オキナワチドリの枯らし方(その3)

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山野草ミニ盆栽」誌、2018年陽春号(Vol.127)

休刊前のラストラン特集・野生ランを育てる①

・・良い雑誌だったが、出版不況には勝てなかったようだ・・

 

東京ドームのラン展において、オキナワチドリで日本のラン部門第一位を受賞した谷亀高広氏が、「オキナワチドリ・ラン展受賞秘話&栽培法」という記事を品種解説・カラー写真入りで4ページ執筆されている。オキナワチドリに興味のある方はご一読をお奨めする。他の記事も資料的価値があるので、野生蘭マニアなら買って損はないと思う。

以下、先日に続いてオキナワチドリの枯らし方講座。

 

4.オキナワチドリ専用の作場を用意しない

オキナワチドリの栽培適温は、谷亀氏によると「夜間3℃、日中15~20℃」。ずっと低温だと生育が遅れてジリ貧になり、ずっと高温だと生理障害をおこして早期に落葉休眠してしまうので同様にジリ貧になるという。

沖縄本島の冬の気温は夜間15℃、日中20℃前後。那覇市内の場合、気象庁の記録を見ると2018年1月に最低気温が10℃以下になったのは2日だけだった。谷亀氏の情報からすれば温度が高すぎることになる。まあ、日中の気温が20℃を超えなければ栽培はできるのだろうが、沖縄が分布南限であることを考えれば生存ギリギリの気候ではあるのだろう。ちなみに分布北限である九州産の個体群は沖縄本島産よりも生育適温が低いようで、管理人の作場では高温障害と思われる症状が出てしまい、うまく育てられない。

おそらく最低気温が3℃くらいで、日中が15℃くらいの地域なら何一つ工夫せずとも上手に育てられるのだろう。しかし残念ながら、日本にはそういう地域は屋久島の海岸付近ぐらいしか見当たらない。

本州南部の太平洋側も似たような気候ではあるが、寒波が来れば氷点下になることもある。冬緑性の植物は、ある程度は保護しないと安定して越冬させるのは難しそうだ。分布北限が宮崎県であることからしても、それより北の地域では屋外では長期栽培は難があると考えるべきだろう。

が、栽培者から情報を集めていると、関東地方あたりから「保護なんかしなくても屋外で冬を越します」という話が聞かれる。よく聞いてみるとこれまた例のパターン。つまり「充実した球根を植えれば、劣悪な環境でも花が咲くまでは育つ」というアレである。

元気に花を咲かせてはいるが、低温のため新球根の肥大が止まっている。よって開花したあとは息絶えて終了である。栽培情報としてガセ以外の何物でもないのだが、オキナワチドリは多少の凍結ぐらいなら即死はしないから「屋外でも冬を越す」も嘘ではない。そういう話が一次情報として流布されているのを聞くと頭が痛くなる。

別のパターンとしては「さすがに霜に当てたりするのは危険なので、最低でも3℃はキープしてください」と言ったら最低3℃、最高7~8℃の場所で育ててしまうケース。最低15℃、最高20℃でも一応は育てられるのと同様、最高温度が10℃に満たない環境でも育たなくはない。ただし最適条件ではないので生育はそれなりに悪くなる。病気や事故で「作落ち」させると回復できずに消滅コースである。

結局のところ「夜間3℃、日中15~20℃の置き場を作ってそこで育てる」が最適解になるのだが、実際にやるとなるとあまり簡単ではない。沖縄では機械的に冷却しない限り10℃以下にできないし、本土では何らかの手段で加温しなければ降雪の日などに温度が保てなくなる。温度を下げるより上げるほうが楽だから、そういう意味ではどちらかといえば本土のほうが栽培適地と言えなくもない。(まあ最近はワンルームマンション在住で、20℃以上の室内と氷点下のベランダしか置き場が無く、純熱帯植物か凍結植物しか育てられない方もおられるようだが)

本土の太平洋側で冬期の日照が十分に得られ、自宅にサンルームがあるのでほとんど温度調節しなくても最適温度が保てる、というような場合は栽培管理にあまり苦労しないと思う。日本海側や北向きの部屋だったとしても、最低温度が3℃以上という条件がクリアできれば栽培は可能。室内ビニール温室の中に熱帯魚用のLED照明をつるせば日照の問題は解決できるし、照明の発熱で日中10℃以上も容易に達成できる。

