Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

リュウキュウボウランの謎

collect in Okinawa island,Japan.

(This plant cultivate in Tokyo.)

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通称「リュウキュウボウラン」。東京の某展示会に出品されていた株を知人が撮影したもの。(掲載は撮影者の了承済)

この植物に関しては色々と感慨深いものがある。もともとは亡き師匠が秘蔵していた沖縄本島採取個体(とされている。これに関しては後述する)で、師匠が株分けして数十年前に東京の山草会に送ったものが送付先で増殖され、日本全国に広まった模様。現在沖縄で栽培されている苗にも東京からの里帰り品があるようだ。

ラン科植物の多くは毎年植え替えないと作落ちしたり、暑さ寒さに耐えなかったり、ウイルスに弱かったり、いきなり腐って全滅したりする。そのため「希少なランを栽培下で保存栽培していこう!」などとイキってみても、バトンを渡した時に落とす人が多すぎてリレー栽培が現実的にほぼ成立しない。ところがこの個体はたった一株のオリジナル個体から増殖され、何十年も人から人へと手渡されつつ栽培が続いている例外的な事例である。

この個体はランとしては強健で、ある程度の粗放栽培に耐える。何かに着生させてしまえば何年も植え替えが不要。栄養繁殖しやすくウイルス耐性もあり、暑さに強く、関東でもある程度の温度が保てるなら室内越冬できるぐらいの耐寒性もある。(注:寒さは好まないので加温が足りないと花が咲かなくなる)さらに近縁の着生蘭の性質から推測するに個体寿命もおそらく100年以上あるだろう。栽培維持に関して大きな問題点が無かった、言い方を変えれば、めったに枯れない草だったからしぶとく残っているわけだ。

亡き師匠から聞いた話では、このランは沖縄本島の本部(もとぶ)半島の岩場で一株だけ見つかったもので、師匠が発見者から譲りうけて秘培していたのだという。(その後に同種の苗が発見されたという噂を聞いたことがあるが、真偽は確認できていない。現在流通している「リュウキュウボウラン」はどれも師匠から分株されたことが確実な個体と区別がつかないので、すべて同一クローンではないかと考えている

もともとリュウキュウボウランというのはSchlechter(ドイツの植物学者)

奄美大島で採集して記載したLuisia liukiuensisの和名であるらしいが、原記載を調べていないので正体がよく判らない。

日本語文献では「原色日本のラン」(前川文夫著、昭和46(1971)年)に名前だけ紹介されており、「(広域分布するボウラン属が)琉球列島にだけまったく異なる種を分化するということはまことに考えにくいことであって、ナゴラン(あるいはフウラン)といった他属とのF1である可能性も考えられるのである(同書p.67より引用)という記述がある。

ネットで検索すると今回の画像と同種の「リュウキュウボウラン」に対して「学名はLuisia liukiuensis、前川文夫博士はボウランとナゴランの交雑種だと推定している」というような解説も見つかるが、おそらくこの書籍が元ネタだろう。ただ、そういう説明の多くは孫引きを重ねていて、微妙に正確さを欠いているように思う。

ちなみにボウランとナゴラン、ボウランとフウランの交配種(Luinopsis Furusei、Luisanda RumRill)は洋蘭業者が人工作出したものが流通している。画像検索していただければ判るが、いずれも今回の個体とは外見がまったく異なっている。

というかSchlechterが記載したリュウキュウボウランなるものは、亡き師匠が栽培していた「リュウキュウボウラン」とは別物の可能性がある。記載標本と同一種でないとすれば、画像の個体をリュウキュウボウランと呼ぶ事からして間違っている。ならば何と呼べば良いのか?というと現状では「未同定の正体不明種」ということになるだろう。

前川博士の記述を見ると「リュウキュウボウランは交雑種なのでは?」という疑問を呈しているだけで、ボウランとナゴランが親だと断定してはいない。奄美大島に自然分布している野生蘭でボウランと交雑可能なのはナゴランとフウランぐらいしか思い当たらない、というだけの話ではなかろうか。(独自解釈:要検討)

