卉として通用する鉢物に仕立てあげるスキルのある業者は全国的に見ても数える程度だろう。というか、オキナワチドリは開花まで時間がかかるのに値段は安く、真面目に育てて出荷すると赤字になるので一般園芸店にあまり流通しない。

こういう雑な鉢植えを植え替えもせず、無肥料で管理しても数年程度であれば生かしておくことは(沖縄であれば)十分可能だ。まあ普通の人だと休眠したら管理をやめて放置してしまうので、夏の間に干物になってしまうのだが。

オキナワチドリの枯らし方講座を続ける。

 

6・大きな鉢にまとめて植える

真面目に世話すれば、「丈夫な品種であれば」年に2倍程度に殖える。順調にいけば3球程度から始めて3年後には20球を超える。オキナワチドリは地面に葉を広げて育つので、小さいわりに生育面積を必要とする。4号鉢程度だと20球植え付けるのは厳しいので5号以上。根の深さはそれほど深くないので盆栽用の平鉢を使う・・

・・まあ、それも間違いではない。実際に100球まとめて大きな平鉢に植え、上手に育てておられる方もいないことはない。が、これは初心者に勧められる育て方ではない。

極端に小さい鉢だと用土の乾湿変化が激しすぎて、水切れで枯らす危険性が高い。だったら大きい鉢のほうが鉢内の水分が安定して良いのか、と言うとそうでもない。あまり大きな鉢にすると過湿になった時にいつまでも過湿状態が続いてしまう。水切れの危険性は減るが腐って駄目になる危険性が小鉢に比べて著しく高くなる。大きい鉢に密植すると中心部の通気が悪くなるので、これまた腐敗の危険性が大幅にアップする。

小鉢の時には順調に育っていたのに、大鉢に変えたらまるごと腐って全滅。チドリ類の栽培者が一度はやらかす初歩的な失敗である。

また、鉢土の表面は乾いているけれど鉢底に停滞水が溜まっていて鉢内全体で見ると過湿、という場合がある。鉢の高さが低いと鉢底の停滞水層の比率が相対的に多くなり、水分適正部分は普通の鉢より少なくなる。ガンガン吸水する盆栽や一般山野草では多少の水分差は誤差の範疇だが、ラン科のようなデリケートな水分管理が必要な植物では平鉢と普通の鉢、多肉植物用ロングポット(あと、オキナワチドリでは使わないが腰高の東洋蘭鉢)では用土量が同じであっても、鉢内の水分分布の違いが生育差となって現われてくる。

(余談だが、砂漠に生えて地下水脈まで根を伸ばす特殊な植物では、土管のような縦長鉢に植えて腰水にし、常時下から水分が上がってきて絶対に水切れにならない&それでいて上までは水が届かなくて株元はいつもカラカラ、という育て方をすることがある。そういうのは平鉢だと再現不可能な育て方だろう)

大鉢と小鉢、平鉢と腰高鉢では灌水の最適解が異なる(同じ管理をしていると生育に違いが出てきて、最悪の場合どちらかが枯れる)というのは考えてみれば当たり前なのだが、入門者は言われないと気づかない。

ベテラン栽培者の場合、意図せぬ水分が加わらぬように栽培場所に雨除けの屋根を作り、一鉢ごとに灌水の量と頻度を変え、作場の通気・送風を考慮し各鉢ごとの置き場所を工夫して乾く速度を調整し、腐敗予防の殺菌消毒も定期的に行う。彼らにとってその程度の管理は「常識」であって、栽培法として語る以前の基本技術である。そんな事は世間一般ではやらないのが普通、という事が判っていない。

というか一般人はたとえ教えたとしても「その人の作場における最適解」に翻訳して落とし込むスキルは無い、という事に気づいてさえいない。

そして何も知らない新規参入者は展示会などで見たベテランの大鉢植えを形だけ真似して(栽培管理は素人のままで)通過儀礼的に「大鉢植えで大失敗」をすることになる。

順調に殖えてきた時には、殖えた分だけを別の鉢に移動し、もとから植えてある鉢にも必ず一部を残しておくこと。全部いっぺんに別の鉢に移すと、環境が変わって全滅することがある。まったく同じ鉢を用意し、2鉢に分けて保険的に栽培しておくのも良いだろう。

 

