Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの枯らし方(その2)

Amitostigma lepidum in habitat.

Higashi village, Okinawa island, Japan.2018

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 自生地のオキナワチドリ。この自生地ではもう数える程度の本数しか残っていない。

 沖縄本島では開発と植生遷移、台風による自生地攪乱などによって毎年のように自生地が消滅しつづけている。以前であれば問題にならなかった程度の採集圧も、今では自生地に最後のとどめをさす要因にランクアップしてしまった。それに加えてまともに育てられる人が(植物園も含めて)ほとんどおらず、採集されたほぼ全個体が消費的に栽培されている。現時点ですら県内にはまったくと言ってよいほど栽培品として残っていない。このままであれば、20年も経てば本島では野生・栽培を問わずオキナワチドリを見ることは不可能になっていると思う。

 さて、前回に続いてオキナワチドリの「枯らし方」をまとめておく。

3.肥料を与えない

 オキナワチドリは肥料に対する反応性が良い。肥料をどっさり与えると「翌年の」生長が露骨に良くなる。

 前回で書いたように、当年に吸収された養分は球根に蓄積されて、翌年になってから使われる(ように見える)。つまり、肥料をやってもやらなくても、その年の生育はそう極端には変わらない。充実した球根を植え付けていれば、どんな栽培をしてもその年は普通に花が咲く。「肥料なんかやらなくても普通に育つ」初めて栽培した人だとそう思ってしまうが、そこが最大の落とし穴。順調に育っているように見えるが、じつは「球根の水栽培」をしている状態だ。翌年にどうなるかは言うまでもない。

 常識的に考えて、必要以上に濃い肥料を与えれば肥料負けする・・と思うのだが、肥料過多で枯らしたという話は聞いたことがない。海岸の海水をかぶるような場所にも生える植物なので、おそらく過剰塩類などに対する抵抗性が強いのだろう。(これは推測であり根拠は無い。引用しないように。)

追記:ただし肥料過多だと枯れないまでも、葉に黒斑が出るなどの生理障害が出やすくなる。

 オキナワチドリは土中深くにストロン(地下茎)を伸ばして新球根を作るので、用土内に肥料を混入しているとストロンが肥料に当たって傷む。そこで置き肥、もしくは液肥を使って肥培する。まあ肥料をやりすぎれば、大きくなりすぎて風情が無くなるのだが、そういう心配は風情が無くなるほど大きく育てられるようになってからすればよろしい。肥料不足で一年ごとに小さくなっていくほうがはるかに怖い。オキナワチドリは衰弱しきって手遅れになるまで体力を絞りきって花が咲き続けるし分球もするので、初心者は「いきなり枯れた」と勘違いしやすい。

 ちなみに「山野草的にちょうど良い大きさ」は、オキナワチドリの場合、何かトラブルがあった場合には速攻で回復不能になるような、余力の無いサイズだ。「小さく締めて作る」というのは弱っても簡単に回復可能な、生育の早い植物にのみ許される話。体が弱いのに貯蓄が無いミニマムライフは無駄のないライフスタイルではなく、命の危険をともなう貧困である。

(余談になるが、沖縄ならではの例外的事例として、鉢植えを庭に置いておいたら種子が風で飛んで他の植物の鉢植えの中から次々と発芽してきたという話がある。本土で言えばネジバナと似ている。そういう苗の場合には栄養分を供給する「ラン菌」が共生しているのでまったく肥料を与えなくてもしぶとく育つ。しかしネジバナと同様にそのままだと短命で、植え替えて管理栽培に移行しないと菌類遷移と共に消滅する)

 なお、与える肥料の種類(ブランド)や成分比率が生育に大きく影響するが、それに関しては「育て方」になるので割愛する。生育中期以降に有機肥料を与えすぎると窒素過多で葉がゴワゴワになって花が歪んだり葉先が茶色くなったり、初期から粉末ハイポネックス単用だと窒素不足で葉色が悪くなって大きくなりづらかったり、まあだいたいは園芸常識の範囲である。オーストラリア産の貧リン酸地域樹木のようにリン酸肥料を与えたら即死するとか、そういう特殊な性質は特にない。「普通に」肥培すればよろしい。

 ラン科基準での「普通」がよく判らない? そういう奴とはここでお別れだ。運が良ければ生き延びられる事もあるだろう。

 

4.植え替えをしない

「植え替えしてないけど、今年も元気に花が咲きました」2年目の栽培者に多い勘違いがこれである。

 オキナワチドリにはどうも連作障害があるようで、毎年きちんと植え替えて新しい用土に更新しないと生育が悪くなる。また、オキナワチドリは長く伸びた地下茎の先に新球根を作るので、新球根が鉢底の変な場所にもぐりこんでいることが多い。植え替えしないでいると鉢底から芽を出したり、地上に芽を出せずに途中で腐ったり、芽が出ても鉢底の水分環境が良くない場所で育つことになって新球根の肥大がものすごく悪くなったりする。

 何度も言うようだが、オキナワチドリは球根がまともな時には少しぐらい環境が悪くても花が咲く。「植え替えなくても元気に育つんだ」と思って安心していると、その年の植え替えの時に新球根がほとんど形成されておらず愕然とすることになる。まして「今年も元気に育っていたし、さらに一年ぐらい植え替えなくても大丈夫だろう」などと考えるのは馬鹿の極み。3年目にはもう1本も発芽してこない。

 オキナワチドリは毎年の植え替えが必要不可欠。植え替えが嫌いな人は最初から手を出すべきではない。また、生育中の植え替えが難しい(植え替え自体は可能だが、新球根のできる地下生長点をうっかり傷つけると回復不能になる)ので休眠中か、遅くても発芽初期までに時期をのがさぬよう植え替えておかねばならない。「うっかり放置して葉が伸びてきてしまったから、今年はこのまま育ててしまおう」はい、アウト。あなたは性格的にオキナワチドリとは相性が悪い。他の植物の栽培をお奨めする。

(続く)