Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Amitostigma lepidum

2020 seedling

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オキナワチドリ実生。

市販の実生苗には、こういう妙な個体も混入していた。

そういうのを探してきて、交配親にして遊んでみるのは楽しかった。

 

過去形である。市中にある実生苗はそのうち消える。維持増殖していた人はもういない。

Amitostigma hybrid

Ponerorchis lepida X Shizhenia pinguicula

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オキナワチドリ X 中国大花チドリ。

某業者が販売している交配種。

 以前は両親ともAmitostigma(旧イワチドリ属)だったが、現在はオキナワチドリはPonerorchis(ウチョウラン属)に統合され、学名もAmitostigma lepidumからPonerorchis lepidaに変更された模様。

 中国大花チドリのほうは独立属として分類しなおされ、Amitostigma pinguiculaからShizhenia pinguiculaに変更されたらしい。

 現在の分類基準に従えば、この交配種は属間交雑ということになる。外見的には両親の中間型で、花粉親と比較して特に優れている部分も見当たらない。遠縁交配なので近縁種交配のような雑種強勢は生じず、むしろ性質は虚弱になっている。ほぼ不稔なので交配育種をここから先に進めることもできないし、まあ「面白い」という以外にとりたてて推奨する要素は無い。

 じゃあ何でそんなものを紹介するのか?と言えば、要するにネタ切れである。当ブログは基本的に地生蘭の紹介記事を書いてきたのだが、近年は野生採取株の画像を貼るのは盗掘品を手に入れて自慢している低脳、という風潮になってきたので、地生蘭に関しては貼る画像がもう無いのである。

シンビジウムやパフィオペディルムのような一部の長命種、あるいはシランのような例外的強健種を除けば、地生蘭のほとんどは長期栽培が不可能に近い。

 野生での平均寿命は数年程度で、種子で世代更新しながら生きているもの(ダイサギソウ、スズムシソウ等)や、あるいは個体寿命自体はそこそこ長いが、ウイルス耐性が乏しくて健全に長期栽培することが難しいもの(エビネ、サギソウ等)、すぐ腐るので環境などを厳密に整えないと生かしておく事自体が難しいもの(シュスラン系、コリバス等)など致命的な難点のある種類ばかりで、常人が何十年も生かしておけるような地生蘭はきわめて少ない。発見後100年以上も栽培下で育て続けられている品種のある、セッコクやフウランとは訳が違うのである。

 突き詰めれば地生蘭の栽培とは、栽培者の思い出作りのために野生個体を消費する行為である。生息域外保全の役には立たないし、園芸の発展にもつながらない。そんなものを育てている奴は、あえて言おう、カスであると。(<管理人含む)

 そう言うと、いや自分はきちんと栽培しているし、殖やしてもいる、と反論なさる方がおられるかもしれない。だが、残念ながら地生蘭に関しては「栽培できている」というのは妄想にすぎない。それは時間や金や労力を湯水のごとくつぎこんで、死に至る植物の延命を続けているだけである。

 栽培者個人にとっては、気が済むまで育て続けられればそれで満足だろう。だが、時間や金や体力が尽きて、延命が続けられなくなった時に栽培品はすべて消滅する。そんなもの社会にとってはクソほどにも意味は無い。

 まあ、商業生産苗であれば枯らそうが煮て食おうが勝手にやれば良い。が、どこでどうやって採取されたか不明の絶滅危惧種を消費栽培している行為を、わたくしの趣味でございますと胸を張って言えるのか? そんなものをSNSで自慢してどう思われるか考えた事も無いとか馬鹿の極みじゃねえの? と、いきなり見ず知らずの人から突っ込みが入ってくる時代なのだよ今は。

 そんな時代だからこそ、希少植物を入手した時はせっせと増殖して苗を世に広めていこう、とか思う若人がもしいるなら言っておく。

無駄だ

 栽培が面倒臭い植物は、生かしておくだけでも膨大なリソースが必要になる。今の時代、誰にもそんな余裕は無い。植物園であろうが民間であろうが、金にならぬ事にとりくむ余裕はこれっぽっちも無い。例外的に金になる、育てられもするパフィオなどはとっくに業者が殖やしているが、それ以外の種類は普通の管理では育てられないので業者や植物園は手を出さない。普通でない方法なら育てられはするが、金や労力の点で永続できない。