現存する「リュウキュウボウラン」の外見は、沖縄本島でしばしば屋外に植栽されている東南アジア産の大型単茎種Papilionanthe teresと、ボウランを足して2で割ったような感じである。もし両者の交雑種であるならば、ボウラン属Luisiaではなく属間交配属Papilisiaという事になる。

下記リンクはPapilionanthe teresとLuisia javanicaの人工交配種、Papilisia Terejavaの画像だが、「リュウキュウボウラン」にかなり似ている。

リュウキュウボウラン」が本当に野外生育株であるならば、栽培品のPapilionanthe teresと沖縄本島産のボウランが虫媒によって交雑し、野外で種子が生育したもの、という可能性が高いように思われる。しかし現時点では仮説・憶測の域を出るものではなく、正確な両親については誰かがDNA鑑定で確定してくれるまで断定は避けておく。

問題は野外に自生していたというのは真実なのか?という点である。師匠は発見者の方から直接譲りうけ、発見場所も案内してもらったというが、それは二次情報である。まあ、こういう酔狂な交配種をわざわざ作って山に植えるような人はまずいないだろうが、第一発見者の方の情報に嘘、あるいは誤認があった可能性は否定しきれない。

もしかしたら台湾あたりの蘭園が面白半分に作った人工交配苗を買ってきて、山採り大珍品だと大法螺を吹いたオジイがいた、というのが真相だったりするかもしれない。そうなれば片親が沖縄産ボウランでは無い、という事であってもおかしくはない。いずれにしても来歴に関しては今となっては確かめる術(すべ)は無い。

 

話は変わるが「リュウキュウボウラン」は管理人も以前に栽培していたことがある。試しに交配してみたところ自家受粉ではまったく結実しなかった。自家不和合の可能性もあるが、交雑種なので稔性が非常に低いという可能性のほうが高いように思われた。(注:根拠は無い)そういう場合には親となった原種の花粉を使って「戻し交配」をするとしばしば苗が得られる。

そこでナゴラン、フウラン、ボウラン(が手元に無かったのでタカサゴボウラン)、ついでに園芸交配種のコチョウランの花粉をそれぞれ「リュウキュウボウラン」2花ずつに交配してみた。結果としてナゴラン、フウラン、コチョウランは子房が膨らむことなく落花、タカサゴボウラン交配のみが2花とも結実した。その時の種子を育苗した結果がこちらである。

Papilisia? X Luisia teres var. botanensis

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うん・・まあ何というか、残念な感じの マニア好みで味のある花である。

 

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こちらは同果実から育成した姉妹株。ほぼボウランである。予想以上にボウランである。

実生形質がバラつくところを見ると「リュウキュウボウラン」はやはり交雑種であろうか。片親がボウラン系であれば「ほぼボウラン」が出現しても矛盾は無い。

まあ観賞価値に関しては・・美の基準というものは人それぞれ、語らずに心の奥に秘めておけば良いのである。

Hong Kong orchid tree

Bauhinia X blakeana

form Hong Kong. cultivate in Higashi village, Okinawa island, Japan

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オオバナソシンカ(大花蘇芯花)。葉が偶蹄類の蹄の形に似ており、沖縄ではヨウテイボク(羊蹄木)という名前でも呼ばれている。アカバナハカマノキ(赤花袴乃木)ともいう。あるいは英名でオーキッドツリー。呼び名が一定していないので人と話をする時に困る。(苦笑)

マメ科の樹木だが、マメ科っぽくない大型の美しい花を咲かせる。やや大型になるので一般住宅の庭に植栽されることは多くないが、街路樹などになっているのをしばしば見かける。

