Amitostigma’s blog

野生蘭と沖縄の植物

Spathoglottis X parsonsii (with Thrips.)

in Orchid show.

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スパソグロティス・自然交雑種パーソンシー。某蘭展にて撮影。

フィリピンで常緑種コウトウシランSpathoglottis plicata と落葉種Spa. vanoverberghiiの混生地に見つかるランだそうだ。ただし栽培流通品は日本のエビネと同様に交配親が判然としない個体が多いようで、花色も白や黄色に近いものからサーモンピンク、赤紫、画像のような複色花、覆輪花など多彩らしい。バリエーションが豊富すぎて、2種間の単純な雑種と思えない感じもする。

 

で、画像個体だが、よく見たら害虫のアザミウマ(スリップス)がついていた。

アザミウマは虫体が微細、しかも幼虫だと半透明なので、注視している時にたまたま動いたりしない限り存在に気がつかない。おまけに花の奥や苞の裏側など、非常に判りにくい場所にもぐりこんで隠れていたりもする。濃い色の成虫がたまたま見える場所に出てきているような場合を除けば、いると思って探してもそう簡単に見つからない。

ランの新芽や花弁にかすれたようなシミ(上画像参照)が出て、アザミウマがかじった食痕だと気づかずに「これは何だろう?」と首をかしげているとそのうちにかじられた部分から周囲全体が茶色く枯れはじめる。そうなってから大慌てしてももう手遅れ。アザミウマの事を知らない人だと、謎の伝染病にかかったと思って一所懸命に殺菌剤を撒いたりするが、言うまでもなく無駄である。

上画像を見て「どれが虫?」とか思った方は画像検索して情報収集し、実際に遭遇した時にしっかり認識できるようにしておくべし。こういう拡大画像で見ても言われないと判らないような大きさだから、実物サイズだと虫の存在に気付くのはさらに難しい。しかも成虫は跳ねるし飛翔するので、直接の接触が無くても近くの鉢から「伝染(うつ)る」のである。ただちに適切な対応をとらないと作場は地獄絵図と化す。

大型で固く、生育の早い植物であれば食害の影響もそれほどではない。しかし植物体が小型で軟質、かつ生育も遅いオキナワチドリなどにアザミウマが発生すれば、被害は甚大だ。対応が遅れると新球根ができる前に食害で枯れてしまうし、放置すれば棚ごと全滅する。しかも最近はアザミウマに農薬抵抗性の系統が増えているらしく、農薬を予防散布していても発生してくることがある。数種類の薬剤を常備しておいて、発生時にどれが効くか確認しつつ使用せねばならない。アザミウマはウイルスも媒介してくれるので、管理人的には「地獄の使い」と呼びたくなる大害虫である。

東京の知人宅ではサギソウの被害が特に顕著で、毎年必ずと言ってよいほど花蕾や新芽が食害されてしまうそうだ。確実に防除しないとサギソウの花を見ることは不可能になっていると嘆いていた。 

Lobelia loochooensis

from Amami island, Kagoshima pref., Japan.

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マルバハタケムシロ。奄美と沖縄に分布する希少種だが、沖縄本島ではすでに絶滅したと聞く。

冬期に加温が必要(最低でも10℃くらい。短期間の低温には耐えるが、周年生長型で、低温で生長が止まった状態が続くと調子を崩して腐る)なことを除けば栽培はそれほど難しくない。稀ではあるが、増殖個体が山野草として流通することもある。しかし植物体が小型で、客観的に見れば雑草の域を出ない。

よく似た草姿の園芸植物として、ニュージーランド産のPratia pedunculata, P. angulata,熱帯アジア産のP. nummularia などが流通しているが、観賞価値ではそれらのほうが優れている。まあ、よほど物好きな人でないと本種をわざわざ栽培対象には選ばないだろう。

奄美大島の自生地の一つは観光客が来る景勝地の一角だそうだが、盗掘していく人は誰もいないらしい。植物にとっては良いことだが、存在に気づいてもらえず無視されるのも何だかなあ、という感じではある。

Luisia teres var. botanensis

 from Yonaguni island, Okinawa, Japan.