7・殺菌消毒をしない

オキナワチドリは冬に生長するため害虫の発生は比較的少ないが、逆に言うと天敵となる益虫が不在なので温室内に害虫が入り込んだ場合、繁殖に歯止めがかからない。

発生予防のため定期的に殺虫剤を散布するのも有効ではあるが、最近は農薬抵抗性の虫が増えているので薬散してもまったく効果が無い場合がある。特にアザミウマ類(スリップス)は薬剤抵抗性が年々上がってきている。そして温室内では年中無休で発生し、幼虫は半透明で目に見えないほど小さく、しかも人間の気配を感じると葉と茎の隙間に素早くもぐりこむので発見がきわめて困難。薬散したからと思って安心していると気がついた時には生長点が食いつぶされていて、もう手遅れだったりする。

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上画像はアザミウマに食害されたオキナワチドリ。まだ被害が目視できないぐらいの初期に防除したが、すでに生長点にもぐりこんだ幼虫に新芽がかじられていて、数週間たってからこのような無惨な状態になった。

アザミウマの場合、食害発生直後には何ともないように見えるから始末が悪い。食害部が枯れはじめて初めて被害の大きさに気付くが、その頃には親虫は他株に移動していて、いつのまにか増殖した仔虫が周囲に散っている。早期に防除して画像のように健全な葉が残ってくれれば小さいながら新球根ができるが、ものすごく作落ちする。対応が遅れた場合は新球根ができずにそのまま枯れてしまう。

こういう症状を病気だと勘違いして抗菌剤を散布しても意味は無い。ちょろちょろと素早く動いて隙間に隠れる微細な虫が視界に入った時は、無害そうに見えても、1匹だけだったとしても、絶対に見過ごしてはならない。

↓こちらがアザミウマの関連記事

普通の植物であれば新芽をかじられても脇芽が出てきて回復するし、アザミウマも葉より花のほうを好むので花だけかじって満足している場合が多い。植物種によってはアザミウマが花粉を媒介して共存共栄関係だったりすることもあるらしい。

しかしオキナワチドリの場合には1個しか無い(しかも再生しない)生長点が食害されるので被害は甚大。さらにウイルスまで媒介される。百害、いや万害あって一利も無い不倶戴天の大害虫である。発生が確認された場合はただちに有効な殺虫剤を作場全域に散布し、薬が効いて虫が実際に死滅していることを目視で確認せねばならない。(農業用捕食ダニの散布は少量栽培には応用しづらい)

ちなみにオルトラン、スミチオン、モスピランなど昔からよく使われていた農薬ほど最近のアザミウマには無効になっている場合が多い。ある程度有効でも同一薬剤を連用するとどんどん耐性が上がってくる。多剤耐性アザミウマに侵入されると1ヶ月で数百倍に増殖し、最悪の場合オキナワチドリが棚ごと壊滅する。厳重に、しっかり、油断せず、念入りな監視と防除が必要。(追記。アザミウマは10℃以下になると活動が鈍るので本土で低温栽培している場合にはそれほど発生しない模様。むしろ夏緑性のサギソウなどの生長点がしばしば食害されるそうである)

病害に関しても要注意。小苗を密植して通気が悪くなっている場合などに突如として一部が腐りはじめ、放置すると鉢内全部に広がって全滅する場合がある。これは発生初期に一刻も早く抗菌剤の散布や土壌灌注をする。アザミウマ食害と区別がつかない場合は抗菌剤と殺虫剤を混合して撒く。

なお、使う薬の濃度や使用時期によっては薬害が出る場合がある。初めて使用する薬剤はあらかじめ部分的にテスト散布しておくのが望ましい。問題がなければ定期的に予防散布するのも効果的だが、同一薬剤の連用は耐性虫・耐性菌の発生をまねく。むやみな乱用もそれはそれで問題がある。

雨よけして上からの灌水を避け、しっかり日照を与えて適切な通風を与え植物体を「締めて作る」ことで腐敗性の病気はある程度までは防除できる。鉢用土の表面が常時湿っていたり、有機肥料が葉に触れていたりするとそこから腐ってくることがあるが、早期に発見すれば日に当てて風通しを良くし、表土を適度に乾かすだけで腐敗進行を止められる「こともある」。

いずれにしても対応策を知らなければ異常に対応できないが、小型野生ランは少しでも作落ちさせるとそのまま回復できずに消滅してしまう事が多い。異常や作落ちを発生させないよう先回りして管理するのが重要である。

読めば読むほど面倒臭いって? ラン栽培とはそういう面倒臭い部分を愛でる変態クソゲー愛好家の趣味である。面倒臭いのがお嫌いな方は最初から手を出さないのが正解である。

まあ、たまたま運が良ければ何も対策せず、対策方法も知らない状態で育てても何年かは何事もなく育つこともある。そのうち枯らして「今年は駄目になった」とかおっしゃる方が少なからずおられるが、それは「駄目になった」のではない。あなたが「駄目にした」のだ。

(続く)

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