遺伝子解析によるとムラサキソシンカBauhinia purpureaを母樹にもつ交雑種で、花粉樹はフイリソシンカBauhinia variegata と推定されているが確定していない模様。1880年頃に香港で発見され、稔性が無く結実しないため挿し木などによって殖やされ、各国に普及したとされる。が、戻し交配あるいは非常に低い確率で種子ができるらしく、その中には稔性のある個体も見つかっているようだ。(出典:ウィキペディア英語版↓)

花には菊に似た淡い香りがある。おひたしにすると食用菊のように食べられるという話だが、街路樹の花をむしる勇気が無く、いまだ確認できていない。

オキナワチドリの段ボール播き

今回はオキナワチドリの段ボール播き記録。

「段ボール播き」とは何か?と言う初心者の方は「段ボール、ダンボール、実生、発芽、ウチョウラン」などの単語を組み合わせて検索してみていただきたい。日本発祥のチドリ類実生法だが、海外にも伝わってDactylorhiza(ハクサンチドリ)属に試みられ成功している模様。(ちなみにOphrys属では不発芽に終わったという情報しか見つからなかった)

cardboard propagation of Dactylorhiza purpurella | Slippertalk Orchid Forum- The best slipper orchid forum for paph, phrag and other lady slipper orchid discussion!

 

cardboard sowing orchid - Google 検索

 

 オキナワチドリでは以前にOkinawan-lyrics氏から、播種後2年で開花した、というご報告をいただいている。

 経験値を上げるため、自分でも鉢播き実生をやってみなければ、と思い追試を実施した。

2016年3月、手元にあった大点花交配苗をシブリング交配。

2016年5月に種子が完熟。5月24日、段ボール入り用土の鉢に採り播き。

Okinawan-lyrics氏の場合は11月には発芽が認められたとの事だが、まったく発芽がみられず年越し。ようやく発芽してきたのは翌春3月になってからだった。

Amitostigma lepidum(Poneorchis lepida) 14/03/2017 seeds germination

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 そのまま灌水を続け、夏も強く乾燥させぬよう注意しながら翌年まで管理した。

まとまった発芽が見られたのは2017年の秋になってから。

12/01/2018 seedlings

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 地生蘭の完熟種子には強い休眠があり、播種しても一斉には発芽しない。発芽してくるのが2年目、3年目になることも珍しくない。鉢内にたまたま発生してくる共生菌の種類、あるいは遷移状況によって発芽率・生育速度が異なってくると思われる。

 今回はサンプル数が一鉢だけなので成功率に関しては言及できないが、とりあえず再現性がある事を確認できた。知人達からの経験談を集めてみても、チドリ類に関しては段ボール播きの成功率はかなり高いようだ。

 だが2年間植え替え無しで管理してきたため用土の劣化が激しく、2月頃から子苗が次々と腐りはじめてしまった。休眠後に鉢をあけて球根を拾い集めたが、最終的には3分の1程度しか生き残らなかった。

 新しい用土に植えつけて、その年の秋からきっちり肥培したところ順調に大きくなり、2019年に開花した。

14/03/2019

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 初開花。2年で開花する、というのはOkinawan-lyrics氏の報告と同様である。

 ちなみにこの播種方法で成功率が高いのはチドリ類とシラン類ぐらい(注:シランは段ボールの有無に関わらず普通の用土でも発芽する)で、他のランでは成功率が下がる。ネジバナも段ボール播きで発芽するが、成功率はチドリ類に比べて低く、まったく発芽せずに終わる場合も多い。播種床に播いたランと相性の良い菌が偶然に湧いてくるかどうか、に成否がかかっているようなので、使った用土の中・周辺環境にたまたま良い菌がいた場合と、いなかった場合では同じように播いても結果は異なるだろう。

 ウチョウランやイワチドリでは本土での実験例が豊富にあるが、同一栽培者が同じように播いても年によって芝生のように生えてくる時と、一本も発芽してこない場合があるようだ。