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 タカサゴボウラン。与那国島産の親個体から実生増殖したという苗を、沖縄本島の洋蘭業者からまとめて購入した。今年になってほとんど全部が開花したが、花はどの株もおおむね似たような感じ。

 購入したものの中で一番多かったのが上画像のような花。唇弁にリング状の模様があり、唇弁先端だけが緑色になる。

  おそらく同一の親から採種した実生姉妹だろうから学術サンプルとしては不適切で、「これがタカサゴボウランの標準タイプである」と言うことはできない。が、ネットで画像検索しても似たような花が多いように思う。

 

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こちらは唇弁のリング模様が不明瞭で、唇弁先端の突起がやや短い。

 

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 こちらは唇弁先端の突起がほとんど無い。これらの差は個体ごとに固定しているようで、同一株には同じような花が咲く。ただし、咲く時の気候によって年ごとに花の模様などに若干の変化がみられるような気がする。(観察例が少ないので確信が無い)

 

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こちらは緑の模様が強く出たタイプ。出現率は低かった。

 

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ベタ一色より、模様が入ったほうが面白味がある気がする。

 

 本土のボウラン、沖縄本島のボウラン、八重山タカサゴボウラン、台湾のタカサゴボウラン・・若干の差異はあるが、外見的には同種内の変異の範疇ではあると思う。むろんDNA解析したら完全に別種だと判断されることも十分ありうるが。

 分布が広くて個体群ごとに明確な違いがあっても、区別されずに一括して××ランという扱いになっていると地域変異は見向きもされない。ところが学者先生が区別し、独立種として名前をつけるとマニアのコレクション対象に昇格し、値段が一気にはねあがる。

 偏見かもしれないが、野生ラン趣味家には栽培を通じて個体ごとの「個性」を理解していくことには興味がなく、図鑑の名前を見ながら生体コレクション遊びをするのが目的の方が多いように思える。コレクションなので「日本産のラン」という縛りを自分で勝手に設定し、沖縄産のランは欲しがるのに台湾産のランは見向きもしなかったりする。

 本種も一時はコレクトアイテムとして高額で売買されていた時があり、金銭目当てで自生地が荒らされるのではないかと危惧された。が、幸いにして一部のマニアだけの需要に留まったようだ。沖縄で実生苗が生産されていることも知られるようになったためか、最近ではネットオークションなどに出ても無競争で落札されているようだ。

 こういうマニア向けのランは希少性が薄れると栽培者が大事にしなくなり、いつの間にか消えて無くなってしまうことが多いので、あまり値段が安くなるのもそれはそれで問題なのだが・・

Cirsium brevicaule

in Okinawa island, Japan.

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シマアザミ。本土に分布するハマアザミの沖縄型。

白花は珍しい・・と本土の方は思うようだが、沖縄本島の個体群はほとんど全部が白花。ネットで情報収集してみたところハマアザミ類は本州から九州、奄美までは淡紅色~ピンク色が基本で、徳之島や与論では白がほとんど、宮古島ではピンク、八重山諸島では淡紅色が多いようだ。

これらを別種として分類するか、同種内での変異とみなすかは諸説あるらしく、DNA解析でもしないと判断できないので詳しい分類は学者先生におまかせしたい。現在のところ本州・四国・九州の個体群をハマアザミ、鹿児島から屋久島・種子島がオイランアザミ、吐噶喇列島・奄美諸島沖縄諸島がシマアザミ、宮古八重山諸島をイリオモテアザミとして分類しているのが主流だろうか。

ちなみに食用として秀逸。独特の香りがあるので春菊やゴボウが苦手な人は駄目だろうが、個性を生かして上手に調理されたものは非常に美味しい。ただし生植物に強烈なトゲがあり、食べられるようにするまでが容易ではない。「こいつを食う!」という強い意志が無いと採取段階で挫折する。

一部の集落で伝統行事の食材になっているが、食用として日常的に使うのは労力と釣り合わないようだ。

Staurochilus luchuensis

in Orchid show

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イリオモテラン。某蘭展にて。

日本国内に自生する着生蘭の中では最大級の種類。自生地は石垣島西表島尖閣諸島魚釣島、台湾、フィリピンなど。(フィリピンのものは別種とする場合もある)

琉球王朝時代から園芸用に採取され続け、沖縄の野生個体はほぼ絶滅状態。山奥の高い木の上に細々と生き残ってはいるらしいが、体力の無いジジイが見に行けるような場所ではないようだ。

