Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Diplocyclos palmatus

in Okinawa island.

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オキナワスズメウリ沖縄本島那覇市にて撮影。

台湾からインド、オーストラリアやアフリカまで広く分布しているようだが日本国内ではトカラ列島以南、ほぼ沖縄にしか自生していない。そのため一昔前には知っている人のほうが少ない珍草だった。しかし業者が観賞用に苗を販売するようになって一気に普及し、本土のガーデンセンターなどでも定番商品になっていると聞く。

基本的には一年草だが、沖縄では枯れずに越冬しているのを見かける。そのへんに生えている雑草という感覚なので、わざわざ育てている人はそれほど多くないように思う。しかし綺麗なので、庭先などに生えてきても抜き捨てられずに育つがままにされていたりする。

栽培自体は難しくないが、発芽温度が高くて生育期が長いため、夏の短い北関東以北で普通に種を播くと果実が赤くなる前に気温が下がって生育が停止してしまうようだ。本土では電熱育苗床などを使って早めに発芽させるか、業者が加温促成栽培した苗を買ってきて植えつけたほうが良いらしい。

また、ウリ科の植物は病虫害にそれほど強くないので状況によっては薬剤散布も必要になる。生育中期以降に大量の水分を吸い上げるので大型プランターか、地植えにしないと水切れ・肥料切れもおこしやすい。いずれも予防策を講じることはさほど難しくないが、本土では生育適温期が短いので、対応が後手に回ってつまずくと生育の遅れを回復する時間的余裕が無くなってしまう。基本的には強健種と言えるのだろうが、園芸・家庭菜園の経験値が乏しいと思うように育てられない場合もあるようだ。

Chloraea bletioides

from Chile.

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栽培するのが割に合わない蘭シリーズその3、クロラエア・ブレチオイデス。知人の栽培品で性質はクリサンタに準ずるとのこと。これも数年前に某業者が限定販売したランで、最近ではヤ〇オクにも出品があった。

今回紹介したクロラエア属の中では最も花が大きく、中輪シンビジウムぐらいの大きさ。かすかな香りはあるがほぼ無香。環境条件が良ければ一つの花が1ヶ月以上持つとのことで、切り花に使えそう。

観賞価値は低くないが、腐りやすくて折れやすく、順調に育ったとしても数年に一度しか咲かないようで園芸向きの植物とは言い難い。普通の人だと花が咲くまで育てるモチベーションが続かないかもしれない。

Chloraea incisa

from Chile.

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栽培するのが割に合わない蘭シリーズ、その2。

チリ産の地生蘭クロラエア・インチサ、管理人栽培個体。数年前に某業者が数量限定でネット通販していたラン。性質は前回のクロラエア・クリサンタとほぼ同じだが、花に微香がある。草姿は見ただけで脱力して撮影する気力が出なかった、と言えば想像していただけるだろうか。観賞価値と咲かせるまでの労力対効果を総合的に考えると、一生育てる機会がなかったとしても悔いることのない花だと思われる。

 

20 days after polination.

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ビニールハウス内で雨に当たらぬよう注意しながら栽培したが、高温と高湿度のためか、交配後20日目に花茎が腐って倒れた。果実を切り開いて確認してみたところ、種子はすでに着色していた。稔性は低かったが有胚種子に関しては胚はもう十分に発育しているように思われた。データ収集のため播種してみたが、発芽するかどうかは現時点では不明。暖地だと親株が花後に枯れる率が高まるようなので、今後どうなるか観察したいと思う。

Chloraea chrysantha

from Chile.

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知人宅で栽培されている南米チリ産の地生蘭。クロラエア・クリスタータというインボイスネームで輸入されたそうだが、クロラエア・クリサンタではないかと思う。

www.chileflora.com

 

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全体像。上画像の背後の四角いタイルの一辺がちょうど30㎝、草丈は100㎝前後だろうか。日照不足で徒長しているようだが、それを差し引いても鑑賞的な草姿とは言い難い。生長期は冬で夏は落葉休眠するそうだが、花時にはもう葉が枯れはじめるとの事。栽培を失敗しているように見えてしまうので展示向きの花ではないと思われる。

少雨地域の植物なので水気に弱いらしい。雨に当てると腐り、花茎も軟質かつ多汁質で傷みやすく、風にふかれると折れて倒れるという。高温耐性はあるようだが、冬が雨期で風も強い沖縄は栽培適地ではないだろう。

本土の太平洋側で軒下越冬させたという話もあり、低温に弱くはないらしい。しかし雨が吹き込むと腐り、霜に当てても霜が溶ける時の水分で腐ってしまうそうで、屋外では栽培しないほうが良さそう。しかし全日照で加温しすぎず風雪を防げるような環境は、蘭屋の栽培棚には通常は用意されていない。砂漠系植物マニアの低温温室なら育てられるだろうか?

