Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Habenaria dentata 'Leafless'

Habenaria dentata 'Leafless form'

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ダイサギソウ変異個体「開花時葉無し」。

  本土産(産地不明。鹿児島?)のダイサギソウの実生から選別された系統。未開花苗(下方に写っている株)は普通に葉があるが、開花球になると葉を出さずにいきなり花が咲く。

  プテロスティリス属には同様の性質を持つ種類があるが、他のランではこういう性質のものはあまり聞いたことがない。開花すると栄養分を使いはたして枯れる・・かと思いきや小さい球根を作ってまた再生長してくるので、個体寿命は標準個体と同程度。まあウイルス耐性が乏しいので実生更新しないとどのみち系統維持はできない。

 異様に開花が早く、うちの棚ではこの時期に咲く。本土でもあまり加温しなくても7月下旬には咲くようで、関東以南であれば気温が低下してくる前に完熟種子が得られる。これらの特性は遺伝性があるので実生するとどんどん殖やせるのだが、鑑賞的には微妙なので積極的に殖やした方はいない模様。

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ちなみに花は普通の本土型ダイサギソウである。業者が少数だが販売した事があるようだが、普通のダイサギソウとして売られているらしい。購入者が「なんか変な株だった」と首をかしげながら報告しているのがネット上で観測された。

Passiflora quadrangularis

from south America, cultivate in Miyako island, Okinawa, Japan.

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オオミノトケイソウ

 パッションフルーツ類で最大の果実をつける種類で、熱帯域ではパパイヤより大きな実をつけるらしい。画像は宮古島で栽培されたもので、手のひらぐらいの大きさ。

 他の果物と同様、系統によって酸っぱいもの、甘いもの、香りが強いもの弱いもの、と味わいに個体差がある模様。画像個体は爽やかな酸味とはっきりした甘味、ほどよい香りがあってなかなか美味だった。

 ただしゼリー状の果肉(仮種皮)と種子は非常にはがれにくく、口に入れて種子だけ吐き出すのは現実的に無理。画像の種子は固くなかったので種子ごとカリカリ噛み砕いて食した。

 ネット情報では「外側の果肉も食べられる」との事だったが種子全体を覆っている皮膜は噛みきれないほど丈夫で食用には不適、白い果肉は柔らかいがほとんど無味でわざわざ食べるほどのものではなかった。

 

*2020年8月追記。

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試しに種子を蒔いてみたところ、1ヶ月ほどで発芽してきた。しかし生長した親株はブドウ棚に這わせるくらいのサイズになるし、大鉢植えにして育てたとしても一株だけでは受粉もしにくいらしい。今後も育てていく場所的余裕はわが家には無いのでどうするか思案中。

ネルビリア? それは栽培ではなく、ただの延命

單花脈葉蘭 (通称、台湾ムカゴサイシン)Nervilia taiwaniana

seedlings , 2019 deflasking.   

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 種子から育成した無菌培養実生。令和元年フラスコ出し、今年度初花。

関連記事はこちら。

 「台湾ムカゴサイシン」は数十年前に台湾から少数が輸入され、たまたま栽培上手な趣味家の棚に収まったため増殖されて100人くらいに分譲されたと言われる種類である。おそらく国内で流通しているのは、その一系統の栄養繁殖品だけだと思われる。

 しかし栽培がクソ面倒(ものすごく環境を選び、好適条件からズレると元気に見えていても新球茎ができなくなる。植え替えや施肥なども完璧にこなさないとジリ貧になって消滅するため、栽培方法を理解していてもちょっと油断すると簡単に全滅する)なので最初の栽培上手からバトンが渡された後、さらに普及が進んでいく事はなかった。

 まだ国内絶種はしていないようだが、商業増殖はゼロなので売品として出回ることは極めて希。まあ現状としては「みんな育てたがったが難しすぎて長期間育てられた人はほとんどいなかった」と総括しておくのが妥当だろう。ネットで検索しても最近の情報はほぼ途絶えている。

 コロナ以前には海外業者が来日時にハンドキャリーで持ち込んだ熱帯産ネルビリア属が普通に流通していた。しかし栽培条件などを考えると、作落ちさせることなく(どんどん小さくなって数だけは殖えている状態にならずに)10年維持できている趣味家は相当に少ないと思う。

・・いやまあ栽培不可能とは言わないが、様子がおかしい、と気づいた時には回復不能になっているので気が抜けない。「元気に見えている」段階で状況に気付ける方でないと長くは付き合えない。育てていて、とてつもなく疲れる植物である。