 サギソウなどもこの方法で発芽はするようだが、多くの場合はその後の生育が順調でなく、成株まで育つのは稀らしい。サギソウに対しては段ボール菌は共生菌としての能力が不十分のようである。またダイサギソウはこぼれ種があちこちの鉢から発芽してくるにもかかわらず、段ボール播種してもまったくと言って良いほど発芽しない。

 チドリ類の共生菌は段ボールを分解する普遍的な菌であるらしい(仮説であり、検証した報文は見たことがない)が、知人達からの情報を集めてみた限りでは、他のランの共生菌は段ボールとの関連が乏しい、あるいは発生率が低い菌であるように思われる。播いた場所に共生菌がたまたま湧いていれば段ボールの有無とは無関係に発芽するし、共生菌が湧いていなければ段ボールを入れてあっても発芽しない、あるいは発芽しても生育しないという事のようである。(これも検証した報文は無い。軽はずみに引用なさらぬようお願いしたい)

 余談だがシュンランやカンランは栽培場で実生が生えたという報告が、管理人の知る限りでは一例も無い。一方で自生地に種子を蒔いて苗を得たという報告は山ほどある。(乱穫されて自生個体がほとんど無くなっているカンランなどは「今の時代に山で苗を見つけたら、誰かが種を蒔いた事を疑え」と言われているほどである。詳しくは「寒蘭 山蒔き」等で検索)

 東洋蘭の親株から分離される共生菌には、いわゆる腐生菌だけでなく樹木共生菌(生きた樹木と養分のやりとりをしないと生きられない)が含まれていること、地下生活をするマヤランやサガミランからは樹木共生菌のみが分離されている(下記リンク)ことなどから、地下生活時代の実生苗は樹木共生菌によって生育しているのではないかと推測されている。(誰によって?:要出典)そういうランの場合、いくら段ボールに播いても発芽は期待できないと思われる。

http://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C-6.pdf

 なお、最近流通している実生物のオキナワチドリはさまざまな系統が複雑に交配されているので、セルフ種子を蒔いた時に(文字通りの)多彩な実生が生えてくることも珍しくない。大点花の種子を蒔いたら純白紫点花が生えてきたり、多点花の親から無点と純白が分離してきたりという事が普通にある。

(他の栽培関連記事は最上段「オキナワチドリの栽培」タグをクリックしてください)

Malpighia emarginata

Acerola (Malpighia emarginata ) harvested in Okinawa island.

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熱帯果樹、アセロラの生果実。中に3粒の種子がある。

あまり知られていないが、沖縄本島本部町アセロラの栽培に力を入れている。そして本日5月12日は、本部町アセローラの日制定委員会が制定し、日本記念日協会に登録した「アセロラの日」である。マジである。

アセロラは加工食品が広く出回っているので、名前だけなら知っておられる方も多いと思うが、生果実を食べたことのある方は少ないだろう。果実が傷みやすく流通に向いていないこともあるが、ぶっちゃけ言うと生果実のまま食べても驚くほど美味しくは無いので、生果の状態ではあまり出荷されていないのである。沖縄本島内ですら販売されている場所は多くない。

品種によっても味が違う(やたらと酸っぱい加工用品種と、ほんのり甘い生食用品種がある)が、いずれにしても生果の状態ではサクランボを上回る味だとは言い難い。甘味品種を完熟状態で木からもいで食べればフレッシュな香りもあって悪くないが、収穫時期が早いと酸っぱいだけで青臭さもあり、正直言って微妙である。むしろキリっとした酸味を生かす方向で、加工してピューレやジュースにしてから砂糖や他種の果汁、あるいはお酒やヨーグルトなどに混ぜて賞味するのが正解であろう。というかそういう方向で加工品になったものが全国流通しているわけである。