ただ、そういう設備を用意するにはそれなりに予算がかかる。時価500円程度のオキナワチドリを育てるために総額数万円の栽培設備を用意する、という人がどれだけいるだろうか。どちらかというと、お金などかけずに適当な置き場所でごまかそうとする人のほうが多いのではないか。思うに、この「手抜き」こそがオキナワチドリの長期栽培ができない最大の原因だ。

用土、日照、消毒、殺虫、あらゆる管理において手抜きが少しずつ積み重なることで、栽培成績が相乗的に悪くなっていく。一旦作落ちさせてしまうと、植物の体力が落ちるため現状維持するのがさらに難しくなる。栽培開始後3年目ぐらいまでは「そこまでしなくても育てられるし・・」と笑っていた人達が、5年目ぐらいを過ぎるとほとんど全員が無口になってくる。結局のところ、最初から本気モードで挑まなければ長期栽培ができない植物なのだろう。

にもかかわらず、野生蘭愛好家の間ではオキナワチドリは入門種、初心者が育てるランという位置づけになっている。球根を植えれば初年度は馬◯でも育てられるからだろう。ステータスとしては小学生がプランターに植えているチューリップと同列の扱いだ。

だが、ちょっと考えてほしい。チューリップはオランダの業者が大量生産しているから消耗品扱いしても問題ないが、ああいう生育が遅くてウイルス耐性が皆無に近い植物を日本国内できちんと長期維持できる園芸家が日本に何人いるだろうか。(耐病性があって長期栽培が難しくない種類もあるようなので一概には言えないが)平均的な栽培難易度で言えば、チューリップはランに勝るとも劣らない難物だということを忘れないでいただきたい。(続く)

オキナワチドリの枯らし方(その2)

Amitostigma lepidum in habitat.

Higashi village, Okinawa island, Japan.2018

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自生地のオキナワチドリ。この自生地ではもう数える程度の本数しか残っていない。

沖縄本島では開発と植生遷移、台風による自生地攪乱などによって毎年のように自生地が消滅しつづけている。以前であれば問題にならなかった程度の採集圧も、今では自生地に最後のとどめをさす要因にランクアップしてしまった。それに加えてまともに育てられる人が(植物園も含めて)ほとんどおらず、採集されたほぼ全個体が消費的に栽培されている。現時点ですら県内にはまったくと言ってよいほど栽培品として残っていない。このままであれば、20年も経てば本島では野生・栽培を問わずオキナワチドリを見ることは不可能になっていると思う。

さて、前回に続いてオキナワチドリの「枯らし方」をまとめておく。

2.肥料を与えない

オキナワチドリは肥料に対する反応性が良い。肥料をどっさり与えると「翌年の」生長が露骨に良くなる。

先日書いたように、当年に吸収された養分は球根に蓄積されて、翌年になってから使われる(ように見える)。つまり、肥料をやってもやらなくても、その年の生育はそう極端には変わらない。充実した球根を植え付けていれば、どんな栽培をしてもその年は普通に花が咲く。「肥料なんかやらなくても普通に育つ」初めて栽培した人だとそう思ってしまうが、そこが最大の落とし穴。順調に育っているように見えるが、じつは「球根の水栽培」をしている状態だ。翌年にどうなるかは言うまでもない。

常識的に考えて、必要以上に濃い肥料を与えれば肥料負けする・・と思うのだが、肥料過多で枯らしたという話は聞いたことがない。海岸の海水をかぶるような場所にも生える植物なので、おそらく過剰塩類などに対する抵抗性が強いのだろう。(これは推測であり根拠は無い。引用しないように。)

オキナワチドリは土中深くにストロン(地下茎)を伸ばして新球根を作るので、用土内に肥料を混入しているとストロンが肥料に当たって傷む。そこで置き肥、もしくは液肥を使って肥培する。まあ肥料をやりすぎれば、大きくなりすぎて風情が無くなるのだが、そういう心配は風情が無くなるほど大きく育てられるようになってからすればよろしい。肥料不足で一年ごとに小さくなっていくほうがはるかに怖い。

ちなみに「山野草的にちょうど良い大きさ」は、オキナワチドリの場合、何かトラブルがあった場合には速攻で回復不能になるような、余力の無いサイズだ。小さく締めて作る、というのは弱っても簡単に回復可能な、生育の早い植物にのみ許される話。体が弱いのに貯蓄が無いミニマムライフは無駄のないライフスタイルではなく、単なる貧困である。

