Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Phalaenopsis Anna-Larati soekardi

cultivate by A.Orchid nursery@Okinawa.

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コチョウランの小型原種交配。(Phal.pulcherrima ×parisii)

沖縄のA洋蘭園の栽培品。花型はparishiiに近い印象。

 

この交配種を親にした後代も作出されているが、山野草的でなかなか面白い。

http://farm4.staticflickr.com/3692/12415286704_87e1734d44_c.jpg

(Phal.Anna-Larati soekardi X (lobbii X thailandica))

 

日本のコチョウラン生産はご贈答用の鉢植えが主体で、単価を抑えるために播種や育苗の段階が東南アジアに丸投げされていることも多い。マニアックな交配種は生産数が少なく、一般的な花屋だとどこでも同じような交配種しか扱っていないため面白味に欠ける。耐寒性のある落葉性コチョウラン、一般的には交配に使わない小型種や、日本特産のコチョウランである(セディレア属からファレノプシス属に変更された)ナゴランなどを親に使って、シンビジウムの「和蘭シリーズ」のように従来の洋蘭とは異なる方向性の育種をしてみるのも面白いと思うのだが。

ちなみに宮崎の某業者さんは日本産のナゴランや富貴蘭セッコクなどを片親に使って、秀逸な洋蘭交配種を多数作出している。

チュウミズトンボの種子

continue from 01/08/2017

25 days after pollination

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8月1日の記事の続き。

(ミズトンボ×オオミズトンボ)×セルフ、交配後25日目

 

seed pods

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果実の拡大画像。

 

almost mature embryo of 25 days seeds

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 稔性チェックのため果実から取り出した種子、拡大画像。交配後25日で胚はほぼ成熟しており、稔性も良い。

 

・・・え?

・・・えええええええ????

稔性がある???

 

 ハベナリア類の異種間交配種は、一般的に稔性がきわめて低い。

 たとえばスズキサギソウ(ミズトンボ×サギソウ)は交配すれば果実が膨らむが、内部にできる種子はほとんど全部が無胚種子で、蒔いても発芽はしない。スズキサギソウを母体にして正常なサギソウの花粉を受粉させれば、ものすごく低い確率で発芽力のある種子ができる「こともある」ようだが、基本的にはほぼ完全不稔に近い。(スズキサギソウを花粉親にした場合は花粉の活性が低いためか、ほとんど受精しない)

 ハベナリア・ロードケイラ種群内での交配のような、ごく近縁の交雑であれば稔性が保たれる「こともある」が、それ以外のハベナリア種間交配種はことごとく不稔になる。自家受粉でも有胚種子ができるような高稔性の交雑種は管理人には心当たりが無い。

・・まあ普通の人の感覚では、種子ができたからって何が嬉しいの?と思うだろうが、この交配種の場合はちょっと背景が特殊だ。

 ハベナリアは個体寿命が短いので実生更新できないと栽培維持は困難。だが日本国内のオオミズトンボは近親交配が進んでおり、限られた種親から増やされた増殖流通個体だけでは今後の世代更新を続けるのが絶望的な状況にある。

 しかし園芸的な視点だけを考えるなら、外見上オオミズトンボに見えるランであれば、実際には雑種であっても観賞的な面では問題ないのではないか? 虚弱で殖えず実生苗もできない純血ニオイエビネより、強健で実生の容易なニオイエビネ型コオズ(ジエビネの血が混ざった交雑種)のほうが園芸的には優良ということはないか? 完全消滅する前に、雑種でも良いから遺伝子だけでも残しておいたほうが資源的には良いのではないか? ミズトンボを交配親に使えば、国内絶滅が確実視される「オオミズトンボ」を園芸植物として残せるのではないか?

 ・・と言えば「交雑は遺伝子汚染である。雑種として残すぐらいならむしろ滅びたほうが良い」という意見も出てくるだろうし、安易に雑種を作ることに問題がないとは言わない。

 というか、一目見て種間交配種と判るランを、珍しい山採り原種と偽って素人に高額で売りつけた事例が山ほどある山野草業界が、洋蘭のような交配血統の記録管理などするわけがない。市販の「ヒナチドリ」を遺伝子解析してみたら「これは遺伝子的にはウチョウランですね」という結果が出てしまった事例も論文になっている。業者も趣味家も血統管理という点では信用ゼロどころか思いっきりマイナス評価である。

 まあ、現時点では何を語っても妄想の域に留まる。とりあえずこの種子はぜひ育ててみてほしいと伝えておいた。

 

