Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

オキナワチドリの球根

Amitostigma lepidumAmitostigma lepidum tubers.

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 オキナワチドリ交配実生の球根。

 交配実生は栽培に適した個体が選別されているので、肥培すれば肥培しただけ素直に大きくなり増殖も良い。沖縄本島産の野生個体だといくら頑張って育てても球根はせいぜい大粒ピーナツ程度、一般的な個体だと増殖も悪いので少しでも油断すると作落ちして消えて無くなる。

 なので栽培するなら交配実生を購入しましょう・・と強く主張しつづけているのだが、オキナワチドリ栽培に興味を持つ方はほぼ例外無く野生個体のほうに手を出す。

 思うに、野生蘭愛好家というのはただのレア物コレクターであり植物愛好家ではない。千人切りを目指している遊び人であって、一生を共にする相手は最初から求めていない。

 まぁ本気になったらなったで、常人には付き合いきれない相手だと悟る事になる。ほとんどの地生蘭は「普通の育て方」だと消費栽培しかできない。うっかり手を出した時点で負けである。

何これ

unknown

in Yomitan village, Okinawa island.

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ススキっぽい何か。沖縄本島読谷村にて撮影。

印象としてはススキの種子が穂から脱落せずに発芽している、という感じなのだが、穂の形自体が変形しているようにも見える。あるいはヤグラネギのススキ版というか。

ヤグラススキってあったっけ?と思って検索したけれど該当無し。生理障害なのか変異個体なのか何かの病気なのか、管理人の知識では鑑別できず。

サイズ的にも鑑賞的にも栽培したい感じではなかったので、撮影だけして帰ってきたのだが、これが何者かご存知の方がいらしたらご教授いただきたい。

Habenaria fumistrata?

from Thai.

ハベナリア・フミストラータとして入手したラン。タイ産。

学名は Habenaria diphylla が正しい可能性もあるが、近似種が多くて確定できない。詳細は下記(英語)参照。

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上画像とは別の株。ヒゲ(唇弁の側裂片)の角度や長さには個体差がある。

さらに別個体、これはヒゲが長め。

ヒゲがもっと長いタイプ(別種?)もあるようだが、管理人はそちらはまだ実物を見たことがない。

この種群(複数種を含む)は需要が乏しいので、洋蘭業者も輸入する気にならない模様。管理人は国内で売っているのを一度しか見たことが無い。

というか一般基準で言うと栽培不可能種に属するので、見かけても手を出さないほうが無難。まあ「手を出すな」と忠告するまでもなく、こういうものを苦労してまで育てたがる人はほとんどいないだろう。

ウチョウラン並みに腐りやすく、なおかつ熱帯ハベナリアの寒がる・殖えにくい・個体寿命がある・実生すると近交弱勢が激しい・・等々の欠点を一通り持っている。ウイルスに対してそれほど弱くないのだけが救いだが、普通の人間なら管理が面倒すぎて栽培放棄すると思う。

ハベナリア類を長期維持するには実生更新が必須になるが、近交弱勢を避けるためには別個体と交配しなければならない。こういう金銭価値も鑑賞価値も乏しいランを、たまたま見つけた時にまとめて全部買いしめて、シブリング交配して継代しているような人がいたら、控えめに言って頭がおかしい。

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栄養要求性がウチョウラン・サギソウ・エビネ等とは異なるので、無菌播種培地は本種に合わせて特殊な調合にする必要がある。そういう変態知識を事前に知っていなければ、培養しても育たずに枯れる。

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草姿がコンパクトで山野草として見た場合は渋い草ではあるが、一般的な美意識から言えば雑草の部類。

しかしアップで見ればターンエーか白ひげ 捨てがたい造形美だと思う。・・「普通の人は雑草をアップで見て喜ぶ趣味は無い」という指摘は無しでお願いします。

Luffa cylindrica

cultivate in Okinawa island, Japan.

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サラダヘチマ。「生食できるヘチマ」というふれこみで栽培されている品種。普通のヘチマの果実よりも太短い。

ヘチマを食べる、というと本土の方は怪訝な顔をされるが、沖縄や東南アジア諸国ではスーパーでもごく普通に売っている食用野菜である。原種に近いものは苦味が強くて食べられないが、食用として品種改良されたものはほぼ苦味が無く、新鮮なうちに加熱調理すると、甘味のある汁がたっぷりと出てとろりと柔らかくなる。若干の青臭さ、土臭さがあるので沖縄県民でも好き嫌いのある野菜だが、管理人は好物である。

