Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Luffa cylindrica

cultivate in Okinawa island, Japan.

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サラダヘチマ。「生食できるヘチマ」というふれこみで栽培されている品種。普通のヘチマの果実よりも太短い。

ヘチマを食べる、というと本土の方は怪訝な顔をされるが、沖縄や東南アジア諸国ではスーパーでもごく普通に売っている食用野菜である。原種に近いものは苦味が強くて食べられないが、食用として品種改良されたものはほぼ苦味が無く、新鮮なうちに加熱調理すると、甘味のある汁がたっぷりと出てとろりと柔らかくなる。若干の青臭さ、土臭さがあるので沖縄県民でも好き嫌いのある野菜だが、管理人は好物である。

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サラダヘチマは種子ができる前の若い果実をサラダにする。水茄子のヘチマ版のようなものである。サクサクとした歯触りが好ましいが、生食だとサポニン系のいがらっぽい風味がわずかに感じられる。けっして不味くはないのだが、皮をむいてそのまま丸かじりしたいほど美味だとも言い難い。(*個人の感想です)まあ、味付け次第でいろいろ印象が変わってきそうな食材ではある。

ともあれ、本土ではヘチマを実食する機会は乏しいと思う。ご来沖いただいた際にはぜひご賞味いただきたい。

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季節メニューだが、某回転寿司には茹でヘチマ握り島味噌ダレなどというものもある。一見ジョーク的存在に思えるが、意外と美味かったりする(笑)

Spiranthes sinensis var. sinensis?

from Kunigami village, Okinawa island, Japan.

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ナンゴクネジバナっぽい何か。沖縄本島国頭村、9月3日撮影。

画像だと純白花に見えるが、実物は花弁がうっすらとピンクに発色している。花序は無毛。

形態的にはナンゴクネジバナなのだが、ナンゴクネジバナならば冬緑性のはずである。オキナワチドリと同様に夏は休眠し、秋に出芽してきて3月頃に開花する。今頃に咲いているのはおかしい。狂い咲きだろうか?

本土産ネジバナには秋咲き品種がある(*1)というが、ナンゴクネジバナにも秋咲き品種があるのだろうか?

近年の研究によると、ネジバナには複数の隠蔽種(いんぺいしゅ。従来の分類では同一種として扱われてきたグループをよく調べてみたら、別種に分けられるべきものが混じっていたと判明したもの)があるらしい(*1)。逆に園芸的には別種扱いされているヤクシマネジバナと普通のネジバナはDNAで見ると同種の範疇だそうだし(*1)、熊本産の無毛で初春咲きの「ナンゴクネジバナ」がDNA解析でネジバナの無毛個体群と判定されたり(*2)、外見から生物学的な種名を確定することは難しいようだ。

*1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/plmorphol1989/17/1/17_1_31/_pdf/-char/ja

*2:http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/90005098.pdf

画像個体は、なよなよとした貧弱な草姿であり「台湾産ナンゴクネジバナ」と呼ばれる個体に類似していた。

http://www7a.biglobe.ne.jp/~flower_world/images/Spiranthes%20sinensis/DSC05927.JPG

「台湾産ナンゴクネジバナ」2011年4月、明治大学で展示された小田倉正邦氏の栽培品。鉢内に段ボールが入れてある。台湾の某洋蘭業者が東京ドームの蘭展で販売したものだそうだ。ほっそりとした葉は性質として固定しており、栽培時に徒長したわけではないという。

ちなみに台湾ではネジバナも人工増殖の対象らしい。「綬草」で検索していただくといろいろ情報が出てくる。

 

沖縄本島産のナンゴクネジバナとは外見的にかなり差異が認められるが、いずれにしても早春咲きの系統であり、秋に咲くことはない模様。

ちなみに香港産がこちら。沖縄と同様、開花期は春。

2017-綬草

どこまでが同種で、どこからが別種なのか調べるほど泥沼にはまりこむ。

芝生などにくっついて遠方から運ばれてくることもあるので、今回のように変な個体を見つけても在来なのか移入なのか、基本種なのか変異個体なのか判断できない。「たかがネジバナ」ではあるが、奥を覗いてみると底しれぬ深淵が続いているのである