 そういう方が運良く自分の生活や健康が安定し、情熱も失わず愚直にひたすら世話を続け、順調に増殖できたとしよう。極端に栽培者を選ぶ植物なので、そこから先にバトンタッチする相手がたまたま「すごい人」で、再び増殖に成功するという事は確率的にものすごく低い。育てられもしない方々が手を伸ばしてきて消費され尽くす事が確定している。異論は認めない。

 「結局は救えない、最後に虚無が待っている」クソのような現実ばかりを長年見ていると「俺はネルビリアの栽培に成功した!」などとイキるのはただの中二病だとしか思えない。一個人が一時期だけ頑張ったところで、大局的に見れば人里になじめない野生植物を遊び道具にして命を奪っているだけである。管理人は反省と注意喚起のため自分がやってしまった阿呆を晒しているが、阿呆である事を自覚していないと(していても大差は無いが)ただの痛い人である。

 繰り返すが、売っているのは山盗り苗で、かつ大局的には栽培不能属なのでこういう物に手を出してはいけない。

Rhododendron tashiroi

サクラツツジ沖縄本島国頭村にて。

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 高知県、九州南部から奄美、沖縄、台湾にかけて分布するツツジ国頭村の村花。

 花は美しいが、樹形が間延びしやすく鑑賞栽培にはあまり向いていない。そのため斑入りなどの変異個体以外はほとんど苗が出回らない。

 まあ園芸用であれば育て易く鑑賞価値も高いツツジがいくらでもあるので、わざわざ本種を育てる必要は無いと思う。野外で咲いているのを見つけてほっこりするのが良い。

 余談だが、奄美在住だった日本画家、田中一村(1908-1977)の作品に「サクラツツジオオタニワタリ」という作品がある。美術館で現物を見ると背筋がぞくりと来るような迫力ある絵なのでご紹介したかったのだが、ネットで検索してもピンボケ画像や縮小画像、部分カットした絵など、本物の迫力が何一つ伝わらない画像しか引っかからなかった。

「銀の丘」再始動

 世界的に名を轟かせていた南アフリカのシードハンター、シルバーヒルシードの園主ご夫妻が盗賊(本物)の襲撃によってお亡くなりになった事件からすでに3年。

 南アフリカの固有植物(固有蘭も含む)を一手に扱っていた貴重な業者もこれで活動停止か? と心配されていたが、このほど後継者の方がホームページをリニューアルオープンした。

(上記がリンク切れの場合、Silverhill seedsで検索してサイトにアクセスしてもBandwidth Limit Exceeded(サイトの月毎の契約転送量が使い切られたため、来月まで表示できません)になっている場合があります)

 南アフリカ産の地生蘭は一般的に菌依存性が高く、フラスコ培養する時に普通の培地では育てられない種類が多い。どちらかと言うとアツモリソウとかオフリスとか、そういう変態ランの培養手法に近い。

 そういうランの種子を取り寄せて鉢播きで開花させてしまった恐るべき方(管理人ではありません)も日本国内に存在していることを確認できるのが、インターネットの恐しさである。

 とりあえず再始動を祝いたい。

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ちなみに現在は販売していないが、こういう珍品の種子も販売していたことがある。

*2021年、関連記事を追加

海マリモ

沖縄島固有の希少植物、クビレミドロ Pseudodichotomosiphon constrictus

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海藻の一種だが、緑藻でも紅藻でも褐藻でもないクソ珍しい植物。知人は海マリモと呼んでいるが、マリモとは縁遠い。

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絶滅が危惧されているため人工培養法が研究されているが、報告書を読んでみると個人では取り組む気にもならないほど育てるのが面倒臭い。まあこういうものは一般人は野外で観察してフーンと感心しておく以外に何もできない。

 

 強烈な日照と清浄な海水、適度な流れがあって泥が沈殿せず、それでいて波で荒れることもない綺麗な砂の浅瀬、つまり今の沖縄ではものすごい勢いで消失しつつある特殊環境に局所的に残存しているにすぎないので、いつまで観察できるか非常に怪しい。このへんはまあ、沖縄の開発と土木利権がとんでもなくアレで、しかもコロナで将来性がポシャって自然環境保全も開発計画も両者共に焼け野原、県民の得になる要素が何一つ残ってないんですが、という話になってくるのだけれども、精神的によろしくないのでやめておく。

 

 沖縄には淡水エビの筋肉に寄生するマリモの親戚とか、陸封化されたアオサ属とか、昔は食用にされていた淡水モズク(紅藻)とか、生物好きが聞いたら「え、そんなのいるの?」と食いつきそうな藻類も多いのだが園芸ブログとは無関係な連中なので省略。お暇な方はググってみると視野が広がると思う。