 ボランティア的に苗を生産して配っても、最初から真面目にやる気が無い栽培者は3ヶ月以内に腐らせる。そこそこ真面目に育てようとする人でも栽培できるのはせいぜい数年。10年育て続けられる人はまずいない。30年たてば栽培を続けているのはあなた一人になる。頑張って何百本の苗を供給しようとも再生産する人はゼロ、どれだけ多くの人に配っても全部消費されて終了である。年間300万本が生産されるウチョウランが全部消耗品にされている状況を考えれば、数百本の苗など焼け石に水、餓えたサバクトビバッタの群れの中に花を植えるようなものである。

 それでもなお、自分は地生蘭を育ててみたいのだ、という方がいれば、管理人にそれを止める権利は無い。だが、もし育てている奴を見つけたら、容赦なく突っ込みを入れさせてもらう。もし公開するならば、それなりの覚悟を持つがいい。

何?あんたにも突っ込みを返させてもらう?

 もちろんそれは自由だ。他人を撃っていいのは、撃たれる覚悟のある者だけだ。そういう場合に備えて、このブログはクリック一つで記事を全削除して逃亡できるよう設定してある(笑)

関連記事 ↓

 

Aeginetia indica

in Okinawa island.

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ナンバンギセル沖縄本島にて。

草刈りしたあとにススキの根元から咲いていた。葉緑素を持たない完全寄生植物で、ススキなどの大型イネ科の根から養分を吸収して開花する。

あらかじめススキを鉢植えにしておいて、その根元に種子を播けば栽培下で開花させることが可能。鉢物としても出回ることがあり、ネット通販で入手できる。

ただ、開花時期以外は地下生活しているので、蕾が出ている状態でないと生きているのか死んでいるのかわからない。開花結実すると枯死してしまうので毎年種子を播かないと絶えてしまう(実際には種子は何年も地下で休眠しているようなので、一度播くと複数年は生えてくるようだが)こともあり、長期維持は意外と面倒臭い。

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濃色、口紅咲き、純白花などの変異系統も選別されているようだが、真面目に保存栽培している人が限られるので変異コレクションするのは難しいようである。

 

Farfugium japonicum var. luchuense

from Okinawa island, Japan.

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リュウキュウツワブキ奄美大島沖縄本島西表島に分布するツワブキの渓流型変種。つまり増水時に葉がちぎれたりしないように、葉型が小さく細くなったツワブキである。

斑入りや葉変わりなどの選別個体が栄養繁殖されて流通している。ただし専門コレクターがあまりいない植物なので、まとまった品種を一堂に見る機会はほとんど無い。

普通のツワブキと連続した変異があり、交配すると中間型が出てくるそうなので同種と考えるべきかもしれない。が、自生環境が渓流だと大葉種が流され、通常の場所だと小型種が淘汰されてしまうので、その結果として別物に進化しつつあるらしい。

キク科の通例通り自家不和合で、育種が面倒なので意図的に新品種を作っている方はほとんどいない模様。

 

Far.japonicum  #1 in Okinawa island

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こちらは参考までに普通のツワブキ。ちょっと丸弁。

 

Far.japonicum #2 in Okinawa island.

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 こちらも普通のツワブキ。やや細弁。個体差が大きいが、花物としてはあまり注目されていないようである。

ヨナグニイソノギク(ヨナクニイソノギク)

Aster asagrayi var.warkeri

from Yonaguni island, Okinawa, Japan.