業務連絡:こういうのが咲くそうな

((サギソウ標準花 X 「八月(はづき)」) X シブリング)=「実生・その1」

本土の某所で撮影。

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側花弁が唇弁化した「二蝶咲き」で距が2本ある。萼片は2枚のみ、唇弁が欠損している。この株は花粉、柱頭、子房が退化しており結実しない。

 

こちらが祖父にあたる品種、「八月(はづき)」の画像リンク

http://www.sansoukai.com/bukai/ran/20140808/20140808.html

http://prototroph.web.fc2.com/article/plant/orchidaseae/list/list-sagisou/list-sagisou.html

「野生ラン変異辞典(昭和60年)」の記述によれば、「八月」は「昭和57年、兵庫県三田市の東瀬戸吉二氏が自生ものの中から”おぼろ月”(完全不稔の奇花:管理人注)とともに見つけて命名した」との事。

「八月」はきわめて虚弱な品種で、絶種していないのが不思議なくらい育てにくい。唇弁が二枚ある「二蝶咲き」と呼ばれる奇花で、子房が退化しており種子はできない。花粉も通常は欠落しているが、稀に花粉形成する事があり、花粉親として使う事は必ずしも不可能ではない。

だが「八月」を花粉親にした場合、F1(交配実生第一世代)は100%普通の花が咲くのだという。

 

下画像がF1世代の標準花 X 「八月」』。本土の某業者から販売されたものだが、「八月」の血統であることをうかがわせるような特徴はまったく無い。

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しかし、このF1実生同士を交配(自家受粉も可能だが、子供が弱体化するので「八月」血統の別個体との交配が望ましい)すると、F2(交配実生第二世代)において約4分の1の割合で祖父の「八月」に似た奇花が出現するのだそうだ。

 

下の画像が「八月」と同型になったF2個体。じつは冒頭と同じく「実生・その1」(分球したクローン株)の花なのだが、こちらは完璧な「二蝶咲き」になっている。萼片は2枚しか無く、距が2本ある。この花には柱頭があるが花粉は無く、子房も退化している。

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基本的には不稔だそうだが、柱頭が形成されていて、なおかつ子房も比較的発達している花であれば、他株の花粉をつけるとごく少量の種子が得られる「こともある」そうだ。

 

こちらの画像も「実生・その1」の花。

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これは一見すると普通の花に見えるが、よく見ると萼片が2枚しかなく、花粉塊が左右に2個ずつある。2蝶咲き形態のものがたまたま1蝶咲きで咲いたため、唇弁の重みで花が横向きになっている状態である。まあ、言われなければまず判らない。

このように花ごとに違う形になるので、美麗と言うよりは珍妙な個体である。

ちなみに真祖の「八月」も非常に花の構造が乱れやすく、花ごとに違う形になる性質がある。

 

F2「実生・その2」(その1とは別株)。こちらの個体は唇弁が欠損し、不完全な二蝶咲き・左右不対称。距は1本。花粉はあるが柱頭と子房は退化している。

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「実生・その2」別の花(上下逆に咲いたので画像を反転してある)

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F2「実生・その3」。不完全な二蝶咲き。距は2本、萼片2枚、唇弁欠損、花粉あり、柱頭と子房は退化。

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どの個体も鑑賞的には首をひねる感じだが、「遺伝性がある奇花」という存在はなかなか面白い。

後代の奇花出現率からみると、奇花形質は劣性(潜性)遺伝と考えて良いのだろうか?ここからさらに交配を重ねて検証していく必要があるだろう。

 発現形質に相当なバラつきが見られるので、さまざまな交配親を使って大量に後代実生を育成すれば、美的な個体が出現する可能性もゼロではないかもしれない。F1実生を入手なさった本土の方は、ぜひ試してみていただきたいものである。

New Book

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鹿児島市の出版社が出した琉球列島の植物図鑑。

ただし記載されているのは鹿児島県内、奄美諸島の植物が中心で、沖縄特産種は一部が紹介されているに留まる。アマミテンナンショウ、オオアマミテンナンショウ、トクノシマテンナンショウは全部載っているけれどオキナワテンナンショウは載っていなかったり、アマミマツバボタンは載っているがオキナワマツバボタンは名前だけしか紹介されていない、というように明らかに情報が偏っている。

が、逆に言うと奄美大島産の希少種に関しては(さすがに全種は収載されていないが)かなりレアな種類まで載っている。おそらく書籍では初掲載ではないかと思われる植物も散見される。

