Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Arisaema heterocephalum subsp. okinawense

オキナワテンナンショウの交配・実生データをまとめ直しておく。

Female flower in 2012.

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オキナワテンナンショウ雌花、2012年12月。雌花は葉より下に咲く。

 

Pistil

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 仏炎苞を切り取って、雌花の柱頭を露出させた画像。

 緑色のトウモロコシのような部分が果実になる。粒の中央にある白い点が花粉を受け取る柱頭(メシベの先端)。てっぺんにあるトゲ状の部分はただの飾りなので無視する。

 

Stamen

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 こちらも2012年に撮影した、雄花の葯胞。成熟すると紫色の粒が割れて灰色の花粉がこぼれ出てくる。それを爪楊枝や細筆ですくいとって雌花の柱頭につける。

 交配自体は難しくない。しかし雄花と雌花が同じ年に咲いてくれるとは限らないし、雄株と雌株が揃っても成熟する日が微妙にずれる事も多い。当然ながら所有している親株の数が多ければ多いほど交配のチャンスは増える。雄花のほうが早く咲いた場合には花粉を採取して冷蔵保存しておくなどの方法もあると思うが、まだ試したことはない。

 ちなみにわが家では異なる系統の株同士でしか交配したことが無いので、分球した同一系統の株同士で交配(つまり実質的に自家受粉)した場合にどの程度の近交弱勢がおきる、又はおきないのかは不明。

↓テンナンショウ基本知識の解説サイト

 余談だが、テンナンショウの中にはキノコバエの雄を誘引する性フェロモン類似物質を花から発散させているものがあるらしい。テンナンショウの種類ごとに異なる種類のキノコバエが集まるので、人間の目には同種にしか見えない(交雑も可能な)テンナンショウが同所的に自生していても生殖隔離されていたりするそうな。

today fruit.

crossing in 2014.

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 昨年末に交配した果実。完熟まで1年以上かかり、親株の体力が乏しいと途中で花茎が腐って倒れて中の種子ごと「流産」してしまうので種子をゲットするまでは油断できない。とりあえず無事に夏を越したので、このまま順調にいけば12月~翌年1月頃に完熟する予定。

*12月追記。無事に熟しました(下段12月14日記事が同一果実)

mature seeds.

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 こちらは昨年採れた完熟種子の画像。本土産の一般的なテンナンショウと比較して種子が一回り以上大きい。まだ未熟な状態だと白色~白色地に黒い斑紋で、完熟すると全体的に黒くなる。多少未熟でも発芽は可能のようだが、完熟しても発芽抑制が生じたりする事は無いので、できるだけ成熟させてから採種する。

 こういうパーフェクトな種子が得られた場合はほぼ100%発芽するが、発達の悪い種子しか得られなかった時は播いても高率で腐ってしまう。

 

seedlings.

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 テンナンショウの中には地下で発芽して一年過ごし、翌春になってから葉を出してくる種類も多い。しかし本種は採り播きにすれば1~2ヶ月で地上に発葉してくる。右の株の根元・左側に写っている球体は球茎でなく種子。まず根が出てきて、次に根の根元を破って葉が伸びてくる。

 

sowing in  12/2014

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播種後約1年。

 

sowing in 12/2013.

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 播種後約2年。幼株の新球茎は地下に向けて斜めに潜りながら生長していくので、形が均等でない。

3Years after sowing.

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3年目で1株だけ初花(雄花、葉の上まで伸びる)が咲いた。

2021年追記:8 Years after sowing.

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 中央の生育が良い個体は播種後8年かけて草丈60cm弱の充実した雌株になったが、右側の生育が良くない個体(交配のため仏炎苞は切り取ってある)はいまだに雄株。一番左の個体はその中間で、雌花と雄花が半分ずつの両性株だった。

(雌株の仏炎苞の先端が垂れ下がっていて、途中で折れて萎れてしまっているように見えるが、こういう状態で正常である。正直言ってあまり美的ではない)

 こういう感じで、1世代を育成するだけで10年がかりになる。ここまで生育が遅いと乱穫されればあっという間に絶滅すると思う。

 本種はテンナンショウとしてはデリケートなほうで、生育中に置き場所を変えたり植え替えたりすると地上部が溶けて休眠してしまうことがある。また肥料好きだが肥料負けもしやすく、急いで育てようとして肥料を与えすぎると逆効果になる。

 熱帯植物と一緒に温室で育てるような高温植物ではないけれど、冬緑性で低温耐性はあまり強くない。よって本土で栽培する場合には本種に合わせた高からず低からずの温度環境を作らなければならず、そういう点も含めて取り扱いが少々面倒臭い。

 それでいてあまり美麗でもないので、日本産テンナンショウ全種コレクションを狙っているようなイカれたした園芸マニアでもなければ本気で栽培に取り組まずに駄目にしてしまう。まあ同じ手間をかけるならもっと観賞価値の高いアマミテンナンショウやタイワンウラシマソウを育てるのが普通の感覚というものだろう。

 単に珍しいというだけで、真の園芸需要はかなり少ないと思われる。だからこそギリギリの所で盗掘による絶滅をまぬがれているのだろう(とは言っても案内人無しで入り込めるような場所ではとっくに取り尽くされ、すべて消費されてしまった模様)

 予備知識も無いのに何でも欲しがる初級ガーデナーの存在を考慮に入れなければ、20球もあれば日本全国の栽培需要が満たされてしまうのではあるまいか。そんなものをなぜ殖やしているのか自分でも謎。

 本来なら沖縄の某植物園にでも増殖プロジェクトをお願いしたいところだが、現実には色々と難しいようだ。

*2021年追記。沖縄の某植物園で人工増殖プロジェクトが開始された模様。令和2年の時点で野生採取種子からの実生が10株得られているそーです。