*2019年追記。

 健全な種子に見えたが培養してみると発生途中でほとんどが褐変枯死してしまい、F1交雑個体のセルフ及びシブリング実生は育成できなかったとの事。ただしオオミズトンボの花粉を戻し交配したものは苗が得られた模様。

Tylophora matsumurae

flower

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ヒメイヨカズラ。ガガイモ科の多年草

知人から実生苗を譲ってもらったもので、正確な産地は不明。野生での分布域は鹿児島県(島嶼)以南、琉球列島。伊豆諸島・九州・沖縄に分布するツルモウリンカの海岸型矮性タイプと言われているが、確定されてはいないようだ。

野生では草丈10㎝程度の場合が多く、自生地画像を見ると山草的でかわいらしい。ごく一部ではあるが興味を持つ人もいるので業者が苗を販売することがある。(栽培してみると間延びしやすく、鑑賞的に育てあげるのは意外と難しかったりするのだが、まあそれは置いておくとして)自然愛好家からは「絶滅危惧種が売り買いされているのはけしからん!」と非難されたりもする。

こういうものをブログのネタにすると、一歩間違うと炎上する原因になるため危険である。管理人は判っていてやっているので何かあっても自己責任だが、良い子は真似しないように。

ちなみに本種は海岸の石灰岩の隙間に長く根を伸ばしていることが多いため、盗掘しようと思ってもそれほど簡単ではない。園芸需要が多い植物でもないので買い取る業者も少ないだろうし、流通価格も安いので販売目的で盗掘される事はあまり多くないと思っている。まあ思っているだけで根拠は無いのだが。

 

seed pods

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こちらは果実。二個ずつの果実が角状に伸びて珍妙である。花よりも果実のほうが観賞価値があると言う人もいる。

ガガイモ科は自家不和合のものもあると聞くが、ヒメイヨカズラは例外的に自家結実、それも自動受粉で全部の花が勝手に結実する。人工交配する必要が無いうえに近交弱勢もない。種子は大きくて播きやすく、苗を育てるのも容易。

要するにこの植物の場合、岩場の野生株を苦労して掘ってきて馴化するより、種子がはじける頃に果実を1個採ってきて、圃場で蒔いて殖やしていくほうが楽である。

これが野生蘭の場合であれば、多くの種類はウイルス耐性が低くて長期栽培が難しく、実生育成するのも特殊な設備や技術が必要になる。仮に実生技術があっても近交弱勢が激しく、一系統だけ手に入れても継続した実生は不可能だったりする。平均的レベルの園芸家が育てればほぼ確実に消費的栽培になる。そして増殖コストがかさむのに高額では売れない、という植物は業者があえて殖やそうとしないため、販売流通する原種蘭は野生採取個体(の畜養品)だけになっている。

そういう植物であれば販売が非難されるのも当然だろうし、何らかの形で販売流通を規制していく必要もあるだろう。というか、あらゆる希少種に対して「種(しゅ)の保存法」のような法的規制が現実にガンガン進められつつある。

栽培も増殖も容易で採集圧も低い植物を「絶滅危惧種だから売り買いするな!栽培するな!」と抑圧してもあまり意味はないだろう。が、逆に栽培・増殖が難しくて採集圧が高い植物を深い考えもなく入手し、不特定多数の人が見られるブログに載せるのもクールな趣味家のやる事とは言い難い。

どの植物であれば栽培・紹介する対象として妥当といえるのか、線引きの判断はなかなか難しい。しかしまあ、今の時代の流れとしては、普通の趣味家は営利生産されている「園芸植物」のみを栽培対象にしておくほうが余計なトラブルを避けられるだろうとは思っている。

 

seeds

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10月2日追記。完熟裂開した果実&種子。

ガガイモ科の種子には冠毛があって風で飛ぶ。いわゆるケサランパサランの正体の一つ。モフモフしていてちょっと可愛い。

チュウミズトンボ(仮称)

Habenaria sagittifera X Hab. linearifolia

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ミズトンボ♀ X オオミズトンボ♂

人工交配個体。某植物園バックヤードにて撮影。仮称はチュウミズトンボ(笑)

萼片がミズトンボより白いが、後ろに強く反転する特徴はミズトンボに近い。距の形状は両親の中間型。唇弁はミズトンボによく似ており、中間型ではあるがどちらかと言えばミズトンボ寄りだろうか?(異論は認める)