樹木、草本、シダまで1冊で網羅し、野外でよく見かける帰化植物も記載されているので、とりあえず名前が知りたい、という初心者にとって非常に有用である。奄美フィールドガイドとしては必携の一冊だろう。 

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欲を言えば写真が小さく、説明も最低限しか書かれていないのが惜しまれる。まあ昨今は名前さえ判ればスマホでいくらでも情報検索できる時代なので、本書は同定に使って、細かい事はあらためて調べていくという使い方が妥当かと思う。

余談ながら、奄美大島は自然遺産登録を狙って野生生物保護への熱意が急上昇しており、条例でレッドデータ種は一律に採集禁止!盗掘者は見つけしだい処す!もしオークションで売っていたら即通報!という感じになっている。ちょっと怖いぐらいである。植栽してあるハイビスカスまで、外来種だからと排除しはじめた。

一方で沖縄本島のほうは、自然保護?何それ美味しいの?といった感じで乱開発が進行中である。住民の利便性を考えると開発イコール悪とは言い難い部分があるが、どう見ても土建屋が一時的に儲かるだけの、負の遺産が残りそうな開発事業がそこかしこで行われている。加えて盗掘も野放し状態、というか採らなくてもそのうち跡形もなくなるという状況が現在進行形でどんどん積み重ねられている。採集の是非を語る以前にいろいろ問題ありすぎである。この差はいったい何なのだろうと思う。

Habenaria hybrid F2

(Habenaria sagittifera X Hab.linearifolia) X Hab. linearifolia

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(ミズトンボ♀ X オオミズトンボ♂)X オオミズトンボ♂

某所にて撮影。4分の1はミズトンボの血が入っているはずだが、ほぼオオミズトンボ。 唇弁が純血オオミズトンボに比べるとほんのわずか緑色が濃く、側裂片が純血個体より短くて万歳をするように上向きになっているところにミズトンボの特徴が残っている。が、言われればそうなのかな?と思う程度で、ラベルが無ければオオミズトンボの個体変異の範疇だと思ってしまうのではあるまいか。

ちなみに親個体はこちら。

こちらは姉妹株の別個体。ほとんど区別がつかず、あまり形質分離が出ていない感じである。

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鑑賞的には純血オオミズトンボに「劣るとも勝らない」ので、園芸的にはわざわざ作り出す意味は無いと思われる。が、遠くない将来に国内オオミズトンボ自生地の消滅が予想されている現在、市販されている人工増殖オオミズトンボの種親の寿命が尽き、実生苗も近交弱勢で継代できなくなってすべて消え去っていく前に、こういう雑種を作ってでも何とか遺伝子を残していくことも考えねばならない状況なのかもしれない。

この交雑種はオオミズトンボの花粉をかけると普通に種子ができ、発芽率も純血個体に劣らないそうだ。もし何かしようと思うならば、まだオオミズトンボの苗が入手できる今が、今だけが、残された最後のチャンスなのだ。

だが一番ありそうな展開としては「誰も何もしなかったので残らなかった」になるだろうと思っている。千葉県のN湿原で、自生地そのものは天然記念物指定されて残っているけれど、オオミズトンボは何もしないでいるうちに実生更新が止まり、今ではもうどこにも目視できなくなってしまったのと同じように。

 

2022年追記・外部リンク aoikesi氏のサイト「蔵王のふもとから」 ↓

zaonofumoto.blog.fc2.com

上リンク記事よりの引用画像。(リンク先にこの花の拡大画像、および同自生地オオミズトンボの画像あり)

以前にミズトンボとオオミズトンボの交雑個体っぽいものが発見された自生地で、新たに撮影された個体。

New Book

"BRUTUS" 15/07/2019

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雑誌「ブルータス」ビザールプランツ特集4(3は総集編だったので実質パート3)

ファッション系雑誌なので、承認欲求を満たすアイテムとして植物を飾っている方が一部登場しており、モヤっとした気分にさせられる(苦笑)

とはいえ執筆者の多くは特定ジャンルでは大御所と言える方々、あるいは新進気鋭の注目に値する園芸業者達である。「よくもまあこれだけのメンバーを集めたな」という感じで括目すべき内容となっている。園芸雑誌が「しがらみ」によって硬直した内容になってしまっている昨今、旧態依然の停滞した園芸業界に対して、良い意味で喧嘩を売っている感じである。是非はともあれ、昭和の野生植物狂乱時代の熱気を思い出すものがある。