しぼりたてフレッシュジュースは生果実を農場から取り寄せて自作するか、あるいは加工工場でも見学しない限り賞味するのは難しい。生産農場近辺のお店で提供されている「生ジュース」も多くの場合、一旦冷凍したパックを解凍して使っている模様。それでも一般流通している量産アセロラジュースとは別物なので、観光などで見かけた時にはぜひご賞味いただきたい。沖縄の素晴らしい思い出になることだろう。

まあ冷凍果実、冷凍ピューレ、冷凍生ジュースは通販でいつでも買えるんだけどな(ボソッと) 

園芸検定試験(チドリ類・交配育種)

問2:オキナワチドリの円弁花と、純白花を交配して実生を育成した。この画像の両親の間に生まれた交配実生にどのような花が咲くか、予想を述べよ。

なお、母親には純白花の遺伝因子は無い。また、父親の血族に純白花以外の特別な色彩の花は存在していない。また両親共に無点花、純白地・紫点花、淡点花などの単一遺伝子による潜性(劣性)、あるいは共優性、不完全優性の遺伝因子無い。

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回答:純白花は潜性(劣性)遺伝なので、通常色の花と交配すると実生はすべて通常色になる。また花型の遺伝は多因子性なので有る/無しの2択にはならず、いろいろ混ぜて2で割ったような、最頻値としては両親の中間型になる。よって予想される花は、通常色で花型は両親の中間型。

・・まあ、試験であればそれが模式回答だろうで、実際にやってみた結果がこちらである。

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まあ花型は両親の中間型、と言っても良いと思われる。

・・で、この覆輪は何?どこから出てきたのか理解できないんですけど?

母親にはわずかに覆輪っぽい発色があるが、交配の系譜を遡ってもこういう濃い発色をする血族はいない。父親の血族も、純白以外は標準色個体しか確認できない。

覆輪(ピコティ)咲きはさまざまな園芸植物で見られる形質だが、白覆輪と色覆輪は同一に語れないようだし、植物種によって遺伝様式が違うようで他種の報告例は参考にしづらい。

オキナワチドリの場合、覆輪色はつかみどころの無い形質である。遺伝性があることは間違いないのだが、両親の組み合わせによって出現率が大幅に変化する。ちなみに今回、覆輪になったのはこの株だけで、他の個体は通常色で中間型の花型である。

今回のケースのように、交配系譜に覆輪が出現していない血統にいきなり出現することがあるかと思えば、覆輪花同士の交配なのに実生のほとんどが普通の花になってしまって、一部の個体に薄く覆輪が出るだけのこともある。また、同じ果実から育てた実生が標準色から濃覆輪まで正規分布的に連続している事もある。多因子性の遺伝であることはほぼ確実だと思われるが、どういう遺伝様式なのか今ひとつよく判らない。

覆輪花は「白い部分の発色が抑制されている」という形質らしいので、発色遺伝子だけでなく、抑制遺伝子の有無という視点から考える必要があるのかも?などと考えているのだが・・転写因子の発現量がどーのこーの、といった難しい話であれば、管理人ごときがついていけるレベルではなくなってくる。

さらに栽培温度、昼夜の温度差、日照、潅水量、肥料の量などの影響で覆輪の濃淡は極端に変化する。栽培環境によって同一個体が標準花に近い発色になったり、濃覆輪になったりするので個体素養の評価が難しい。

参考:トルコギキョウの二色咲きは、温度条件によって白一色から紫一色にまで変化

https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/NIFS11-01.pdf

管理人の栽培棚ではほぼ100%濃覆輪に発色する個体でも、他の方の棚では並花になってしまう事もある。また、遺伝的に覆輪の素養がある系統でも、発色にベストな環境条件は個体ごとに異なっている可能性が高い。自在に操る事はなかなか難しい形質である。 

ちなみに上記の文献を見ると、(それ以外にも報告例があったが)トルコギキョウには覆輪花系の純白花という「ステルス覆輪花」が存在している模様。

 

前記事

園芸検定試験(チドリ類・品種鑑別)