短時間であれば5℃くらいまで耐えるので、分布域外の沖縄本島でも屋外で栽培できる。洋蘭業者が実生増殖して苗を販売しているので入手も容易で、ヘゴ付けにして庭先につるしてあるのをよく見かける。

本来は周年連続生長タイプなので、低温にさらし続けて生育を止めてしまうと調子を崩す。本土だと室内で越冬はできても、生育適期が短かいので良い成績になりづらいようだ。基本的には温室内でしっかり加温しないと貧相になってしまうので、どちらかというと上級者向けの植物だろう。しかし沖縄では異常低温の年でなければ放置状態でも普通に育って花が咲くため、むしろ初心者向きのランになっている。

 

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ピンボケだが、こちらは某植物園で栽培されていた魚釣島産のイリオモテラン。こういうものを殖やして販売すればマニアが飛びつくだろうと思う。

尖閣諸島は野良山羊の食害で島が丸禿げ、高木が実生更新できなくなって着生植物も存続の危機にあるらしい。とは言っても、あそこの島はまあアレなので、個人が騒いでもどーにもならぬ状況ではある。

Nostoc commune

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本日のテーマは陸棲藍藻イシクラゲ。自生写真がグロ画像に近いので最後に回し、サムネイル表示用に「沖縄島豆腐のカプレーゼ」の画像を貼っておく。

美しい花の画像を見に来た、という方は今回の記事はパスして次に行きましょう。

 

 

ということで本題。

イシクラゲと言っても判る方のほうが少ないと思うが、日本全国に分布しているコケっぽい植物。ぶっちゃけて言うと雨の後でグラウンドの芝生の隙間に見つかる、緑色でゼリー状の謎物体。

沖縄には昭和の頃まで、それを食す習慣があった。

 

・・はい、気持ち悪いと思った人はここで閉じましょうね。

 

続けます。

 

沖縄ではモーアーサ(野アオサ)と呼び、大正時代まではハレの日の食材として重箱に詰める料理の一つにもなっていたという。が、採集や調理に手間がかかるためしだいに利用されなくなり、それでも昭和末期まで細々と市場で売られていたが、最近は売品をまったく見かけなくなった。

管理人も若い頃に郷土料理店で食したことがあるが、味は意外と悪くない。

portal.nifty.com

www.dee-okinawa.com

 

人工培養して宇宙食に利用しようという動きもある。

www2.smsi.co.jp

ダイエット効果やデトックス作用、抗癌効果、抗ウイルス効果などもあるスーパー食材だとも言われ、注目度は急上昇している。ただし農薬や重金属、セシウム、犬のフンなどを吸収蓄積している事もあるらしく、採集場所はよく選ばないと駄目なようだ。

 

最後にイシクラゲの画像。沖縄本島北部にて。

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・・最初に食べた人は勇気あると思う。

Ajuga pygmaea

in Okinawa island, Japan.

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ヒメキランソウ沖縄本島植栽。

九州南部から沖縄、台湾に分布する多年草。大輪で見栄えの良い系統が増殖され、グランドカバープランツとして販売されている。選別品は沖縄各地で植栽されているが、野生の地味な個体はほぼ絶滅状態のようで、離島などに細々と生き残っているだけらしい。

沖縄本島では、個人の庭先でせいぜい畳1枚分ぐらいまでの植栽が大部分だと思うが、ネット検索すると石垣島の某公園で紫色の絨毯のように広がっている画像が見られる。

 

alba form. in Okinawa island.

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こちらは純白花。この他にピンク色の品種もあり、三色とも園芸流通がある。ただし常時販売されているものではなく、揃って販売されている時を逃すと全色集めるのは意外と時間がかかる。

鉢栽培も可能だが、どんどん横に伸びて鉢から飛び出してしまうので、綺麗にまとめるのが難しい。また古株が老化しやすく嫌地も激しいようだ。鉢植えの場合、こまめに移植しないとすぐに衰退し、油断しているといつのまにか枯れて無くなってしまう。プランター栽培のほうが良いかもしれないが、本土では大きいと冬期の管理が不便だろう。基本的には暖地で地植えにし、広面積で育てて楽しむ植物だと思う。