Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Luisia teres var. botanensis.

flask propagation.

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与那国島タカサゴウラン無菌培養。培養データ収集のため播いてみた。何株かは開花まで育ててみる予定だが、大部分は処分することになる。

以前は「希少種を手に入れた時は、増殖して世に広めねば!」とか熱くなっていた時期もあるが、他人に苗を渡すのはやめるべきだと悟った。

タカサゴウランのような地味な植物を欲しがるのは「国産希少種をコレクトアイテムとして入手したい」という人だけである。希少度のステータスが下がると栽培するモチベーションが消滅して、育てられもしない人に譲り渡してしまったりする。栽培下での保存という観点では、株分け個体が1株1万円、一年に一回だけネットオークションに出てくる、というような高値品薄状態が望ましい。(それが健全な趣味と言えるかどうかは別の問題。現実としては価格が高ければ販売目的の山盗りが横行する可能性も高くなる。)

本気で育てたい人は高くても買う。安ければ欲しいという人は買っても大事にせず、短期間で枯らすので栽培者にカウントするのは難しい。供給量を増やしても消費量が増えるだけで実質的な栽培個体数は増えない。本種のような個体寿命が長くて栄養繁殖も可能な蘭であれば、株分けで殖やして流通させるだけで「本当に欲しい人」の需要を満たすには十分だろう。

むろんランの種類によっては個体寿命が短かったり、栄養繁殖しにくかったりして無菌培養で苗を生産しないと系統維持できないものもある。そういうものであれば無菌培養する理由もあるのかもしれない。しかし無菌培養しない人に無菌培養必須のランを提供して何か意味があるのか。

伝聞だが、昭和期の栽培名人、広瀬巨海氏が栽培を止める時、日本有数の希少種コレクションを焼却してしまったと聞く。初めてそれを聞いた時は頭がおかしいのではないかと思ったが、今であれば理解できる気がする。ネット環境もなく身近にいる人材がものすごく限られる時代、安心して後を託せる者は簡単には見つからなかっただろう。心血を注いで育てた植物を何の思い入れも無い連中が持っていき、遊び道具にされて食いつぶされ、後に何も残らない。そんな未来が見えてしまったのではあるまいか。