Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Amitostigma lepidum 'pale blotch'

(Amitostigma lepidum 'Blotch form' X 'Eikou') X self.

f:id:amitostigma:20170417104842j:plain

(オキナワチドリ大点花×淡点花「栄光」)×セルフ。

画像個体の親株(F1個体)は多少斑紋が大きめな以外、ほぼ標準花。その花をセルフ交配した孫世代が画像個体。今年はまだ全個体が開花していないので、遺伝性については明確ではない。が、どうやらF2で普通の紅点花と淡点花に分離するっぽい。(追記 セルフ実生で分離比3:1、淡点との戻し交配で1:1)

検定交配の結果を見ると淡点形質は多因子遺伝でなく、単独遺伝子による劣性遺伝のようなので育種はしやすい。イワチドリのピンク一点花のようなものが、時間をかければ作れるだろう。

しかし残念ながら、管理人には新しい形質を洗練させていく余裕はもう残っていない。誰かにバトンタッチしたいのだが、興味を持ってくれる育種屋は残念ながらいないようである。

Macropodus opercularis

Paradise gourami fish with Ryukyu Glass.

in Okinawa island.

f:id:amitostigma:20170403150813j:plain

 今回は植物の話はちょっとお休みして番外編。琉球ガラスの金魚鉢で飼育中のタイワンキンギョ沖縄本島の民芸品店にて。

 飼育システムとして見た場合にはツッコミ所しか見当たらないのだが、琉球ガラスに沖縄織物のコースター、泳いでいるのは(後述するが)琉球文化と関係深いタイワンキンギョ・・と民芸店のインテリア設定としては非の打ちどころが無い。こういうのは否定すべきなのか賞賛すべきなのか、非常に悩ましい。

 タイワンキンギョ(英名パラダイス・グラミー、パラダイスフィッシュ)は台湾のほか、中国南部や東南アジアに広く分布する野生淡水魚。画像はまだ幼魚なので地味だが、オスの成魚は成長するとメタリックで派手な色調に変化する。

paradise gourami - Google 検索

 日本ではアジア各国で養殖された基本種、および黒色素欠損変種(アルビノ)がガーデンセンターなどにもしばしば流通している。海外では「スーパーレッド」とか「フルメタルブルー」とか、気合の入った選別育種をしているマニアもいるようだが、日本ではアルビノ以外の選別品種はほとんど見かけない。

 沖縄では少なくとも琉球王朝時代から野生棲息していた記録がある。しかしメダカ、フナ、タウナギなど沖縄産の他の淡水魚はDNA解析で沖縄固有の個体群であることが確認されているのに対し、タイワンキンギョは調べられた範囲では海外の個体群と差異が見つかっていないようだ。そのため在来魚ではなく、古い時代に移入されたものではないか?とも言われている。

 他の陸地と地続きになったことのない海洋島の南大東島でも棲息が見つかっているそうだが、純淡水魚が陸地から360kmも離れた絶海の孤島に自然分布しているわけがない。常識的に考えて野外投棄された野良タイワンキンギョだろうし、沖縄本島の「野生個体」も近年に放流されたものが多そうだ。まあ各種の熱帯魚が野外放棄されてガンガン定着繁殖している沖縄の現状からして、仮に在来個体群がいたとしても放流された輸入系統と競合・交雑して消滅していそうな気がする。

 成熟したオス個体は縄張り意識が強烈で、自分と同じぐらいの大きさ、もしくはそれ以下の大きさの魚には攻撃をしかける。同種のオス同士だと互いに攻撃しあって、時にはどちらかが命を落とすことさえあるという。この性質から沖縄では「闘魚(トーイユ)」と呼ばれており、昔の子供は野生のトーイユをゲットしてきて、トーイユオーラセー(闘魚バトル)をして遊んでいたそうだ。聞くところではトーイユをモチーフにした玩具まであったそうだが、それに関しては残念ながら管理人は実物を確認できておらず、どんなものなのか画像すら見たことがない。

 かつてはそれほど身近に親しまれていた生き物でも、今では名前を知らない人のほうが多くなっている。なんとも寂しいことではある。

世界らん展2017

monthly 'Horticulture of Japan' 04/2017

f:id:amitostigma:20170316155257j:plain

月刊「園芸JAPAN」(エスプレス・メディア出版)2017年4月号を購入。2月に開催された東京ドーム蘭展の速報記事に、オキナワチドリが日本の蘭部門で入賞したと書いてあった。

 f:id:amitostigma:20170316155314j:plain

連載「寝ても覚めても羽蝶蘭」では、番外編として入賞者本人が書いたオキナワチドリ栽培の解説文が掲載されている。沖縄では参考にしづらい部分もあるが、本土の方には役に立ちそう。(全文掲載はマナー違反なので、意図的にボカシをかけた