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サラダヘチマは種子ができる前の若い果実をサラダにする。水茄子のヘチマ版のようなものである。サクサクとした歯触りが好ましいが、生食だとサポニン系のいがらっぽい風味がわずかに感じられる。けっして不味くはないのだが、皮をむいてそのまま丸かじりしたいほど美味だとも言い難い。(*個人の感想です)まあ、味付け次第でいろいろ印象が変わってきそうな食材ではある。

ともあれ、本土ではヘチマを実食する機会は乏しいと思う。ご来沖いただいた際にはぜひご賞味いただきたい。

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季節メニューだが、某回転寿司には茹でヘチマ握り島味噌ダレなどというものもある。一見ジョーク的存在に思えるが、意外と美味かったりする(笑)

Spiranthes sinensis var. sinensis?

from Kunigami village, Okinawa island, Japan.

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ナンゴクネジバナっぽい何か。沖縄本島国頭村、9月3日撮影。

画像だと純白花に見えるが、実物は花弁がうっすらとピンクに発色している。花序は無毛。

形態的にはナンゴクネジバナなのだが、ナンゴクネジバナならば冬緑性のはずである。オキナワチドリと同様に夏は休眠し、秋に出芽してきて3月頃に開花する。今頃に咲いているのはおかしい。狂い咲きだろうか?

本土産ネジバナには秋咲き品種がある(*1)というが、ナンゴクネジバナにも秋咲き品種があるのだろうか?

近年の研究によると、ネジバナには複数の隠蔽種(いんぺいしゅ。従来の分類では同一種として扱われてきたグループをよく調べてみたら、別種に分けられるべきものが混じっていたと判明したもの)があるらしい(*1)。逆に園芸的には別種扱いされているヤクシマネジバナと普通のネジバナはDNAで見ると同種の範疇だそうだし(*1)、熊本産の無毛で初春咲きの「ナンゴクネジバナ」がDNA解析でネジバナの無毛個体群と判定されたり(*2)、外見から生物学的な種名を確定することは難しいようだ。

*1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/plmorphol1989/17/1/17_1_31/_pdf/-char/ja

*2:http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90005098.pdf

画像個体は、なよなよとした貧弱な草姿であり「台湾産ナンゴクネジバナ」と呼ばれる個体に類似していた。

http://www7a.biglobe.ne.jp/~flower_world/images/Spiranthes%20sinensis/DSC05927.JPG

「台湾産ナンゴクネジバナ」2011年4月、明治大学で展示された小田倉正邦氏の栽培品。鉢内に段ボールが入れてある。台湾の某洋蘭業者が東京ドームの蘭展で販売したものだそうだ。ほっそりとした葉は性質として固定しており、栽培時に徒長したわけではないという。

ちなみに台湾ではネジバナも人工増殖の対象らしい。「綬草」で検索していただくといろいろ情報が出てくる。

 

沖縄本島産のナンゴクネジバナとは外見的にかなり差異が認められるが、いずれにしても早春咲きの系統であり、秋に咲くことはない模様。

ちなみに香港産がこちら。沖縄と同様、開花期は春。

2017-綬草

どこまでが同種で、どこからが別種なのか調べるほど泥沼にはまりこむ。

芝生などにくっついて遠方から運ばれてくることもあるので、今回のように変な個体を見つけても在来なのか移入なのか、基本種なのか変異個体なのか判断できない。「たかがネジバナ」ではあるが、奥を覗いてみると底しれぬ深淵が続いているのである

業務連絡:こういうのが咲くそうな

((サギソウ標準花 X 「八月(はづき)」) X シブリング)=「実生・その1」

本土の某所で撮影。

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側花弁が唇弁化した「二蝶咲き」で距が2本ある。萼片は2枚のみ、唇弁が欠損している。この株は花粉、柱頭、子房が退化しており結実しない。

 

こちらが祖父にあたる品種、「八月(はづき)」の画像リンク

http://www.sansoukai.com/bukai/ran/20140808/20140808.html

http://prototroph.web.fc2.com/article/plant/orchidaseae/list/list-sagisou/list-sagisou.html

「野生ラン変異辞典(昭和60年)」の記述によれば、「八月」は「昭和57年、兵庫県三田市の東瀬戸吉二氏が自生ものの中から”おぼろ月”(完全不稔の奇花:管理人注)とともに見つけて命名した」との事。

「八月」はきわめて虚弱な品種で、絶種していないのが不思議なくらい育てにくい。唇弁が二枚ある「二蝶咲き」と呼ばれる奇花で、子房が退化しており種子はできない。花粉も通常は欠落しているが、稀に花粉形成する事があり、花粉親として使う事は必ずしも不可能ではない。