問1:こちらにオキナワチドリの「白花」が2株ある。この2株には根本的な違いがあるが、それは何か。なお、花型や花弁の質の違いは単なる個体差なので無視してよい。

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回答:一般人が区別する必要はない。疲れている時にはややこしい解説など読まずに寝よう。

 

(以下、ブリーダー以外は読む意味が無いのでパスしてください。)

 

 チドリ類の「白花」には遺伝子構成がまったく異なる複数の系統が含まれる。上の画像では、どちらかが純白花で、もう一つは無点の酔白(すいはく=山野草用語で、白に近い淡色のこと)花である。

  純白花は赤~紫色を発色するための「アントシアニン系色素」(以下赤色素)を作り出す能力が欠落した突然変異(単一遺伝子変異・潜性遺伝)個体である。血統的には濃色黒軸花や「紅一点花」であったとしても、「純白遺伝子が発現」した個体は植物体全体から赤みが消え、白い花が咲くようになる。(注:正しく説明するとものすごく長くなるので「その解説は間違っている」というツッコミは入れないように

 ちなみに純白花でも、どういう遺伝子に変異が起きているかは系統によって異なる。オキナワチドリでは俗に言う「互換性の無い」3系統の「純白花」が確認されている。(注:ここで言う「純白花」は一般花卉で言う「クリーム白」品種を含む。オキナワチドリは花に葉緑素を含むため、純白品種とクリーム白品種が識別できない)

 同一の変異遺伝子を持つ系統内で交配すれば、実生はすべて親と同じ「純白花」になる。しかし異なる変異を持つ系統間で交配すると、お互いの欠落している遺伝子を補完しあって赤色素が作れるようになり、実生はすべて有色花になる。

(参考文献としてカーネーション白花3系統についての解説文をリンクしておく。要約すると、赤い色素を作り出す時にはいろいろな体内酵素が働いているが、白花品種はそのうち3種類のどれかが働いていないため、赤色素を作れない。花弁に含まれる成分を分析すると3群に分類でき、どの酵素が欠けているのか分析結果からある程度までは推測できる、という論文である。が、用語が難しいので、学究者でないと読んでも内容は理解しにくいと思う)

www.naro.affrc.go.jp

 純白花が3系統のうち、どれに属するかは外見からは(オキナワチドリの場合には)見分けがつかない。遺伝子解析技術の無い一般人は、どの系統なのか判別するには基準用個体と検定交配してみるしかない。

 ちなみに今回の画像で純白花のほう(さて1番と2番のどちらでしょう?)は管理人が「遺伝子型1」と呼んでいる系統で、伝・奄美大島産の純白花「白馬」の後代である。なお、市販の実生純白花の大部分は「白馬」の子孫である模様。

 

 一方で無点花は、唇弁(チドリ類で一番大きな花弁)に斑紋を出現させる能力が欠落した突然変異(単一遺伝子変異・不完全優性=レプタイル業界で言う共優性遺伝)である。

 通常の無点花は斑点が消えただけの「標準色(ピンク)の無点」だが、今回の画像個体は色調を薄くする淡色化遺伝子群(多遺伝子変異)も集積させてあるため、「酔白の無点花」になっている。これだと見た目には純白花とほとんど見分けがつかない。

 しかし外見が似ていても、酔白無点花の遺伝子構成は純白花とはまったく異なる。純白と酔白を交配するとお互いの変異が相殺されて、子供はすべて普通色になる。よって交配親に使う場合は、純白花と酔白無点花をしっかり区別しなくてはならない。

 (注:ただし近年は交配過程でさまざまな変異個体が総当たり的に使用されているため、市販の交配実生には無点遺伝子を持つ純白花、あるいは純白遺伝子を持つ無点花という個体も少なからず存在している。そのため実際に交配してみると、「純白 X 酔白」が純白や濃色無点になったりする事もある)