(余談になるが、沖縄ならではの例外的事例として、鉢植えを庭に置いておいたら種子が風で飛んで他の植物の鉢植えの中から次々と発芽してきたという話がある。本土で言えばネジバナと似ている。そういう苗の場合にはラン菌が共生しているのでまったく肥料を与えなくてもしぶとく育つ。しかしネジバナと同様にそのままだと短命で、植え替えて管理栽培に移行しないと菌類遷移と共に消滅する)

なお、与える肥料の種類(ブランド)や成分比率が生育に大きく影響するが、それに関しては「育て方」になるので割愛する。

3.植え替えをしない

「植え替えしてないけど、今年も元気に花が咲きました」2年目の栽培者に多い勘違いがこれである。

オキナワチドリにはどうも連作障害があるようで、毎年きちんと植え替えて新しい用土に更新しないと生育が悪くなる。また、オキナワチドリは長く伸びた地下茎の先に新球根を作るので、新球根が鉢底の変な場所にもぐりこんでいることが多い。植え替えしないでいると鉢底から芽を出したり、地上に芽を出せずに途中で腐ったり、芽が出ても鉢底の水分環境が良くない場所で育つことになって新球根の肥大がものすごく悪くなったりする。

何度も言うようだが、オキナワチドリは球根がまともな時には少しぐらい環境が悪くても花が咲く。「植え替えなくても元気に育つんだ」と思って安心していると、その年の植え替えの時に新球根がほとんど形成されておらず愕然とすることになる。まして「今年も元気に育っていたし、さらに一年ぐらい植え替えなくても大丈夫だろう」などと考えるのは馬鹿の極み。3年目にはもう1本も発芽してこない。

オキナワチドリは毎年の植え替えが必要不可欠。植え替えが嫌いな人は最初から手を出すべきではない。また、生育中の植え替えが難しい(植え替え自体は可能だが、新球根のできる地下生長点をうっかり傷つけると回復不能になる)ので休眠中か、遅くても発芽初期までに時期をのがさぬよう植え替えておかねばならない。「うっかり放置して葉が伸びてきてしまったから、今年はこのまま育ててしまおう」はい、アウト。あなたは性格的にオキナワチドリとは相性が悪い。他の植物の栽培をお奨めする。(続く)

オキナワチドリの枯らし方(その1)

Amitostigma lepidum, unnamed seedling in 2018.

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オキナワチドリ実生。

ネットを見ていると、オキナワチドリを育てている人はそこそこ見つかる。が、栽培情報を書いてくれている方があまり見当たらない。備忘録的に「枯らし方」をメモしておくことにする。

え、枯らし方?と思う方もおられるだろうが、育て方というものは栽培者の栽培環境によってそれぞれ最適解が異なる。違う環境の人が他人の育て方を表面だけ真似しても、総体的なバランス調整に失敗して枯らしてしまうことは珍しくない。

「これをやったら成功しました」は多くの場合、唯一無二の成功手段ではない。他にも成功につながる方法は探せば見つかるものだ。前述のように他人が下手に真似するとかえって痛い目を見る場合すらある。一方で「これをやったら失敗します」を無自覚にやらかした場合、栽培条件にかかわらず高率で致命的な結果になる。それゆえ現場では「これだけはやってはいけない」という禁忌事項を学習しておくほうが重要だと思っている。

1:弱った苗を買う

オキナワチドリの生育状況を観察してみると、当年の植物体は、球根に蓄積されている前年度の栄養分によって生長している、と考えるのが妥当のように思われる。(つまり当年に吸収・生産された栄養分は新球根に蓄積され、翌年になってから使用されている)

前年に劣悪な扱いをうけていた苗だと、新球根のサイズはある程度大きくなっていても、その内部は水分ばかりで栄養分が充分に蓄積されていない。そういう球根を植え付けると、どれほど良好な栽培をしても最低でも翌年まではまともな生育をしてくれない。虚弱な品種だと、一度衰弱させてしまうと順調に生育するようになるまで数年以上、回復に5年も6年もかかる事すら珍しくはない。

自分の作場における最適解を把握していない人が、弱った苗を入手してしまったら試行錯誤しているうちに枯れてしまう。適切に管理できたとしても、生きるでもなく枯れるでもなく・・という状態がいつまでもグズグズ続く。1年か2年で「これは駄目だ」と決めつけて、管理の手を抜けば枯死一直線だ。