だが「八月」を花粉親にした場合、F1(交配実生第一世代)は100%普通の花が咲くのだという。

 

下画像がF1世代の標準花 X 「八月」』。本土の某業者から販売されたものだが、「八月」の血統であることをうかがわせるような特徴はまったく無い。

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しかし、このF1実生同士を交配(自家受粉も可能だが、子供が弱体化するので「八月」血統の別個体との交配が望ましい)すると、F2(交配実生第二世代)において約4分の1の割合で祖父の「八月」に似た奇花が出現するのだそうだ。

 

下の画像が「八月」と同型になったF2個体。じつは冒頭と同じく「実生・その1」(分球したクローン株)の花なのだが、こちらは完璧な「二蝶咲き」になっている。萼片は2枚しか無く、距が2本ある。この花には柱頭があるが花粉は無く、子房も退化している。

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基本的には不稔だそうだが、柱頭が形成されていて、なおかつ子房も比較的発達している花であれば、他株の花粉をつけるとごく少量の種子が得られる「こともある」そうだ。

 

こちらの画像も「実生・その1」の花。

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これは一見すると普通の花に見えるが、よく見ると萼片が2枚しかなく、花粉塊が左右に2個ずつある。2蝶咲き形態のものがたまたま1蝶咲きで咲いたため、唇弁の重みで花が横向きになっている状態である。まあ、言われなければまず判らない。

このように花ごとに違う形になるので、美麗と言うよりは珍妙な個体である。

ちなみに真祖の「八月」も非常に花の構造が乱れやすく、花ごとに違う形になる性質がある。

 

F2「実生・その2」(その1とは別株)。こちらの個体は唇弁が欠損し、不完全な二蝶咲き・左右不対称。距は1本。花粉はあるが柱頭と子房は退化している。

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「実生・その2」別の花(上下逆に咲いたので画像を反転してある)

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F2「実生・その3」。不完全な二蝶咲き。距は2本、萼片2枚、唇弁欠損、花粉あり、柱頭と子房は退化。

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どの個体も鑑賞的には首をひねる感じだが、「遺伝性がある奇花」という存在はなかなか面白い。

後代の奇花出現率からみると、奇花形質は劣性(潜性)遺伝と考えて良いのだろうか?ここからさらに交配を重ねて検証していく必要があるだろう。

 発現形質に相当なバラつきが見られるので、さまざまな交配親を使って大量に後代実生を育成すれば、美的な個体が出現する可能性もゼロではないかもしれない。F1実生を入手なさった本土の方は、ぜひ試してみていただきたいものである。

New Book

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鹿児島市の出版社が出した琉球列島の植物図鑑。

ただし記載されているのは鹿児島県内、奄美諸島の植物が中心で、沖縄特産種は一部が紹介されているに留まる。アマミテンナンショウ、オオアマミテンナンショウ、トクノシマテンナンショウは全部載っているけれどオキナワテンナンショウは載っていなかったり、アマミマツバボタンは載っているがオキナワマツバボタンは名前だけしか紹介されていない、というように明らかに情報が偏っている。

が、逆に言うと奄美大島産の希少種に関しては(さすがに全種は収載されていないが)かなりレアな種類まで載っている。おそらく書籍では初掲載ではないかと思われる植物も散見される。

樹木、草本、シダまで1冊で網羅し、野外でよく見かける帰化植物も記載されているので、とりあえず名前が知りたい、という初心者にとって非常に有用である。奄美フィールドガイドとしては必携の一冊だろう。 

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欲を言えば写真が小さく、説明も最低限しか書かれていないのが惜しまれる。まあ昨今は名前さえ判ればスマホでいくらでも情報検索できる時代なので、本書は同定に使って、細かい事はあらためて調べていくという使い方が妥当かと思う。

余談ながら、奄美大島は自然遺産登録を狙って野生生物保護への熱意が急上昇しており、条例でレッドデータ種は一律に採集禁止!盗掘者は見つけしだい処す!もしオークションで売っていたら即通報!という感じになっている。ちょっと怖いぐらいである。植栽してあるハイビスカスまで、外来種だからと排除しはじめた。

一方で沖縄本島のほうは、自然保護?何それ美味しいの?といった感じで乱開発が進行中である。住民の利便性を考えると開発イコール悪とは言い難い部分があるが、どう見ても土建屋が一時的に儲かるだけの、負の遺産が残りそうな開発事業がそこかしこで行われている。加えて盗掘も野放し状態、というか採らなくてもそのうち跡形もなくなるという状況が現在進行形でどんどん積み重ねられている。採集の是非を語る以前にいろいろ問題ありすぎである。この差はいったい何なのだろうと思う。