 

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セルフ交配してみたら結実したそうだが、有胚率は30%ぐらいだったという。発芽率はさらに低いだろう。まあ無菌播種で苗を育てても、ごく一部の変な人を除いて需要はないと思う。ちなみに交配から完熟までの期間はかなり短く、30日たたないうちに果実が裂開したそうだ。ただしランの場合、稔性が低く種子量の少ない果実は早期に裂開する傾向があるので、本来はもう少し長いのかもしれない。

 

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こちらは以前、秋の植え替えの時に撮影させてもらった画像。全体的に特大のネジバナという感じ。枯れた花茎の横から複数の新芽が出ているが、これは翌年には開花せず、数年かけて根に養分を蓄積してから再開花するそうだ。ネジバナと同様に、開花すると体力を使い果たして枯れてしまうことも珍しくはないそうだ。複数の株を導入したが殖えていくよりも枯れたり腐ったりするほうが多く、鉢数は年ごとに減っているという話だった。

世界的に見てもほとんど栽培されていない属だが、性質を聞くと誰も育てていない理由がよくわかる。こういうものは見るだけに留めておくのが賢いと思う。

*関連記事 ↓

Musa balbisiana?

in Okinawa island.

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熱帯アジアが原産とされる、食用バナナの元となった原種品種群の一つ。沖縄では繊維採取用に栽培され、イトバショウと呼ばれている。ただしイトバショウというのは繊維用バナナの総称で、別種のMusa liukiuensisも同じくイトバショウと呼ばれる。

栽培者も用途が同じであれば特に区別せず栽培しているようで、「イトバショウ」で検索すると両者の学名が入れ違っていることも珍しくない。

画像の種類はフィリピン・インド原産のbalbisiana種のように思われるが、マレーシア原産のacuminata種と酷似していて正直よく判らない。管理人は専門外なので種名については断定を避けておく。ネットではイトバショウはMusa acuminataであると紹介されている例も多いが、(この記事も含めて)内容を素直に信用してはいけない。

花茎の基部に近い部分が雌花、つまりバナナになる部分で、先端に近いほうに雄花(画像参照)が咲く。原種balbisianaの実も食べられないことはないが、しっかり追熟させないとエグ味があり、本土のアケビの実のように果肉が薄くて大量に種子が入っているため通常は食用にしない。

原種バナナは自家不和合なので2系統以上が植栽され、なおかつ受粉昆虫(あるいは受粉コウモリ、受粉鳥)がいないと結実しないようだが、果実用種では単為結実品種(受粉しなくても実がなる)が発見され株分けで各国に広まったようだ。ちなみに現在日本で流通している生食用バナナは、ほとんどがacuminataの3倍体(=種無し)大果・単為結実品種らしい。

 

Musa spp. in Okinawa island

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こちらは通称「島バナナ」と呼ばれる食用種。

明治時代に、ハワイ(推定)から小笠原諸島を経由して導入されたものだという。acuminataの2倍体・単為結実品種であるという説明を見たことがあるが、裏付けがとれる文献をまだ確認できていない。

3倍体品種の「普通のバナナ」は耐寒性がやや劣るため沖縄本島では美味しい実が採れないらしく、矮性品種の「三尺バナナ」を除いて栽培はほとんど見かけない。一方で島バナナは家庭果樹としてしばしば庭や畑に植えられている。熟した実はいわゆるモンキーバナナと外見的にほぼ区別がつかないが、上品な酸味と濃厚な甘みがあり格段に美味。残念ながら病害虫に弱く、生育が遅いうえ台風で倒伏しやすいため商業的に量産するのは難しく、需要に追い付いていないようだ。最近はネット通販でも人気商品らしいが、買うのを躊躇する値段である。

ちなみに近年、ミカンが栽培できる地域なら屋外越冬できる半耐寒食用バナナの苗が国内流通するようになり、沖縄でも徐々に栽培が広がってきている模様。ネット情報だと「実は小さいが酸味があって甘みも強く、食感がモチモチで独特」だそうだ。通販ではもう見かけるようになりはじめたが、まだ購入したことは無い。

*他の熱帯果樹の記事は最上段「Fruits」タグをクリックしてください。

Amitostigma lepidum 'pale blotch'

(Amitostigma lepidum 'Blotch form' X 'Eikou') X self.

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(オキナワチドリ大点花×淡点花「栄光」)×セルフ。

画像個体の親株(F1個体)は多少斑紋が大きめな以外、ほぼ標準花。その花をセルフ交配した孫世代が画像個体。今年はまだ全個体が開花していないので、遺伝性については明確ではない。が、どうやらF2で普通の紅点花と淡点花に分離するっぽい。(追記 セルフ実生で分離比3:1、淡点との戻し交配で1:1)

検定交配の結果を見ると淡点形質は多因子遺伝でなく、単独遺伝子による劣性遺伝のようなので育種はしやすい。イワチドリのピンク一点花のようなものが、時間をかければ作れるだろう。

しかし残念ながら、管理人には新しい形質を洗練させていく余裕はもう残っていない。誰かにバトンタッチしたいのだが、興味を持ってくれる育種屋は残念ながらいないようである。