入賞花のオキナワチドリ「渚(なぎさ)」という品種については一度も名前を聞いたことがない。知人が会場で撮影していたというので、画像を送ってもらった。(転載許可済)

Amitostigma lepidum 'Nagisa' J.G.P. First Place.

f:id:amitostigma:20170316155409j:plain

多少は大点っぽいが、きわだった特徴は無い。どういう品種なのか調査を進めたところ、大点花の自生地で20年ほど前に採集され、選別個体と対比するための同産地・標準花サンプルとして、無銘のまま延々と栽培され続けていた個体だそうだ。今年、出展にあたって初めて個体名をつけたという。そりゃ名前を聞いたことが無いわけだ(笑)

というか出品者は選別個体も多数所有しているのに、わざわざ標準サンプルを選んで出展し、しかもしっかり作りこんで入賞させてしまうとは変態 素晴らしい栽培技術だと思う。こういう栽培者がもっと数多くいれば、オキナワチドリも安泰なのだが・・。

同じ栽培者による出品。こちらの品種は交配選別実生の濃色無点花。

Zizyphus mauritiana

Indian Jujube fruits, cultivate in Okinawa island, Japan.

delicious.

f:id:amitostigma:20170315102709j:plain

インドナツメ。インド原産の果樹で、最近になって沖縄で栽培されはじめた。生産量はまだ少ないようで、観光客の来る土産物店の高級フルーツ売り場などでしか見かけない。けっこう良い値段で売られている。

blog.goo.ne.jp

f:id:amitostigma:20170315102720j:plain

沖縄で生産されている品種は小ぶりのプラムぐらいの大きさ。中心に種が1個あるがプラムのように薄くはなく、ピーナツを大きくしたような円筒形。

皮は薄く、洗って皮ごとサクサク食べられる。リンゴをジューシーでなめらかな舌触りにした、あるいは少し固めの洋ナシからザラザラした食感をすべて除いたような感じ。リンゴと同様に生産者によって味の当たり外れがあるようだが、おちついた甘みと、ほどよい酸味があって食べやすい。

亜熱帯果樹だが、霜に当てなければ越冬できるようだ。本土でも柑橘類の営利栽培ができる地域なら(品質はともかく)栽培可能ではあろう。沖縄であれば気候的には露地栽培でまったく問題ないはずだが、実際には鳥害が激しいのでハウス栽培しないと駄目らしい。

台湾ではインドナツメは重要な農業生産品になっているようで、品種改良も盛んに行われている模様。台湾の果実直販サイトを見ると、「薄皮優選!爆汁!清香甜蜜!幸福的滋味!」と売り手の熱気がムンムンである。味は判らないが、青リンゴと見間違えるぐらいの巨大果もあるようだ。

青棗新品種:高雄11號「珍蜜」http://www.jujuba.tw/wp-content/uploads/2015/03/IMAG7355.jpg

台湾には大害虫のミカンコミバエがいるため、果実類の日本への輸入は一部を除いて禁止されているが、今年から低温殺虫処理をする条件でインドナツメの輸入が解禁になった。

台湾産インドナツメ、日本へ輸出可能に 7年越しで実現 | 社会 | 中央社フォーカス台湾

今後は本土のスーパーなどでも見かける機会があるかもしれない。

・・ただ、沖縄産も台湾産も、販売には苦戦しそうな気がする。日本人は青い果物というものになじみが薄く、赤くないと売れゆきが悪い。真っ赤なドラゴンフルーツは味的には辛味の無いダイコンと大差ないが、外見だけでスーパーで売られるまでに定着した。(追記:日本で売られている輸入品は日持ちする状態のうちに収穫しているので甘くないが、優良品種を樹上で割れるまで完熟させたものは別物と言えるほどトロピカルな香りで甘いらしい)

一方で味覚的にはフルーツの中でも上位に属すると思われるフェイジョアホワイトサポテ(どちらも緑)は「何それ?」と言われるぐらい普及していない。まあ、緑色のイチゴが売っていたら買うか?と考えていただければ想像がつくだろうか。

(2022年追記。その後シャインマスカットの台頭でこの常識が破られた模様)

インドナツメは味覚的には優良果実だと思うし、沖縄の新しい産物になってくれれば良いのだが。

Amitostigma lepidum in Orchid Show.