 話を戻すが、酔白花は花色素の生産能力がゼロではない。花をよく調べてみると色素が集中しやすい特定の一部分だけは、はっきりと着色している。チドリ類の場合、その部分を見れば純白と酔白が識別できる。

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 過去記事で説明した事があるので解説は省略するが、どちらが純白花かお判りになられただろうか。ちなみに花粉の色は純白系ならピュアイエロー、酔白系は灰色。

 純白地・紫点花と、酔白地・紫点花の識別点もこれと同じである。

 知っていれば簡単に識別できるのだが、業者でもこういう知識が無いままに「白花です」というざっくりとした説明でオークションに出品していたりする。

(余談になるが、純白花のセルフ実生は全個体が純白だが、酔白のセルフ実生は純白に近いものから普通色に近いものまでバラつきが出る。一般山野草の「白花」ではセルフ実生するとすべて標準花になってしまう事例もしばしば認められる)

 昭和時代のウチョウランブームの頃は、趣味家が育種親にするための変異個体を血眼になって探し回っていた。そのため趣味家の間でもこういう識別知識は常識となっていたし、口コミで知識が自然共有されてもいた。

 しかし近年は苗を生産する営利業者と、それを購入して消費栽培する趣味家に二極分化してしまったので、新規参入の趣味家がブリーダー的な知識を見聞きする機会は皆無に近くなってしまった。手元で育てている花がどういう遺伝子を持つ花なのか、それを実生するとどういう花になるのか、何ひとつ知らないまま育てているほうが普通だろう。

 若い方だと、こちらが知らないマニアックな知識を大量に知っておられる一方で、過去に「常識」だった事をまったくご存知ない、というようなジェネレーションギャップがあって非常に困惑する。

 ブリーディングをしないなら識別知識など知る必要は無い、と言われればその通りだろう。が、かつては趣味家が普通に見聞きしていた情報が、どこかの段階で伝承が ぷつん、と切れてしまっている。そしてネットには古びた知識を記録しているサイトは稀で、普通の生活をしていればそういう特殊な情報に接する機会はまず無い。

 過去のウチョウラン専門書も何冊か見てみたが、遺伝に関する解説を書いてあるものは探し出せなかった。管理人自身もこういう知識を、いつ、誰から教わったのかまったく記憶にない。自分自身で発見したのではない事は確かなのだが・・

 わざわざ記録するような情報ではない、わざわざ殖やすような草ではない…誰もがそう思っているものは、誰もモノや情報を残そうとしていない。そして気がついてみると、オキナワチドリ沖縄本島個体群のように、いつのまにか全部この世から消えているのだ。

Sophora tomentosa

in Habitat. Okinawa island, Japan.

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イソフジの花。沖縄本島中部、東海岸にて。

 

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熱帯域の海浜に自生するマメ科の低木。日本では奄美大島が分布北限らしい。

葉に海水をはじく短毛が密生して銀色に見え、ビロード調の手触りである。鉢植えにするには少し大きすぎるので盗掘されることはほとんど無いようだが、沖縄本島では本種が生育できるような自然海岸の多くが開発されてしまい、野生状態で見ることは難しくなってしまった。稀に庭園植栽されていることもあるが、あまり一般的に見かける植物ではない。

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果実は数珠状でユニークである。いわゆる「漂着豆」の一つであり、サヤごと海流に流されて近在の海岸に種子散布されるようだ。どの程度の距離まで到達可能なのかは資料が見つからなかったが、陸地から遠く離れた小笠原にも分布しているようなので海流、あるいは海鳥に飲み込まれて遠い島まで移動しているのかもしれない。参考サイトはこちら。

www.asahi-net.or.jp

沖縄本島の西海岸はここ数年で再開発が進み、海岸線が削られまくってリゾート設営されたうえにホテル資本に囲い込まれ、地元住人が入りこめなくなったりしている。かつてはあの場所にもあの花があったものだが…などと哀しい気持ちで遠くから眺めている。