オオミズトンボはミズトンボと混生していることがあるので、自生地でも自然交雑していておかしくないのだが、印刷物になった発見報告をまだ見たことがない。

が、aoikesi氏のブログ「蔵王のふもとから」において、オオミズトンボ自生地で撮影されたミズトンボ交雑種と思われる野生個体の画像が公開されている。

zaonofumoto.blog107.fc2.com

 

in Habitat. Fukushima pref. Japan. 08/2016

Photo by Ms.aoikesi

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上の画像はaoikesi氏のブログから引用させていただいた。おそらくこれが日本で唯一の野生交雑種の画像だろう。学会発表しても良いくらい貴重な記録であり、ハベナリア好きの管理人は参考資料として画像保存させていただくことにした。

今までも自然界で交雑個体が出現していると思うのだが、ミズトンボやオオミズトンボだと誤認され、存在を認識されていなかったのではなかろうか。(注:推論であり根拠は無い)

現在ではオオミズトンボの自生地数・自生個体数が激減しているので、このような交雑個体が新規に出現する可能性は非常に低くなっていると思う。

人工交配個体の栽培者の話では、交雑種に稔性があるかどうかは未確認とのこと。しかしミズ・オオミズ混生地で浸透性交雑による雑種個体群が生じていないことから推察して、おそらく一代かぎりの不稔雑種だろうと予想している。

(追記:下記に追加記事。2021年にこの自生地で後代と思われる個体が撮影され、野生で雑種個体群ができている可能性がある)

Diplocyclos palmatus

in Okinawa island.

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オキナワスズメウリ沖縄本島那覇市にて撮影。

台湾からインド、オーストラリアやアフリカまで広く分布しているようだが日本国内ではトカラ列島以南、ほぼ沖縄にしか自生していない。そのため一昔前には知っている人のほうが少ない珍草だった。しかし業者が観賞用に苗を販売するようになって一気に普及し、本土のガーデンセンターなどでも定番商品になっていると聞く。

基本的には一年草だが、沖縄では枯れずに越冬しているのを見かける。そのへんに生えている雑草という感覚なので、わざわざ育てている人はそれほど多くないように思う。しかし綺麗なので、庭先などに生えてきても抜き捨てられずに育つがままにされていたりする。

栽培自体は難しくないが、発芽温度が高くて生育期が長いため、夏の短い北関東以北で普通に種を播くと果実が赤くなる前に気温が下がって生育が停止してしまうようだ。本土では電熱育苗床などを使って早めに発芽させるか、業者が加温促成栽培した苗を買ってきて植えつけたほうが良いらしい。

また、ウリ科の植物は病虫害にそれほど強くないので状況によっては薬剤散布も必要になる。生育中期以降に大量の水分を吸い上げるので大型プランターか、地植えにしないと水切れ・肥料切れもおこしやすい。いずれも予防策を講じることはさほど難しくないが、本土では生育適温期が短いので、対応が後手に回ってつまずくと生育の遅れを回復する時間的余裕が無くなってしまう。基本的には強健種と言えるのだろうが、園芸・家庭菜園の経験値が乏しいと思うように育てられない場合もあるようだ。

Chloraea bletioides

from Chile.

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栽培するのが割に合わない蘭シリーズその3、クロラエア・ブレチオイデス。知人の栽培品で性質はクリサンタに準ずるとのこと。これも数年前に某業者が限定販売したランで、最近ではヤ〇オクにも出品があった。

今回紹介したクロラエア属の中では最も花が大きく、中輪シンビジウムぐらいの大きさ。かすかな香りはあるがほぼ無香。環境条件が良ければ一つの花が1ヶ月以上持つとのことで、切り花に使えそう。

観賞価値は低くないが、腐りやすくて折れやすく、順調に育ったとしても数年に一度しか咲かないようで園芸向きの植物とは言い難い。普通の人だと花が咲くまで育てるモチベーションが続かないかもしれない。

Chloraea incisa

from Chile.

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栽培するのが割に合わない蘭シリーズ、その2。

チリ産の地生蘭クロラエア・インチサ、管理人栽培個体。数年前に某業者が数量限定でネット通販していたラン。性質は前回のクロラエア・クリサンタとほぼ同じだが、花に微香がある。草姿は見ただけで脱力して撮影する気力が出なかった、と言えば想像していただけるだろうか。観賞価値と咲かせるまでの労力対効果を総合的に考えると、一生育てる機会がなかったとしても悔いることのない花だと思われる。

 

20 days after polination.

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ビニールハウス内で雨に当たらぬよう注意しながら栽培したが、高温と高湿度のためか、交配後20日目に花茎が腐って倒れた。果実を切り開いて確認してみたところ、種子はすでに着色していた。稔性は低かったが有胚種子に関しては胚はもう十分に発育しているように思われた。データ収集のため播種してみたが、発芽するかどうかは現時点では不明。暖地だと親株が花後に枯れる率が高まるようなので、今後どうなるか観察したいと思う。