Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

ハベナリアを栽培できない理由

Habenaria medusa from seed.

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 ハベナリア・メドゥーサ(ミリオトリカ)。管理人実生個体。初めて入手したのは15年ほど前になるだろうか。それ以来実生で殖やしながら育て続けてきたが、結論としては自分には栽培不可能な植物だった。

 まず第一に低温になると球根が腐りやすく、ちょっと油断すると簡単に全滅する。最低温度を20℃以上に保てば腐る確率は大幅に減るが、わが家には洋蘭用の高温温室などという上等なものは無い。結局ハベナリアだけのために室内温室にヒーターを入れて管理することになった。

 完全に休眠したあとの球根であれば乾燥させると5℃くらいまでは耐えるようになる。その状態で販売されている球根を入手すると当地ならば無加温でも越冬できる。それで最初は加温がそれほど必要ないと誤解してしまった。その年の冬に葉が枯れきらないうちに温度が下がったら、新球根ごと腐って絶望することになった。

 結局のところ、いつ頃からどうやって乾かして休眠に移行させるか?などと工夫するのではなく、気温が下がってきたらただちに温室に入れ生長適温域を維持しつづける、が最適解であった。

 安定して越冬させられるようになったと思ったら、次の試練が耐病性である。葉が軟質で腐りやすく雨避けや消毒は必須。加えてウイルス耐性が春咲きエビネ並みであった。「すぐ腐るうえに分球率の低い野生系統のウチョウランが、エビネ並みのウイルス耐性だったら」という状況を考えていただきたい。理想的な環境の温室でのびのびと育って体力充実、アブラムシなどの飛来もシャットアウトしているというような素晴らしい栽培場であれば長期栽培も可能だろう。しかし管理人の手抜き栽培ではまともな病害対策ができていないので、同一個体を10年育てることは難しい。

 やむなく実生更新で新しい苗を育てて入れ替えながら栽培継続してきたが、これがまた無理があった。近交弱勢が激しいのでセルフ実生ではまともな苗ができない。別株を入手し、交配して実生を作るのは難しくないが、それ以降も実生を継続しようとするなら定期的に交配用の親株を購入せねばならない。それなら「枯れたらまた買う」で良いのではないか、という話になる。

 二度と入荷しないような珍種であれば、せっせと実生して栽培維持する意味も無いとは言わない。しかし永続的に維持するためには、近親交配を表面化させずに存続できるだけの個体数が必要になる。個人の限られた栽培数で実生更新を続ければ遅かれ早かれ近交弱勢をおこして滅びる。結局のところ栄養繁殖だけでは長期維持できない地生ラン類は、自分一人で実生していても大局的には無駄な仕事になる。

 某所でそういうことを話したら「何言ってるんだ、ハベナリアなんかそれほど難しいものではない」という反論があった。環境が整っていて、病気を発生させず、枯らしたり腐らせたりすることもない名人であればきっと難しくはないのだろう。5年や10年で枯らすような下手糞が栽培について語るな、と言われれば黙るしかない。

 残念ながら管理人の腕ではとうてい無理である。それが15年で得た結論であった。もう疲れたので実生更新はしない。画像個体が枯れたら終了にしようと思っている。

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