山から掘ってきたばかりの苗を購入する、などというのは問題外。盗掘の是非とかいう問題以前に、苗の扱いが粗雑で商品として落第点のものが多い。特に沖縄本島産の野生個体は性質の虚弱なものが多い。自生地と栽培場では環境が異なるので適応させるのも容易ではない。栽培経験値の高い人でなければ翌年まで生かしておけるかどうかも疑問である。採取時に新球根がちぎれていたりしたら、栽培の達人でも回復させるのは無理だろう。

一方で充実した栽培球であれば、植えつけて真面目に灌水していればとりあえず花は咲く。そのあと充実した新球根ができているかどうかは栽培者の育て方しだい。翌年に「作上がり」してより大きな株になっていれば栽培成功。

しかし栽培状況が最適解からずれていた場合、分球して数は増えていても球根のサイズが小さくなっている。翌年の株のサイズも球根に見合った小型株になる。オキナワチドリの場合、栄養状態が悪くなっても着花数にはあまり変化がなく、全体の大きさだけがどんどん縮んでいく。「なんだか小さくなったけれど、このほうがかわいい♪ 花数も減ってないし問題なさそう♪」などと能天気なことを言っているうちに毎年衰弱が進んで、そのうち回復不能になる。

「最初の年はすごく元気だったし、増えてたから育て方は間違ってなかったはずなんだけど・・安心して気を抜いたせいで枯れたかな?」などと無自覚に語っている方をしばしば見かけるのだが、入手した年の生育は前年の養分を使っているので、生育状況と栽培者の栽培能力は比例していない。でっかいヒヤシンスの球根を買えば水栽培でも花が咲くが、それはあなたの栽培技術で咲かせた花なのか?

気を抜いた? 一体いつから ー 気を抜いていないと錯覚していた?

入手した年がピークであとはジリ貧、という状況でも、そういう育て方をしていることに気付いていない。「わーい花が咲いたよ~」と無邪気にインスタで報告。いやいやいやその育て方ではそのうち消滅します。それとも3年ぐらい咲いたらあとは枯れてもいいや、って考えの人ですか?

まあ、普通の人の「園芸」は花が終わったら捨ててしまう消費栽培なので、3年も生かしていれば、素人相手には十分に上級者面できる世界ではあるのだが。(続く)

Amitostigma lepidum seedling

unnamed seedlind in 2018.

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オキナワチドリ実生初花。現在の基準で言うと、とりたてて命名するほどの個体ではない。が、形質として若干気になる要素もある。

業者が扱っている実生寄せ植えの中から、こういう個体を引いてきて交配に使ってみると思わぬ発展につながることもある。

Aristolochia liukiuensis

in Habitat. Okinawa island, Japan.

f:id:amitostigma:20180315151126j:plainリュウキュウウマノスズクサ沖縄本島北部にて。

ウマノスズクサ類は独特の個性ある花を咲かせるので、好き嫌いが分かれる。海外の同属には巨大な花を咲かせる種類もあり、日本でも少数ではあるが苗が流通している。

アリストロキアとは|ヤサシイエンゲイ

本種も含めて、ウマノスズクサ類は栽培自体はそれほど難しくはない。しかし性質にやや癖があって気を抜くと調子を崩しやすく、万人向けの園芸植物とは言い難い。大型のツル植物で栽培に場所をとることもあり、個人宅で栽培している例はあまり多くないようだ。大型なので鉢植えの場合には植え替えが大変なことや、耐寒性がそれほど強くない、などの点からも本土での栽培にはどちらかといえば向いていないと思う。本土で育てるのであれば本土産の小型耐寒ウマノスズクサ(アリマウマノスズクサなど)のほうが適切だろう。

ウマノスズクサ類の根は、中国では漢方薬(青木香:せいもっこう)として利用されることがあるというが、発癌性・腎臓毒性をもつアリストロキア酸を含有しているため、日本では加工品(漢方製剤)を含めて販売は禁止されている模様。

 Byasa alcinous in Aristlochia.

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リュウキュウウマノスズクサについていた、羽化直後のジャコウアゲハさん。本種は沖縄では1月頃から1回目の羽化がはじまり、春の蝶の代表選手をつとめる。食草であるウマノスズクサ類の植物毒を体内に蓄積しているため猛烈に不味いと言われ、うっかり食べた鳥はすぐに吐き出して二度と狙わなくなるという。

www.pteron-world.com

誰か味見をしてみた人がいないか検索してみたが、舐めてみた人はいるようだがムシャムシャ食べた人は見つからなかった。まあ発癌物質を含んだ蟲を試食する人はさすがにいないようである。(笑) 

in Japan Grand Prix International Orchid Festival 2018, Tokyo.

