ダイサギソウは栽培不可能(異論は認めない)

Habenaria dentata ’Hakuho-zhishi'(White Phoenix)

from Okinawa island, Japan.

f:id:amitostigma:20181011162325j:plain

ダイサギソウ「白鳳獅子」系。沖縄本島で見つかった変異系統。亡き師匠が発見者から譲り受けた個体がオリジンだそうで、管理人は師匠から種子を分けてもらって無菌培養で育成、その後も実生で定期的に継代しながら30年ほど育て続けている。

サギソウの変異品種「飛翔」と同様、側愕片が花弁化している系統で、山野草用語では「獅子咲き」と呼ばれている。系統名は管理人の師匠が命名したもので、ダイサギソウの台湾名「白鳳蘭」の獅子咲き系統という意味だと聞いた記憶がある。

変異の遺伝様式も「飛翔」と同じく優性遺伝で、他種のハベナリアと交雑した場合でも実生に獅子咲きが出現するので、交配親としても興味深い。

 

left:'Hakuho-zhishi'

right:Normal frower from Kyusyu island, Japan.

f:id:amitostigma:20181011162342j:plain

左が「白鳳獅子」、右が鹿児島産の日本型標準花。ちなみにダイサギソウの花型は産出国によってかなり違いがある。日本本土から四国・九州までのダイサギソウはほぼ同一で混ぜてしまったら識別できないが、台湾以南の海外産ダイサギソウは花型だけで国産と見分けがつく。

沖縄産は外見的には本土産と同じだが、生育適温や開花期が異なるので栽培上は本土産と大幅に異なる管理が必要になる。さらに熱帯アジア産ともなれば本土産とは別種と考えたほうが良いほど性質が異なっているので、はっきり言って「初見殺し」である。産地不明のダイサギソウは、どれほど安くても初心者は入手すべきではない。

 

seedling

f:id:amitostigma:20181011162405j:plain

「白鳳獅子」系実生、2018年フラスコ出し初花。大部分はまだ未開花。

ダイサギソウは株が老化してくると分球しなくなり、ウイルス耐性も低いので長期維持は難しい。本土産個体を20年以上育てているという方もおられるようなので、育て方によってはそれなりに長生きすることもあるようだが、管理人の栽培だとせいぜい10年ぐらいしか持たない。安全率を考えて5年に一度くらいは実生し、常に3世代くらい同時に育て、古くなってウイルスに感染した個体を若い個体と入れ替えながら維持している。

ダイサギソウは近交弱勢の激しいハベナリア属としては例外的に、一株だけで自家結実して無交配でも勝手に種子ができてしまう性質をもつ。そのため系統維持する場合に、交配親として多数の個体を維持しつづける必要が無い。また無菌培養が容易だが、鉢蒔きでもネジバナの次くらいに実生発芽率が良い。それゆえ日本で入手可能なハベナリアの中では、最も系統維持しやすい種類の一つである。

 

seedling

f:id:amitostigma:20181011162426j:plain

実生初花。

希少な系統なので、自分一人で育てていて絶種させてはいけないと思い、殖やした苗は積極的に草友に譲ることにした。とはいっても栽培が易しいとは言い難い草なので、渡す相手はそれなりに選ばせてもらうことにし、植物園などにも渡しておいた。入手してからの20年で、のべ100人ほどに配っただろうか。まあ全員が栽培に成功することは期待していなかったが、3人ぐらい真面目に維持してくれる人がいれば、絶種の危険は大幅に減るだろうという目論見である。「この草は実生更新が必須ですから、必ず実生を試みてください」と全員に言い添えるのも忘れなかった。

結果から言うと維持してくれた方は一人もいなかった。植物園は初年度に栽培を失敗した。ある程度の年月、栽培できていた方は少なからずいたのだが、真面目に実生増殖まで試みた方は皆無だった。無菌培養技術のある方も、漫然と育てるだけで播種しようとはしなかった。追加配布を中止して10年、現在では配布した全個体が消滅しているようだ。

まあ、思うところは色々あるが語るのはやめておく。判ったことは、自分がいくら一所懸命に殖やしても、維持する事に興味のない趣味家が一代限りで全部食いつぶしてしまい、最後には何も残らないという冷徹な現実だった。結論としてはダイサギソウは個人がある程度の年月、保持していくことは不可能ではないが、世代を超えて栽培下で残していくことはできない。そういうものは管理人の基準では栽培不可能種である。この結論に対して異論を認めるつもりはない。