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 ヨナグニイソノギク。(環境庁の資料ではヨナ「ク」ニイソノギクだが、現地の地名発音がヨナグニなので当ブログでは意図的にヨナグニと書いている。)

 平成31年度に特定第一種国内希少野生動植物種に指定されたため (栽培する事に規制は無いが)手に入れる場合は申請許可済の業者から入手しないと違法になる。

 画像個体は管理人がまだ若かった頃に種子を入手して、自宅で継代維持しているもの。法律施行前の入手なので法的な問題は無いが、許可業者以外に譲渡すれば違法になる。

 

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交配して種子を採る。採り播きでも良いが、危険分散のため一部の種子は取り分けて保存しておいたほうが良い。採種後すぐに冷蔵庫に入れておけば、2年以上経った種子でも発芽する。(3年目までは実用上問題ない程度に発芽する事を確認している)

 

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 発芽は遅く不均一で、播種後1ヶ月ぐらいでポツポツと芽が出てくる。病害に弱いので、有機物を含まない清潔な用土に播種し、発芽後に園芸用殺菌剤を散布しておく。

 キク科としては根が虚弱で移植はあまり好まない。小苗のうちに注意深く小分けして、育ってきたら鉢土ごと大きな鉢に移していくほうが安全。量産するならプラグ苗にするのがベストだろうが、需要は少ないと思うので蒔く量は最小限に留めている。

 なお、近交弱勢をおこさずに他株受粉を続けられる最小個体数は不明。おそらく2株だけでは足りないと思われるので、管理人は複数年度の種子を蒔くことによって、遺伝子の多様性を維持する事を試みている。

 

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 余剰苗は認可業者に押し付ける予定。油断すると根腐れや病虫害でバタバタと枯れるので「キク科としては」かなり栽培困難な部類だと思う。

  これが民間でできる生息域外保全・・などとSNSなどでドヤれば騙される馬鹿が一定数いるだろう。言っておくが、趣味家の栽培がこの種の保護に役立つ可能性はゼロである。なぜかと言えばヨナグニイソノギクは栽培不可能種だからである。

 まあ管理人は殖やしている。が、それは採算度外視で、思い入れだけで面倒臭い維持栽培を毎年継続している狂人だからできる話であって、普通の人には一時的栽培しかできない。管理人から誰かに保存栽培がバトンタッチされる可能性は無いので、遅かれ早かれ絶える運命にある。つまり長期的視点では消費栽培をしている。

 この種は短命な多年草で、開花すると高率で枯れる。まだ元気なうちに挿し芽などで未開花苗を作っておけば維持できない事も無いが、「キク科としては」発根率が低いので本気にならないと栄養繁殖苗が作れない。

 根を切ると回復に時間がかかるが、一方で根詰まりさせるとすぐ枯れる。同一個体を維持したければ生育適期に必ず移植、あるいは挿し芽をしておくことが必要不可欠。

 手入れをさぼったまま夏・冬に突入して状態が悪くなると、あわてて移植しても回復・発根せずそのまま枯れてしまう。こまめに世話できれば難物ではないが、少し目を離すと気がついた時には回復不能になっている。

 親株はそこそこの大きさになり水分の吸収・蒸散が激しい(それでいて過湿には弱いので腰水などは避けたい)ので、それなりの大きさの鉢か、あるいはプランター栽培でないと育成しづらい。つまり栽培にも場所をとる。

 霜に当てると枯れるので、本土であれば冬期にある程度の保温が必須。しかしビニールハウスにプランターをいくつも持ちこんでまで栽培したいような草ではないので、手を出しても冬の置き場所に困り、翌年にはそのまま管理放棄するのが普通である。

 沖縄であれば露地で大量栽培も可能だが、前述のようにこまめに植え替えしないとすぐ絶える。与那国島でも植栽で栽培を試みた例があるが、自然更新で苗が育つような場所ではなかったため1年で消滅した。

 弱った親株は捨てて種子で更新するほうが簡単だが、自家不和合、つまり一株だけでは種子ができないので採種するためには複数株を栽培しつづける必要がある。

 さらに嫌なのが同属他種とものすごく簡単に交雑すること。沖縄本島のイソノギク自生地の近在で栽培したら虫媒で野生個体群に遺伝子汚染をひきおこしてしまう。(10kmぐらいは花粉媒介されるとも)

 そういう場所から離して栽培していたとしても、圃場に同属のダルマギクとかユウゼンギクとか栽培していたら採種更新するのはアウト。もし栽培するなら農業用防虫ネットで厳重に隔離するしかない。

 アスター属で本種より鑑賞的に優れた種類はいくらでもあるので、そういうものを無視して本種のみを苦労しながら維持栽培する、などという行為は客観的に見て異常者の所業である。

 よって本種は現実的には栽培不可能。地域によっては栽培禁忌ですらある。

 野生植物には、こういう感じで「苗をもらってきて一時的に育てるのは簡単だが、真面目に長期維持しようとすると超絶に面倒臭い」という植物が稀ではない。

 園芸種でも、たとえばパンジー。苗を植えて花を楽しむだけなら栽培スキルもその種類に関する知識背景も不要。園芸ジャンルの中では入門種中の入門種とされている。だが、業者と無関係に自分一人で10年維持しろ、と言われたらあなたには可能だろうか?