Amitostigma lepidum 'Zuisen'

cultivated by Takahiro Yagame, Saitama pref. Japan.

flowerpot make by Syunji Mituhashi, Tokyo,Japan.

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知人による2018年、東京ドーム蘭展からのレポート。(掲載許可済)

 

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Yomiuri News, 18/02/2018.

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読売新聞2018年2月18日朝刊より引用。

品種名は泡盛の銘柄「瑞泉」からの借用だそうだ。命名当初は瑞泉酒造に遠慮して文字を変え「瑞仙」としていたそうだが、増殖流通過程でいつのまにか「瑞泉」に戻ってしまっている模様。ネットオークションなどで稀に見かけるが、「瑞泉」となっていることが多い。

亡き師匠が20年ほど前に沖縄本島今帰仁村の大点花の坪(現在は植生遷移で消滅)で発見した個体。その後、複数の栽培者によって栽培増殖され今に至る。この新聞記事は師匠の墓前に供えたいと思う。

ちなみに使用されている植木鉢は東京三鷹市「欅窯」作成の雪割草鉢。沖縄の壺屋焼にこういう趣のある鉢があったら申し分がないのだがなあ・・

Post Cards

Old postcard by Imperial Japan Orchid Club, before WW2.

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蘭花絵葉書、某蘭展にて。1917年(大正6年)に発足した帝国愛蘭会が発行したもの。当時は温室を作ってランを栽培できるのは皇族か貴族、大富豪ぐらいだった。10代の学生さんが珍種の蘭を地球の裏側から通信販売で買える昨今から見れば、華族様の栽培品といえど驚くような部分はどこにも無い。もしかしたら、そこらへんの花屋で売っている鉢植えの洋蘭のほうが上等かもしれない。

が、栽培面積に関しては、さすがに今の庶民とは比較にならないようだ。帝国愛蘭会の初代会長、大隈重信の自宅の温室が記録写真として残っているが、自宅の温室内で晩餐会が開ける人が今の日本に何人いるだろうか?(ちなみに大温室は庭園の一角にすぎず、これ以外に広大な盆栽栽培場や花壇がある。言うまでもなくメインの邸宅も敷地内にドーンと建っている)

www.shuminoengei.jp

むろん、こんな規模を自分一人で管理できるはずもない。栽培品は庭師や下男に世話させて、花が咲いたら報告させ貴婦人を招いてお茶会である。ラン栽培というのは、本来はこういうふうに管理を外部発注して、自分の労力は最小限に留めるようにするのが理想ではある。

仕事や家庭のある普通の人が、放任栽培できないデリケートな種類(地生蘭の大部分)を自分一人で世話を続けていると、どこかで体力的に続けられなくなって心が折れてしまう。(着生蘭は吊るしておくだけで育つ場合があるので、環境によっては長期維持も可能。地生蘭の場合も、実際には栽培者の心が折れる前にランが死んで、それで終わりになっているほうが多いと思われる)

貧乏人が「管理人つき温室レンタル」や「無菌播種・種苗生産委託」を利用することなく自分だけで系統保存しようとしたら、難物のランであればバックアップ苗まで育てている余力はほとんど無いだろう。その結果として高率で「マンパワー不足による絶種」が発生してくる。根本的な解決策の無い状況のまま、枯らしたら業者から再購入して命の消費を続けていくか。あるいは二度と絶種させぬよう尋常でない労力を注入することにして、蘭の奴隷になりさがって一生を終えるか。

一般的な園芸であればそこまで深く考える必要はない。業者に増殖生産を丸投げし、自分は花だけ楽しんで、気が済んだら枯らしてしまえば良い。「育てる苦痛」を楽しめる変人 選ばれた趣味人でなければ、ランのような面倒な植物の長期栽培など、最初から考えないほうが良い。だが、その植物が生産品ではなく野生採取の場合、生産品と同様に消費栽培してしまうのはいかがなものか。

そう考えると、育てるのに苦労する野生植物は、維持する労力を金の力で解決できる貴族様だけが手を出してよい園芸趣味なのかもしれない。まあ独身貴族が趣味にすべてをつっこんで一生を終える・・そういうのもまた人生なのかもしれないが。