Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Calanthe discolor var. kanashiroi.

from Okinawa island.

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カツウダケエビネ沖縄本島特産のジエビネ南方変種で、外見的にはジエビネと大差が無い。耐寒性が高くないので、降霜がある地域では屋外越冬は難しい模様。

一般には花に香りがあるとされている。しかし香気成分が特殊らしく、人によって匂いの印象が極端に違うようだ。同一株を皆で嗅いでみても、バニラ風という人もいれば柑橘系に近いという人、中にはまったく感じとれず無臭だという人もいて感想が一致しない。管理人の鼻だと、この個体の場合はニオイエビネにミントを混ぜたような独特の強い香気に思えるのだが、おそらく個人ごとに感じ方は異なると思われる。いずれにしても、本土産のジエビネと香りが違うという点においてはおおむね意見が一致するようだ。

栽培は不可能ではないが、栽培に向いているとは言い難い。春咲きの原種エビネ類は各種の植物ウイルスに感染しやすく、症状が強く出ると植物体全体に壊疽斑が出現して見るからに気持ち悪い姿になる。栽培指南書には「ウイルス病は不治で、感染源にならぬよう焼却処分が望ましい」と書かれている。

実のところ栽培植物は10年も育てていれば何らかのウイルスに感染してしまうのが普通のようだ。丈夫な植物だと強毒性ウイルス以外でははっきりした症状が表に出てこないので、感染していても気がつかないだけらしい。

春咲きエビネ類は感染して無症状で済むほど強健ではなく、さりとて枯死してしまうほど虚弱でもない。結果として半死半生の状態になりながら生き続け、悲惨な姿を栽培者に見せ続けてくれる事になる。普通の人なら一度経験すれば、もうエビネにはかかわらないようにしようと思うだろう。

ただ、理想的な環境で何年もきちんと育てていると植物体内のウイルス量が減ってきて、見かけ上は健全な植物に見えるぐらいに回復させられる場合「も」あるようだ。これは俗に「マスキング状態」と呼ばれている。ウイルスが消滅しているわけではないので他株への感染源になるし、株分けして他人に渡したりすれば環境変化のストレスで一気に発病する。

そういう株は思い切って廃棄するか、育てるなら厳重に隔離栽培する必要があるが、体力が回復している時期には交配して種子を採ることが可能になる。完熟種子を無菌培養すれば高率で無病苗が得られ、次世代につなげることができるとされている。園芸流通している交配種エビネは発病株を処分し、新規世代を育成して使い捨て商品化していく方向で商業化している。種間雑種だと原種より丈夫なのでウイルスに感染しても激烈な症状が出にくく、初心者であれば気づかない程度の病徴にとどまる事「も」あるようだ。

理屈の上ではカツウダケエビネも無菌培養で継代すれば栽培化は可能だろう。しかし一般家庭には理想の栽培環境など無いのが普通なので、デリケートな原種を育てれば遅かれ早かれウイルス症状が出現してくる。「栽培に向いていない」という結論が変わることは無いだろうが、希少種なので庭植え(沖縄の場合)の放任栽培で良いから保存しておいてほしいと思う。

 

in Habitat. Okinawa island, Japan.

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上記画像は2月に、某学者先生の調査に同行して自生地で撮影したもの。乱穫されて山奥にしか残っていないので、案内人がいないと見つける前に遭難する。開花時には気温が上がって毒蛇ハブの活動が活発化するので、管理人は怖くて一人では自生地に近寄る気すらおきない。