 パンジーは耐暑性が乏しく、日本のほとんどの地域では1年草扱いになる。つまり種子が採れなければ維持できない。パンジーは1果実の種子量が少ないし、完熟するとはじけてどこかに消えてしまう。交配する労力を抜きにして、きちんと採種するという作業だけでも実際にやってみるとものすごく面倒くさい。

 しかもパンジーは他花受粉させないと弱化してくる。純系ではなく遺伝的に雑駁なので、そういうもの同士を自然交雑させたら観賞価値の低い妙な花色の個体がゾロゾロ出てくる。狙って人工交配して採種、育苗、実生選別して次世代の親株を選抜して・・というのを業者任せにせず自分でやったら時間的・労力的、何よりも栽培面積的に破綻確定である。(なお、日本国内にはパンジーを個人育種して名花を作出している方々もおられるが、パンジー専門でガチに取り組んでいる事例なので例外とする)

 要するに「パンジーが簡単」というのは面倒な部分を育成業者に丸投げして、美味しい部分だけをつまみ食いしているから成り立つ話である。自分一人で10年維持、という条件なら寒蘭のほうがはるかに簡単だろう。

 そういうバックヤードの苦労をな~~~んにも考えずに「素人はパンジーでも育てていればいい」とか、寝言は寝て言えという感じである。本来ならば「素人は寒蘭でも育てていろ」が正しかろう。

 「本来は難しい」部分を毒抜きした上澄みだけが園芸雑誌に載る。それを見て「消費者」が飛びつき業者の栄養分になる。まあ商業生産者がバックに控えている一般園芸は消費栽培で何一つ問題はないのだが、山盗り非自家生産の苗を扱っている業者/購入者が、面倒な部分が何も見えていないまま「栽培できます/してます」と言っているのを見た時には辛いものがある。

 結局のところ、希少種は全部法律で縛って栽培に規制をかけていくしか無いのだろうと思う。

オキナワチドリの球根

Amitostigma lepidumAmitostigma lepidum tubers.

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 オキナワチドリ交配実生の球根。

 交配実生は栽培に適した個体が選別されているので、肥培すれば肥培しただけ素直に大きくなり増殖も良い。沖縄本島産の野生個体だといくら頑張って育てても球根はせいぜい大粒ピーナツ程度、一般的な個体だと増殖も悪いので少しでも油断すると作落ちして消えて無くなる。

 なので栽培するなら交配実生を購入しましょう・・と強く主張しつづけているのだが、オキナワチドリ栽培に興味を持つ方はほぼ例外無く野生個体のほうに手を出す。

 思うに、野生蘭愛好家というのはただのレア物コレクターであり植物愛好家ではない。千人切りを目指している遊び人であって、一生を共にする相手は最初から求めていない。

 まぁ本気になったらなったで、常人には付き合いきれない相手だと悟る事になる。ほとんどの地生蘭は「普通の育て方」だと消費栽培しかできない。うっかり手を出した時点で負けである。

何これ

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in Yomitan village, Okinawa island.

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ススキっぽい何か。沖縄本島読谷村にて撮影。

印象としてはススキの種子が穂から脱落せずに発芽している、という感じなのだが、穂の形自体が変形しているようにも見える。あるいはヤグラネギのススキ版というか。

ヤグラススキってあったっけ?と思って検索したけれど該当無し。生理障害なのか変異個体なのか何かの病気なのか、管理人の知識では鑑別できず。

サイズ的にも鑑賞的にも栽培したい感じではなかったので、撮影だけして帰ってきたのだが、これが何者かご存知の方がいらしたらご教授いただきたい。