オキナワチドリ「紅蜻蛉」。某所の洋蘭展にて。f:id:amitostigma:20170313155900j:plain

f:id:amitostigma:20170313155937j:plain

拝見させていただいて、少々驚いた。これを育てている方がいたのかと。

この「紅蜻蛉」という品種は、今は亡き師匠が20年ぐらい前(だったか、正確には記憶していない)頃に野生個体群から選別命名したもので、自生地はすでに消滅している。

師匠が増殖して本土の数名の趣味家に送ったようだが、見た目がやや地味で人気が低かったこと、性質があまり丈夫ではなく限られた人しか育てられなかったこと、などの理由からほとんど普及しなかった。発見されてから長く経っているが、栽培している方はゼロに近いと思う。

管理人も所有しておらず、もしかしたら沖縄で栽培されているのはこの一鉢だけかもしれない。しかしまあ、普通の人は説明されなければ「たいした花ではないな」と素通りするのは間違いない。

しかしながらオキナワチドリは世界中で南西諸島にしか無い固有種。しかも画像のような唇弁の斑紋がはっきり目立つ「大点系」のオキナワチドリは沖縄本島以外ではほとんど見つかっていない。共感を得られるかどうかは別として、沖縄を代表する貴重な品種だと主張しても、それほど異論はないと思う。

が、沖縄本島の自生地は近年になって急激に消失が進み、管理人が把握している限りでは大点系の自生地はどこも現存していない。いわゆる「並物」ですら10年後に確実に残っていそうな場所が見当たらない。おそらく近い将来、本島の個体群は絶滅するだろう。

現在、栽培下にある個体は沖縄個体群の貴重なサンプルとして保存していくことが望ましい。が、実情としては保存栽培に興味を持っている趣味家は皆無に近く、植物園などでも、栽培に労力を必要とする地生蘭類を保全する余力のある施設は無い。

ナゴランのように活着してしまえば放任しても生きている、というものであれば栽培個体だけでも残していくことができるのだろうが、オキナワチドリに関してはどうにもならない。消えていく最後の時を、せめて記録に残していくことしかできそうもない。

野生種と園芸種の比較

Wild form, Okinawa island, Japan.

f:id:amitostigma:20170306160621j:plain

 オキナワチドリ沖縄本島型。研究者の方から標本用サンプルを分けてもらったもの。

 画像個体の自生地点はかなり荒廃していて、数える程度の個体数しか無いらしい。近交弱勢が進んでいるのか性質は非常に虚弱。3年間育てて肥培しまくったが、この程度までしか大きくできていない。

 「野生個体なら、大きさ的にこんなものでしょう」とおっしゃる方がおられるが、野生由来でも強健な個体であれば肥培すれば毎年どんどん大きくなる。(ただし沖縄産の場合、大きくなれない虚弱な個体も多い。慣れない人がそういう野生個体を入手した場合、育てるのはまず無理)

 

...and Horticulturized strain.

f:id:amitostigma:20170306160640j:plain

 実生選別個体と対比してみた。同じ育て方をしているのだが、ずいぶん大きさに違いがある。パンジーの原種と、園芸種の小輪パンジービオラ)ぐらいの差だろうか。

ちなみにパンジーの原種というのは ↓ こういう感じ。

https://www.discoverlife.org/mp/20p?see=I_MWS117810&res=640

© Copyright Malcolm Storey 2011-2118

Malcom Storey/Discover Life.org

(画像は上記リンク先からの引用。リンク先に撮影地などの情報あり)

 原産地ではそのへんに生えている「雑草」であっても、きちんと育種すれば驚くような変化がある。パンジー原種からは超巨大輪パンジーが作出され、ラビット咲き・日本色ビオラなどの山野草的な魅力をもつ新品種が登場、今も新しい進化が広がりつつある。オキナワチドリも潜在的には同様の発展性があるだろうとは思う。

f:id:amitostigma:20170306160652j:plain

 が、オキナワチドリは栽培条件が悪いと、野生型と同程度のサイズに縮んでしまうのが致命的。

 上画像の向かって左が野生個体、最右が交配選別個体。そして真ん中は右と同じ品種。生育状況が良くないと、大輪系でも野生型と同じ大きさになってしまう。状態によって花の大きさが変化するのはウチョウランやイワチドリでもまったく無くはないようだが、ここまで顕著ではない。

 ネットなどで検索してみると、オキナワチドリの栽培をしている方は少なくはないようだ。しかし「本芸」を見たことのある趣味家は稀だろう。

 大輪系統の実生は並サイズの実生と混ぜられて「実生混合」という商品名で売られている。大輪に咲かせるスキルを持つ人がいなければ、目の前にあっても判らない。最大限の実力を発揮させる栽培環境を作ってやらなければ、本当の姿を知ることはできない。

 千里の馬は常に在れども、伯楽は常には在らず。「天下に馬無し」嗚呼それ真に馬無きか。

Amitostigma lepidum 'blotch form'

seedling.

f:id:amitostigma:20170223155508j:plain

オキナワチドリ実生。

最近は業者が販売している大点花実生の混合ポット苗の中に、この程度の個体が普通に混じっている。一昔前であれば命名品種になっていたと思うが、現在の基準では名も無い実生の一つにすぎない。

しつこく何度も書いているが、オキナワチドリは栽培環境が悪いと花のサイズが極端に小さくなる。大輪血統でも無加温・無肥料・無消毒・日照不足などの悪条件下で育ったものは標準花と区別がつかない。