栽培マニュアルと銘打っているが、ページ数の関係で総論(としては非常に良い内容なのだが)しか書かれていないため総合的に見れば業者の販促カタログ以上のものではない。というかファッション雑誌でかっこいい自動車の解説記事を読んで、その車の運転ができるようになれるなら苦労はいらない。そもそもこの本に載っているのは運転免許どころかF1ライセンスやパイロット免許を必要とするレベルの草が多いのだが、育てるための覚悟、あるいは生き物を扱う「資格」(とでもいうべき資質)について一切語っていないところは良くも悪くもファッション雑誌である。(他の園芸書籍がファッションで無いとは言っていない)

「(植物の栽培は)ゲームでレベルが上がっていくのに近い感覚で、自分のスキルが上がっていくのも楽しいですよ(p45)」まあ嘘は言っていない。ゲーム廃人と呼ばれるくらいやりこむか、ガンガン課金してSSR栽培アイテムを揃えないとヒロインが死亡するクソゲー 特殊なゲームである事を一言も説明していないだけである。新規参入者を取り込むための広報として実にあざとい たいへん効果的な語り口である。これが人工増殖苗で全需要を満たしている商売であったならば、おおいに夢を語って現実問題に触れない方向でも実害は無いと思うのだが以下略。

同じビジュアル系でも初心者向け特集を組む時に、まず野生種に関わる者の責任のありかたを教えこもうとする説教雑誌、ビバリウムガ○ドとはある意味で対照的である。

が、掲載されている自生地写真などには鼻血モノの画像が数多く、何も判っていない無垢な一般人を泥沼に引きずり込もうとする邪悪な意志を感じる それだけで一見の価値はあるだろう。

つーかY先生が育てたオフリスの画像とか、S先生が画像提供した腐生植物の解説とか、こんな企画を立てた奴ちょっと出てこい。ふざけんなもっとやれ。

Ranunculus ternatus var.lutchuensis

cultivate in Okinawa island

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リュウキュウヒキノカサ。沖縄本島の某所で栽培されていた個体。

喜界島から沖縄諸島にかけて局所分布する植物で、環境省カテゴリーでは絶滅危惧1Aの希少植物。栽培自体は簡単なのだが、見てのとおり非常にショボい 侘びた佇まいの植物であるため、かなりの物好き 数寄の心を理解する趣味人だけがその魅力を理解しうる野草である。(普通だったら後ろに写っている植物のほうを紹介するのだろうが、今回は触れない)

リュウキュウヒキノカサは産地ごとに変異があるようで、それらをすべて同一種として良いのかどうかは今後の研究を待つことにしたい。ちなみに管理人宅で栽培している系統は下記のようなもの。

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こちらは花が一回り大きく、花弁数が多い。産地は不詳だが、過去に変異品種として報告された個体群のものだと思われる。

リュウキュウヒキノカサの一品種ヤエリュウキュウヒキノカサ(新称)」(2004)

http://phytogeogratax.main.jp/site/wp-content/uploads/2018/01/JPT52_1_89-1.pdf

 

ラナンキュラスと言えばRanunculus asiaticusの園芸(八重咲き)品種が春に大量流通している。あれはあれで美しくはあるが、原種のasiaticusが持っている清楚な魅力とはまったく別方向に進化した花である。

というか、asiaticusは乾燥地域の花なのでちょっと多湿にするとあっという間に腐ってしまう。日本国内では長生きさせるのが難しく、ほぼ100%が短期間のうちに消耗品として消えていく。まあ園芸生産品なのでそれで問題は無いのだが、まともに育てられないのは少々寂しい気がする。

だが最近は日本の気候風土に合った品種を新たに交配育種する試みも始まっている。商品名を出すとステマ扱いされそうなので控えるが、適地であれば花壇植えも不可能ではない品種が作出されて全国への流通が始まっているようだ。リュウキュウヒキノカサのように耐暑性・耐湿性に優れた原種を交配親に使ったら面白いのでは?と思ったりもする。とはいえ育種というのは10年単位で時間がかかる仕事なので、この年になるともう自分でやってみる時間は無いのだが。